第22話:夏に向けて
王都の朝市場は、新鮮な獲れたての野菜と魚が並べられている。
懐が少し潤ったこともあり、俺とレナセールは朝からフルーツとアクアパッツァのような食事をベンチに座って食べていた。
フルーツは、苺とメロンを掛け合わせたようなもので、糖度の高いメロメロンというものだ。
小さくて食べやすく、王都では朝食とする人も多い。
魚料理は、小さな箱に入ったフライだ。
香辛料で味付けされたホクホクの身を崩しながら、ササカリ米と一緒に食べる。
魔法鳥と呼ばれる白い鳥が港で飛び交っているのも、この港でよく見られる光景だ。
「ベルク様、ほっぺにお米が」
「ん? ああ――」
「……えへへ」
周りをキョロキョロしてから、レナセールは顔を近づけてきて、ペロリと舐めとる。
「……こら」
「すみません。とても可愛らしくて」
「一応、人前だぞ」
「でも、ベルク様も前に私にキスしましたよ」
アルコールにほだされたことを思い出すが、言い訳も恥ずかしいのでやめておく。
話を切り替え、次は大会の事になった。
といっても、別に第一回戦とかがあるわけじゃない。
期間内に提出するだけだ。
その過程で大勢と会うことにはなると思うが。
「そういえば、お作りになるものは考えたのですか?」
「んー、色々悩んではいるが、これは王家の献上品になるらしいからな。大衆向けじゃなくてもいいってなると、選択肢も増える。レナセールは何かいい案はあるか?」
箸を少し止めて、レナセールは頭を少し悩ませる。
「私としては浴槽の火打石は凄い良いものだと思いますけど」
「王都では魔法使いも多いだろうからな。王家なら湯を沸かすくらい何でもないだろう。しかし……そういった便利な路線で考えてみるか。ありがとな」
「はい!」
食事を終えると、次は市場へ向かった。
左右に所狭しと並べられた露店には、ガラクタから掘り出し物まで並べられている。
「さあさあ、ダンジョンで獲れた素材ばかりだよ! ギルドより安いよ!」
「こっちは東諸島の素材だよ! 王都にはないよー!」
「いい武器揃えてるよー!」
俺はこの場所が好きだ。
活気があって、貴族があまり立ち寄らないからか、和気あいあいとした空気が広がっている。
レナセールは初めてなので、目を輝かせていた。
「凄いですね。人がいっぱいです」
「だな。レナセール、はぐれないように――」
「わかりました」
ぎゅっと腕を掴んで、上目遣い。
まったく、どこで覚えたのやら。
ちなみにレナセールは細身だが、胸はかなり大きい。
初めて見たときは着やせしすぎだろうと驚いた。
って、何を考えているんだ俺は――。
「ベルク様、もしかして少しえっちぃこと考えてますか?」
「……なぜだ?」
「表情で少しだけわかるようになってきました。どうしますか? 早めにお家でぬくぬくしますか?」
「……後でな」
「ふふふ、はい」
最近は彼女に手玉を取られているような気がする。
年下のような年上、不思議なエルフの彼女に踊らされてばかりだ。
煩悩を振り払い、能力の一つである観察眼を使って品質をチェックしていた。
良いもの悪いもの、値段の価値と合わないものが何となくわかる。
そこで俺は、ダンジョン産の冷たいスライムの欠片を持ち上げながら、冬を思い出していた。
レナセールと身体を温め合い過ごしていたときの。
王都には四季がある。冬を終えて今は春、すぐに夏が来るだろう。
頭の中でレシピを思い浮かべると、想像しているのと
――これなら、いける。
「店主、このスライムの欠片はいくつある?」
「これか? 今は20個くらいだな。家には200個くらいか」
「それをすべてもらいたい。今後追加もできるか?」
「全部か? いいけど、それだけ大口ならギルドに頼んだほうがいいんじゃねえのか?」
「いや、あまり口に出して言えないが、献上品として考えてるんだ」
「……王家の大会か?」
「知ってるのか」
「当たり前さ。なるほど、若そうに見えたが錬金術師なのか。よっしゃ、それなら何とか手に入れてやるぜ。その代わり、優勝したら贔屓にしてくれよ」
「ありがとう。それはもちろんだ。ただ、まとめて買う。少し安くしてくれないか」
「ははっ、あんたも商売上手だな」
スライムの欠片は本来使い道があまりなく、安い武器の素材の使われることが多い。
おそらく店主も、隣で首を傾げていたレナセールもよくわかってないだろう。
帰り道、彼女が訪ねてきた。
「もしかして、武器を強化するんですか?」
俺の腰には、麻痺と毒を使い分けることができる短剣がある。
あれから何度も試行錯誤を重ねた結果、良いものができたのだ。
売ればかなりの値段となり、献上品としても上等だろう。
だがこれは護身用で、販売するつもりも周知する気もない。
奥の手は知られてないからこそ強いのだ。
「違うよ。そうだな。レナセールが当てるまで秘密にするか」
「ええー! 悲しいです」
「ははっ、その代わり俺たちの家にも付けよう」
「
オストラバの四季は元の世界と比べても強い。
春は暖かで、秋は涼しく、冬は寒く、夏は暑い。
冬はまだしも、夏はプールに入ったり水で足をつけることしかできない。
だからこそチャンスがある。
この世界で1からエアコンを作ってやる。
そのとき、レナセールが腕を強くつかんで胸を押しつけてきた。
むにゅりと柔らかいので、すぐにドキっとした。
「ベルク様、早く帰りたいです」
すると彼女が、服の谷間を少しだけ引っ張った。
見たこともない新しい下着を身に着けている。
いつもとは違う黒色で、妖艶さがマシマシだ。
「えへへ、市場で買いました」
そういえばさっき、少しお待ちくださいねと木陰に隠れていたな。
わざわざそこまでしてくれていたとは。
ちなみに帰宅したあと、猫耳まで付けてもらった。
夏になると汗だくになってしまう。
……いろいろな意味で頑張れそうな気がした。
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