第9話『モノクロイベント』

俺は自分の部屋の天井を眺めていた。ベットから仰向けで見える白い天井の角隅は少し黒く汚れていた。寝返ってパソコンのモニターを見ると、スリープモードにしていたにも関わらず画面がついた。自分の寝返った反動でマウスが振動したのだろう。デスクトップの壁紙は色鮮やかな絶景だが、この場所を知っているようで知らない。……最近このような気持ちというか、気分が多くなった感じだ。

 ……あの機械によって色が見えるようになるのは一時的だ。脳に色の情報を送っているが、なぜか時間が経つと尽きる。こんな感じでなんでも疑問に思うと、研究が大変になるからあまり考えないでおくようにしてる。





 しばらくぼーっとしたあと体を起こしてパソコンのパスワードを入れ、メールを確認した。しかし新規のメールは無かった。やることを変えてデスクの上の資料を少しだけ整理し始めた。

(うわ、結構前のやつ混ざってんじゃん。棚に入れないと……)

 それは『モノクロイベント』について記されたレポートだった。俺は資料を持ってゆっくりと椅子に座った。


 ………………

 …………

 ……

[6年前に発生した現象について]

 著者:オーロラ博士

 作成日:2338/05/25


 我々財団は2332年の五月ごろ発生した現象、及び事象を『モノクロイベント』と名付けました。通常、私たちの研究能力であればすでに仮説や原因の解明を済ませているところですが、何せ、色覚が判断できないもので行動が非常に難しく不効率な日々が続いています。そんな中、現在まで確認できた報告を以下にまとめます。


『現在までの報告』

――世界の全土にて同時刻無遅延で『色覚が消える事象』(以下、この事象を『イベントA』と呼称する)が発生した。

――『イベントA』は徐々にではなく、瞬時に発生した。

――『イベントA』の発生から約72時間後、科学都市圏にて未確認生物が発見される。後日、我々はこの生物を『カラーモンスター』と称した。

――『イベントA』の発生から約120時間後、防衛隊が出動。

――『イベントA』の発生から約336時間後、科学都市圏、並びに派遣された防衛隊も壊滅。原因はカラーモンスターの凶暴性と思われるが、現在も調査が続いている。

――『イベントA』の発生から約504時間後、日本政府が崩壊。防衛隊本部が出動するも、色覚の消失やカラーモンスターの異質な能力に対応できず。その後、カラーモンスターは北南へと進行し日本全体に活動を広げた。

 ………………

 …………

 ……


(………………)

 この後も報告が書かれている。俺はしばらく資料に目を通していた。しかし気になったのは最後の文だ。


 ………………

 …………

 ……

『イベントA』だけでなく、『イベントA』とカラーモンスターによる侵略を総称して『モノクロイベント』と呼称する手続きをしております。

 ここまでレポートをまとめましたが、実のところ、この部門の担当者はアントニム博士でした。しかし、彼の失踪により急遽、他部門の私が代理を務めています。次回から新たに新設された『モノクロイベント』の調査部門の担当者モーメント博士にレポートの執筆をお願いしております。

 最後に、失踪前のアントニム博士から伝言を預かっていました。以下がその伝言です。


『……真実に近づきたければ、マクロを探せ。』


 これに何かの意味合いがあるかも知れませんが、あいにく私の専門外なので残念ながらお力添えできません。

 ――以上


 ………………

 …………

 ……

 もちろんモーメント……あの博士が最初の担当者ということも驚きだが、アントニム博士の『伝言』が気になった。

(『マクロ』を探せ……)

 果たしてその『マクロ』は暗喩かそれとも何かの部品の類か。とりあえずこの情報だけでは何も得られそうにない。

 俺はこの資料をバインダーに綴じ、そうっと棚に戻した。

「はあ……」

 目を凝らして文章を見続けたからか思わずため息が出しながら背伸びしてしまった。

(いやいやのんびりしてる場合じゃなかった。資料をまとめないと……)

 一瞬だけモニターに目をやると、一度つけたはずのパソコンは再びスリープモードになっていた。





【あとがき】

読んでくださりありがとうございます。

少し不穏な話でしたが、実際こんなモンじゃないです(笑)

次回からは新エピソード!急展開です!お楽しみに!(by 猫神くん)

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