第2話 坂井、再び現る

 翌日、夕方。その坂井ハナ君が突然、ピンポンしてきた。慌ててネコ耳パーカーを来て玄関に出る。ハナ君が手に何か気になる袋を持って立っていた。くんくん、何この匂い。

「チョッコレートだあ」(アナと雪の女王風に)

「あのーこれ良かったら、余ってるんで、チョコ」

「え、そんなに? いやー」


 少しデレた。と、すぐに頭をプルプルして思い直した。

(坂井ハナとまともに話すのはこれが初めてだ。どうしよう……)


「あの、それは悪いので……」

「そんな事言わずに、チョコレートお好きなんですよね?」

(好きだけど…… お前はチョコ屋か?)


「どうしてそんなにチョコがあるんですか?」

「なんかバレンタインデーに会社でたくさんもらっちゃって……」


(聞くんじゃなかった…… 一瞬、右こぶしでこやつを殴りたくなった私)

「ははは、もてるんでいらっしゃるのねー、坂井さん」


 結局もらってしまった。目の前のチョコの誘惑には勝てない。口をもぐもぐしながら私は思った。(なんで私がテメーがもらったチョコのおこぼれを食べなきゃいけないんだ…… でもオイシイじゃないか♡)


 ◇ ◇ ◇


 コンビニに行く途中で坂井ハナにばったり会った。3回目だ。

 例によって、脱兎のごとくアパートの部屋に逃げ込もうとする私をまたもやつが呼び止めた。


「脚、早いですねえ。サンダルなのに」

「いえ、それほどでも、ホホ」

「あの、米倉さん、あなたもしかして小説なんか書いてたりしません?」


 ……え? おまえ、何を言っている? 

「えー、私そういうのしてないです」

「本当ですかあ? 絶対そうだと思うんだけどなあ」


 冷や汗が出始めた。誰にも知られていない私の秘密。なぜそう思うんだ、あやつは? 部屋に戻ってアイスをかじりながら考えた。


(あやつ、私の部屋を覗いた? いやさすがにそれは無いだろう。さては私のゴミを漁ったか? でも最近作品のプリントアウトはしてないから証拠は出ないはずだし…… 必死に考え込む)

 考える。もぐもぐ

 考える。ペロペロ

 考える。シャキシャキ

 考える。アムアム

 考える。パクパク


 あーっ、アイス5個も食べちゃった!

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