第23話:小さなことからコツコツと
提出品の締め切りは、冬の終わりと春の終わり頃。
前期と後期に分けられ、俺は後期に分類する。
錬金術師の参加だけではなく、一般人も可能らしい。
二級錬金術師以上は、申請すれば他の人の閲覧も可能らしく、ギルドを通じて頼めばいいとのこと。
時間を作って、レナセールと見に行く予定だ。
「ベルク様、これくらいですか?」
「もっと細かくだな。悪いが、念入りに頼む」
「かしこまりました」
エアコンのレシピは、当然だが頭の中に浮かんでこない。
だが、いくつか使えそうなものがあった。
まずは冷却魔法の結晶を作る。
それから加工した金属の筒状のものを魔法で定着させ、外気を取り込んで循環させる。
結晶と合わせて中に魔法陣を作れば、理論上でいえば永続的に可能だろう。
空気循環装置のようなものだ。
暖かいものを取り込み、冷たい空気にして排出する。
もちろんその逆も必要だ。
一定以上の高温を外に吐きだす装置もいる。
問題はいくつもあった。
まず素材がとんでもなく高価だということ。
俺の物作りスキルは失敗も成功みたいなものだが、その分費用がかさむ。
優勝すれば賞金が出るとのことだが、参加賞なんて優しいものはない。
つまり、絶対に勝たねばならない。
レナセールにも見てもらう為、ザッとレシピを書きだしていく。
・魔法の氷結晶 (ひとまずはスライムの欠片で代用)
・魔法のエネルギー供給器 × 1個
・魔法円描画具材料(魔法のインクや特別なペン)
・魔法の空気循環装置部品 (代用品なし)
・安全制御魔法装置 (代用品なし)
・冷却水素結晶 (レナセールの魔法で定着させる)
「まずは上から順番にやっていこう。魔法を使ってほしいが、身体はどうだ?」
「基本的な元素であれば問題ないと思います」
レナセールは毎朝、毎晩、魔力を高めるために瞑想をしている。
S級ポーションはあくまでも身体の治癒のみで、身体が整ったわけじゃない。
精霊との対話といっていたが、一度説明されてもよくわからなかった。
集中力はすさまじく、声をかけても気づかないこともある。
俺の仕事や護衛で今後必要だとわかっているのだろう。本当にありがたい限りだ。
俺ができることと彼女が出来ることは違うので、スライムの欠片を細かく結晶化させることを頼んだ。
実に根気のいる作業で、丁寧でなおかつ綺麗に砕いていく。
ふうと息を吐くだけでとんでしまいそうなので、マスクをしてもらった。
王都では見慣れないものだが、彼女に似合っている。
朝食を作り、昼食を作り、夕食を作り、仕事を手伝いながら愚痴の一つも零さない。
「このくらいで、どうでしょうか?」
不安げにスライムの結晶を見せてくれたが、とても良い出来栄えだった。
自分で判断しているのではなく、能力に頼っているので、ダメなときはダメだと言ってしまうのが申し訳なかった。
しかしレナセールはは、額の汗をぬぐって微笑む。
「えへへ、良かったです」
優勝すれば俺の知名度も上がって、更に給与も増えるだろう。
今の家は気に入っているが、レナセールと住みはじめ、サーチも来てから少し手狭に感じる。
メインストリートからも遠く、治安も少し不安だ。
まだ伝えてないが、優勝できたら一軒家を借りようと思っている。
買う、とまではさすがにまだ言えないが。
「レナセール、頑張ろうな」
「はい!」
彼女の笑顔を見るたび、より力が入った。
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