第3話 はい、バレましたー

 次の日、ゴミを出した直後、また出くわした。ハナたれ小僧だ。最近いつも居やがる。(すでに心の中ではひどい言い方)

 こいつはもう私のスッピンのひどい顔を見慣れているだろう。むかつく。


「最近よく会いますねー、ゴミでも漁ってるんですかあ?」少し皮肉を言ってやる。

「いえいえ、たまたま外に出ただけですよ」

「そうですか、たまたま~? ではまたー」


 さっさと帰ろうとする。と、また呼び止められ、爆弾発言飛び出す。


「米倉さん、あなた『猫クラ』ですよね?」

 😽(ギクっ…… ギクッ!!!!)

 冷や汗2回目。マジで💦

「いいえ違いますよー。何かの間違いです。何言っているんですか、あなた。変な事言うと訴えますからね!」


 顔を絶対に上げないように坂井ハナの黒い靴を注視しながら、そう言ったが、ショックで頭がくらくらし始めた。


「だって猫クラさんの短編『私を』に僕が出てるじゃないですか?」


 え……? 作品の内容がフラッシュバックした。

(そうだ、あの作品の登場人物に坂井羽奈を使ったんだ。実在名はだめだ。不覚っ)


「はは、たぶん、それってあなたの知り合いが書いたんじゃないですかね? はは」


 とぼけたが……(バレた。本当にバレた。やばい。超やばい……)

 私はよろよろと階段を上がって行った。一度だけ下を見下ろすと、ハナたれがにっこり笑ってこっちを見ている。


 ◇ ◇ ◇


 次の日の夜、私は意を決して坂井ハナの部屋を訪れた。


「すみません。米倉です。お話したい事があります」

「どうぞ、どうぞ。うれしいなあ『猫クラ』さんが僕の所に来てくれるなんて」


 ハナたれの部屋は小綺麗で見かけによらずきちんとした男だなと思った。でもそんな事はどうでもいい。とにかく今日はこいつの口を封じるのが私の使命だ。私はテーブル前のソファーに座り、彼はテーブルを挟んで対面にあぐらで座った。


「あの、その事なんですけど、どうして私がその人、ネコプラでしたっけ? その人だと思われるんでしょうか?」


「またまたあ、ネコプラなんてとぼけるのがお上手ですよねー。それはですねえ、僕の名前があなたの小説に出てきたこともあるけど、正直に言おうかな」


 坂井は少しためらったがまたもや爆弾発言をした。


「僕、そのサイトの運営なんです。あなたのこと分かってるんです」

「ホントですかあーーーーーーーーーーーーーー!?」


 ショック×3乗ですよ。それに、え、だってだって、なんで運勢様がこんなボロアパートに? そんな疑問に彼は答えた。「給料結構安いんですよ」

 でも何千人もユーザーが居るのに、なぜ私を? そんな新たな疑問にも彼は答えた。

「あの、すみませんが、あなたの運営サイドへの問い合わせ数の多さ有名だったんですよ。僕もそれであなたを知ったんです」

 だそうだ。そういえば最初の頃、操作とか全然わかんなくて聞きまくった覚えがある。


 もう間違いない、こやつ個人情報を悪用しやがって猫クラが私だと調べたな。懲らしめたる。

「あの、運営の方がユーザーの住所とか悪用されてはいけないはずですよね? 訴えても良いですか?」

 すると坂井はジャンプして土下座した。

「たいへん申し訳ありません。悪用するつもりは無かったんです」


(これは取った!)

 私はここに来てようやく優越感を感じた。


「ほほー、反省してますねえ。ではまず、私がアマ作家ということは誰にもくれますか? くれますよねえ、当然」


 坂井は土下座したまま即答した。

「百パーセント、お約束致します。絶対誰にも言いません」


 私は思った。他にはどうするかねえ。こ奴は運営だ。うまく利用しない手はないか。私も悪よのう。悪魔の私がささやく。すると突然思わぬ台詞が坂井から飛び出した。

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