第7話『一人よりも多く、孤独よりも愉しく』
シバが狐のような姿となって周りから炎ともに熱風が溢れ出す。それはバリアをも貫通して防衛隊を大きな炎で囲んだ。
一時的に姿を変えて身体を強化する特異体質は数あるが、水や土などのあらゆる物質、元素と掛け合わさった状態……シバのように『炎』という概念を扱えながらもこのような状態になれる者は多くない。そして、これが彼のイデクラ……『狐火』である。
「いっ息が……!?」
「服にっ!!火が!!」
炎はどんどん広がっていく。
「「ウワァァァァァ!!」」
防衛隊の下っ端たちが燃え尽き、次々と倒れていく。しかし、シバの狐火は燃え尽きる気配すらなかった。
「マジかよ、一瞬で……」
ネムの言う通り、目の前の光景は一瞬にして地獄と化したのである。しかし、隊長らしき人物が熱さに耐えながらもやっとの状態で立っている。
「……シバっ!」
しかし今のシバに容赦する気配はない。シバは周りの炎を中心の隊長に向けて一点、集中攻撃しようとしたその時。
「そこまでだ」
突然どこかから声が聞こえ、シバの動きが止まる。すると、瞬間移動のように……いや『瞬間移動』そのもので声の主であろうもう一人の防衛隊が姿を現す。
シバが力を抑えると炎がたちまちと消え、狐人の姿に戻って笑って呟く。
「ふっ、ここで大佐ですか…」
「ふむ、やはり
シバが『大佐』と名乗る人物は淡々と話し出す。これにはネムと猫神も警戒態勢になる。
「シバ中佐…やはり君は強い。戦闘面に関しては頭も上がらないな」
その男は自分の白髪をオールバックするようにかき上げながらシバを睨みつける。
次の瞬間、生き残った隊員が焦るように突然横から入ってきた。
「た、大佐、助けにいらっしゃったんですかっ……!」
「ふむ、君の部隊はよく頑張った」
「ご期待に応えられず……申し訳ございまs
ピュン!
光線銃の音が響き渡る。
………………
…………
(部下を撃ちやがった……)
しばらくの静寂の後、大佐は口を開いた。
「という訳でシバ中佐、またどこかで会おう。でもきっとまたすぐに会える。……もちろん君達もね」
(ヒッ!?)
最後に大佐は後方の二人に目を合わせ、笑顔のまま瞬間移動でその場から去る。その視線に猫神は少し鳥肌が立った。
「シバ……」
ネムが虚しそうなシバを見つめながら言った。
「そうだね、俺は防衛隊に戻るつもりはないよ」
「じゃあシバさんはこれからどうするんですか?」
「どうしようかねぇ……」
その様子を見てたネムが何かを企んだ様子でシバに尋ねる。
「そうだ!ならシバさんもうちらの研究チームに加わってくれないか?」
「えっいきなりですか!?」
……シバは過去の記憶を頭の中で巡り返す。孤独の自分、仲間のいない自分を。そして『あの日』の夢を……
シバは何かを覚悟したように力強く返答した。
「もちろんだ、俺を『仲間』にしてくれ」
その時、ネムと猫神は初めてシバの真の笑顔を見たのかもしれない。それはまるで、『何か』が放たれたような笑顔であった。
「「赤の情報を採取……完了しました」」
ネムは携帯でコアを吸収し、今回の任務を終わらせた。
「「任務お疲れ様でしたー、では、車まで戻ってください。あっ、シバさんの件はさっき博士に伝えておきました」」
シバのことはどうやらゼータが気を遣って先に連絡したようだ。
「ではでは、車に戻りますか」
「はぁ、戦闘で疲れた後に運転かよ……」
ネムが行き時と変わらず、帰り時も弱音を吐いた。
「なら、俺が運転しようか」
「シバさん運転できるんですか?」
「防衛隊でたまに車両を扱ってたからね」
「うんじゃ、頼むわ」
猫神はネムの遠慮のない言動に少し引いた。
しばらくして駐車場に戻ると、ゼータが待っていて驚くようにシバを見た。
「お…威圧感がありますね…軍服だし…」
ネムと猫神は共感するように静かに頷いた。
「そういえばクロ、ここから拠点までどのくらいある?」
「あっ、あぁ……50㎞ぐらいかな」
(さっき歩きながらニックネームはシロクロネムって自己紹介したけど、まさかそこから取って『クロ』呼びだとは……)
ネムは少しだけ困惑した。
全員が車に乗って、ネムは助手席から運転席のシバに車のキーを手渡した。シバは座席とその周りを調整し、エンジンをかけ、ハンドルを持った。
「50㎞か……ふふ、ならぶっ飛ばすしかないね!」
「「「えっ?」」」
三人は
ブォォーーーーーン!!!
「ちょちょちょ、シバさん!?こっ、このままだとぶつかるって!」
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」
「大丈夫大丈夫、事故らないから」
「いや大丈夫じゃないって!!」
体感では時速200㎞を超えていた。しかし、シバの加速は止まらない。
……しばらくしてシバ以外の三人は意識を取り戻すと、もうすでに研究所に着いていた。
「……まじか、まさか20分ぐらいで着くとは……」
「さすがですねシバさん、もうやらないでください」
研究所に入ると、どうやらドアが壊れていて中が丸見えになっていた。その奥に博士が立っていた。
「あれ博士、ドアどうしたんだ?てか何かあった?」
「おっ戻ったのか、あーこれはちょっと乱入者が来てなぁ」
部屋中には資料が散乱していて床には靴底の跡がたくさん残っていた。
シバがそれをしゃがんで見るなり気がついて状況を理解し始めた。
「これは、防衛隊の仕業だね」
シバはしゃがんだまま博士の顔を見上げて言った。
「その通りだ」
どうやら予想は的中していたようだ。
「まさか研究所にも突っ込んできたのか?……ていうか大丈夫だったん?」
「さっき海岸で防衛隊の連中と会ったけど厄介な奴らだったぞ。特に
猫神を追いかけてネムは思い出して喋った。
「あぁ大丈夫だ。まとめて『終了』させた」
……博士の一言で場の空気が凍りついた。もちろんシバも例外ではない。
『終了』は、[削除済]関連でよく使われる言い回しだ。そのままの意味である。
(……長い付き合いだがコイツの詳細は謎だ。能力は分からないし所々ポンコツだし、本当によく分からん人だ。)
ネムは首に手を当てて考え込んだ。
「………………」
「エグいですね……」
後ろにいたゼータがそーっと呟いた。
「そういえば、赤の回収は済ませたか?」
「あっ、あぁ…携帯に取っといてあるぞ」
「じゃあ、ゼータ、任せたぞ」
「はっ、はい了解です」
ゼータは駆け足で事務室の方に向かった。話を変えたせいか凍りついていた場の空気が少しだけ
「ではシバくん、君はなんか強いらしいからこの研究チームの探索や戦闘面を補ってもらうよ」
シバは「OK」と受け入れるように頷いたあと、問うように聞き返した。
「そういえばここの研究チームの名前は?」
猫神とネムは顔を見合わせる。
「確かに特には決まってないですね……」
我々の所属する研究機関は大規模だが、自分たちはそのうちのちっぽけな研究部署だ。正直なところ、機関にとってはそこまで重要な
(色を集める部門……色を混合、カラーを、同じ場所に……あ!)
全員が研究室の床を眺めながら黙っていると、ネムが閃いたように語り出した。
「そうだ!俺らは色を取り戻して世界の色覚情報を完成させるチームだろう?なら博士が言ったように世界の『カラーパレット』を完成させるということで……『
「おっそれめっちゃいいですね!」
「ネーミングセンスあるじゃんクロ」
「なるほど…カラパレか…」
この博士、さっそく
「よし決まりだな。今日からこのチームは『COLOR PALETTE』だ!」
「「おおーーー!!」」
皆の団結力が以前より高まり、『COLOR PALETTE』の新たな一ページを刻む。
(あれ?なんか研究室の方から掛け声が聞こえるんだけど……もしかしてボク、はぶられた?(汗))
【あとがき】
第7話、どうだったでしょうか。シバが心強いのはもちろん、何より『COLOR PALETTE』という肩書きが生まれて、話の展開がどんどん進みます。そして、謎多き博士…
次回もお楽しみに!(by 猫神くん)
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