第6話『白荼赤火』

 昔、俺は防衛隊に入っていた。入隊してすぐに実績を重ねていき、わずか3年で2等陸佐に上り詰めた。そして『諜報班』という主に情報収集や潜入、暗殺を任せられた。

 しかし、あの日は突然きた。大地の崩壊、人々の虐殺、そして何よりも全ての原因である『色』の消失。日本政治は崩壊し、我々は『解体令』を出された。それでも俺は生き残り、再結成した部隊に混じった、が裏切られた。なぜ?なぜなんだ?俺は戦力として十分なはず。しかし俺は気づいたんだ。俺の実績や実力はみんなから妬まれていたんだと。でも遅かった。信頼できる『仲間』を作れば良かった。もっと考えていれば良かった。俺は…俺は……


 …………少しだけ忘れていた。俺は混乱した世の中で踊らされるイヌなんかじゃない。……過去に戻ってはならない。このままじゃ、こんな姿を『彼女』に見せられないな……





 ………………

 ズドォォォォン!!

「やったか……!?」

(ネムさん…それはフラグ…)

 高く舞った砂ぼこりが晴れる。

「おい、おるやんけ……」

「いや……マジですかいな……」

 ネムと猫神は目を見開いた。そこには立っているシバの姿があった。しかし、外見から見るに効果はあったようだ。

「予想以上だ……君達は……」

 シバは猫神に照準を合わせた。

「逃げろぉ!猫神ぃ!」

「くっ!!」

 間に合わないと察した猫神は、シバに照準を合わせた。相撃ちか、それとも片方がやられるか。二人が同時に引き金を引く。

 ギィ、ギィィィィィ!!!

「「!!!??」」

 三人が硬直する。猫神とシバの指が止まった。

 鳴き声とともに40mほどある巨大なクジラが海面から顔を出した。それぞれがしばらく見上げた。その背景には澄んだ青い空が2人だけの瞳に映る。

「な、何だこいつ!?」

 ギィィィィィ!!!!!

 クジラは再び爆音のような鳴き声を放ち、三人は耳を塞ぐ。意味はないが一人はヘッドホン越しに……

(なんだこの音は!?)

 海と砂がが揺れる。発せられた音波から衝撃波を生み出しているようだ。

 衝撃が収まると、無線から声が聞こえた。

「「こっ、これは……この前と同じような変異したカラモンだよ!」」

「ならば、コイツの目的は……」

「カラーコアですね……」

 カラモンは源は『色』の情報。そのため、この生物は大きな情報が含まれている『カラーコア』を狙いにいく習性がある。つまりこの近くに、『カラーコア』があるということは検知通りのようだ。

 会話をする二人を見ていたシバが口を開く。

「よし、ここは一時休戦して手を組もうじゃないか」

 この言動に対して先ほどの殺意は感じられなかった。二人は顔を見合わせたのち、ネムが返事をする。

「信用していいのか……?」

「……もちろん。力になるさ」

(いいんですか?ネムさん)

(……仕方ないだろ!こんなところでやり合ってる場合じゃないぞ!)

 二人はまた顔を見合わせから頷くと、全員がフォーカスをクジラの方に向けた。

 シバは軍用の手袋をはめ直す。

白荼赤火はくとせきかってね」





 ………………

 研究所の外に集団の気配がする。これは面倒臭いになりそうだ。

 ズドン!!!タッタッタッタッ……

「防衛隊だ!!手を挙げて投降しろ!!」

 ドアごと蹴り破って、軍服を着た集団が研究室の中にぞろぞろと侵入する。

「ここを『国家反逆』に関わる研究をしている疑いで包囲、並びに占領する!……おい!そこのネコビト聞いているか!?」

 コーヒーカップを持って実験台に寄りかかる博士が口を開く。

「……まだこの世界に、防衛隊とやらがいるんだな」

「おい!手を挙げろ!容赦しないぞ!」

 防衛隊が博士に照準を向ける。博士はゆっくりとコーヒーカップを実験台に置いた。

「……君たちは『四次元』について知っているか?いわゆる『時の流れ』だ」

 博士が話しながら白衣のポケットに手を突っ込む。

「おっ、おい!それ以上動いたら撃つぞ!」

「だがそれはすでに決まった『未来』の道筋に過ぎない。この状況もようするに……『出来レース』だ」

 窓の外を見ながら話し続ける博士。防衛隊集団は謎の緊迫感を覚えた。

「『時のことわり』に従って…」

「……っ!かまうな!撃て!」

「「くたばれ」」





 ………………

「よし!……バレットM82!」

 猫神は指をパチンと鳴らし、対物ライフルを召喚した。

「君は実弾銃が好きなようだね」

「うっうるせぇ……」

 シバに反応しながら、ぷいっと目を逸らした。

 猫神はさっそく銃を構えて弾丸を放ったが、カラモンの体は液体のように銃弾を簡単に貫いた。ボルトハンドルを引き、薬莢が飛び出す。

「アイツ、もしかして体が海水で出来ているのか!?」

「……うーん、これはなかなか大変な作業になりそうだね」

 すると、クジラから水の波動のようなものがネムを襲う。

「「ネムさん!攻撃が来るよ!」」

 シバがバリアを展開し、それを防いだ。

「助かるぜ……」

 すぐさっきまでは敵だったが、一応信頼はできるようだ。

「ふーん、これは俺の攻撃じゃ効かなそうだし、どうしたものか」

 シバは防御にてっする様子だった。

(ここは俺の攻撃次第というわけか…………)

 ネムは視点を落として手元のカードを見つめる。

(このカードなら、一応水を吸い込めるか……でも、投げ込んでも風と衝撃波でカードが吹き飛んでしまうな……そうだ!)

 ここでネムは閃いた。

「力を貸してくれよ……AIさんよ……」

 高性能ヘッドホンの側面ボタンを押して信号を送る。

「はあっ!!吸い込めぇぇ!!」

 ネムはヘッドホンから音波をはっすると同時にカードをクジラに向かって投げ飛ばした。

 海からの風とカラモンの衝撃波は、ネムの音波によって一瞬無効化され、カードは真空の中を進んでいるかのように一直線飛んだ。カードがクジラに接近すると、カードはたちまちブラックホールに変化する。

「すっ……すごい!」

 猫神はその打算的な攻撃方法に驚いた。

 ブラックホールは勢いよく海水を吸い込み、クジラの原型が崩れたとき、コアがき出しになった。

「今だ!撃ち抜け!」

 猫神が照準を合わせようとした。しかし、流れ続く風と衝撃波で狙いが定まらない。

(まずい…うまく狙えない……このままだと吸い込み効果が切れて元に戻ってしまう…!)

「ここは俺の番だね」

 観察をしていたシバがここで動き出す。先ほどの糸を召喚して、コアまで伸ばし掴んだ。そして、コアを器用にグジラの体から引っ張り出すと同時に、光線銃を取り出して撃ち放った。コアは空中で見事に弾け飛ぶ。

 ネムと猫神は呆然して見上げることしか出来なかった。

 グジラを形成していた上空の海水は重力で勢いよく落ちてくる。

「ちょちょっと待て……このままだと……」

「あっ」

 落下した海水が海水面にぶつかって、三人に波が襲った。……みんな、ずぶ濡れた。

「おいおいめっちゃ濡れたなぁ」

「これは車に乗れませんねー」

「ちょっとこれは肌荒れするなー」

 三人は自分達の姿を見て笑い合った。

((あれ……?))

 だが、我に帰るようにネムと猫神はシバから離れて、体勢を変えた。

 それを見たシバは笑顔のまま一息吐いて話し出す。この笑顔は先ほどの殺気とは違い、真の楽しさが溢れた笑顔だった。

「はいはい、もうやめようか。なんだかんだ疲れたし、よくよく考えたら俺から手を出しているからね。ここは終戦ということにしないか。用事も聞かずにすまない」

「……そうですね、こちらも勝手に不法侵入してすみませんでした……」

「あー、あれは俺の家じゃないから大丈夫大丈夫」

(いやお前の家じゃないんかい!)

 ネムは心の中でツッコんだ。

「……じゃあ、なんで防衛隊のお前がここにいるんだ?そもそも防衛隊って、政治崩壊の時に一緒に解体されたんじゃ……?聞かせてくれないか」

 ネムは知りたいことを聞き出そうとしていた。今の世の中のこと。崩れた政治の裏側のこと。

「いいよ。話をすると長くなるんだが……その前にシャワー浴びさせてくれ」

 シバはそのまま海の家へ向かった。ネムと猫神は着替えるため、一度車に戻ってから建物の前でまた合流した。

 ………………

 …………

「ふむふむ……」

 シバは二人に政治崩壊後の話をした。再結成や裏切りのことを。

「……で旅をしてここに辿り着いたってわけだ」

「なるほど……なんかむなしいですね……」

 ネムは任務のことを思い出し、シバに伝えた。

「そういえば、『赤色のコア』を見なかったか?」

「『赤色のコア』?」

 猫神はネムにコソッと声をかける。

(…ネムさん……シバさんは『色』が見えませんよ……)

(…あっ…たしかそうだった…すまんすまん……)

 シバは話し続ける。

「あーたしか、赤色かは知らんが、この前コアらしきものを釣り上げたぞ。なんかぼやけて気味悪かったけど」

「ゑ?」

 二人は目が点になった。

「もしかして君達はそれを探していたのか、まぁ、俺はいらんからあげるね」

「おっ、おぉ……なら話が早い」

 シバがそれを取りに行くため、建物に入ろうとしたその時……

 ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!

「「!!!」」

 突然六枚のバリアが上空から現れ、六角形を形勢して三人を囲んだ。

「ちっ……」

「なんだこれは!?」

 殴っても壊れる気配がしない。シバのバリアと同じだ。

 すると陸側から軍隊がゾロゾロやってきてバリアの外側から包囲する。

「シバ2等陸佐、貴方を『国家反逆』の罪で排除する!」

(……コイツらぁ、ここまでしてシバさんをおとしめたいのか!)

 猫神が感情をあらわにし喋ろうとしたが、シバは手を彼の前に出して止めた。

「俺が国家とやらに何をしたのかね?」

「貴方は政治を滅ばせた組織と手を組んでいる証拠がある!そして今もなおだ。そう、隣の奴ら二人だ!」

 デタラメである。これは暴走した防衛隊が国民に嘘をつき、裏社会で勢力を広げさせるための作り話で過ぎない。

「そうか……ならば君達防衛隊は俺の『敵』、そういうことだね?」

 シバは目つきを変えた。軍隊は一斉に防御体勢に入る。

 

 ………………すまない⬛︎⬛︎⬛︎、こんなことでを出すは最後にしとくよ。

 周囲に膨大な熱気が溢れだす。

「「『狐火きつねび』を…喰らうがいい」」





【あとがき】

第6話を読んでいただきありがとうございます。…まぁ、人にはそれぞれ事情があるものです。例えそれが人によっては価値観が違くても。ということで今回は良いところで終わりました!次回もお楽しみに!(by 猫神くん)

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