第22話 惣流多賀の正体。そいつは黒幕を手引きする奴だった
敦子は、木造平屋建てのアパートの前に立っていた。ここは、テロ組織のリーダー、定本が延命治療を受けている場所だ。
インターホンを鳴らし、玄関から出てきた彩羽の顔色を伺う。
「今度は何ですか?」
「家に兄が来た。それと、特殊作戦群? 変な部隊名のリーダーを名乗る少女も」
彩羽はすると眼を丸くした。「中に入ってください」
玄関に入り、それからリビングへと向かう。
横たわる定本が瞼を閉じ、自然呼吸をしている。
「こんなところにずっといて気が滅入らないの?」
「別に……気になりませんよ。私の最愛の人ですから。それより、いつものように煙草、吸わないんですか?」
スカートのポケットから煙草の箱を取り出す。そしてそれを潰し、ゴミ箱に捨てた。「うん。もういらないかな」
自分にとって、もう”兄代わり”はいらない。兄が恋しいから吸っていた煙草の、意味はもう無くなったのだ。
「特殊作戦群のリーダー、名前はなんと?」
「霧島加奈って」
すると、肇彩羽は唖然とした。「加奈……お姉ちゃん」
「え? お姉ちゃんってどういうこと」
「霧島加奈の旧姓は肇加奈なんです。姉の以前の戸籍は、肇家にありました。でも、定本がお姉ちゃんの脳にマイクロチップを埋め込んで、それに眼をつけた惣流が姉の戸籍を霧島というのにさせてTIに入隊させたんです」
敦子はちょっと待って、と頭を抱えて悩んだ。
「その、惣流ってどういう人なの?」
「自民党の最大派閥で、テロ組織『ゴースト』の台頭かな。簡潔に言えば」
「じゃあ、もしかして……だけど、その加奈をTIに入隊させるために、わざわざマイクロチップを彼女に入れたの?」そんなわけないよね、といったように訊ねる敦子。
彩羽は歯噛みして頷いた。「そうなの。姉は強化人間として利用された。それが今は亡き父親に惣流が脅迫してそうさせた」
じゃあ黒幕は、惣流ということか。合点がいったように納得すると、彩羽は、それは違うと言った。
「世界には支配者層、というものがある。億万長者達はそれに値するんだけど、惣流のサポートを行っているのがアメリカ『イングリッシュ』という会社の、ファントムなのよ」
「ファントムって? 前に聞いた話だと、中国や韓国がこの国のテロ組織に関与しているんじゃないの?」
敦子はもう訳が分からなかった。
「一重じゃない、ということです。三重にも四重にも重なって、この国のテロは行われている。最終目標のために」
「最終目標?」
彩羽は真っすぐ敦子の瞳を見つめた。
「日本人傀儡化。日本人が今まで他の国から植民地にされてこなかったのをご存じですか」
「知ってる。授業で習った」
「それは、その以前は需要が無かったからです。それと海で囲まれた島国だから、という理由もあるでしょうけれどね。日本人は大和大国。多神教で、国民全体が信仰する宗教が仏教というわけでもない。それは、スピリチュアルでいうと日本人単体で神の力を有しているからなんですよね」
「神の力? そんな馬鹿な?」敦子は嘲笑する。
彩羽は、定本の頬を触って、「脳の側坐感を刺激すると、日本人は神のような力を有するんです。その代償がこれですよ」と悲しげに言う。
「姉はもう、生きられないでしょう。脳を酷使しすぎたし、マイクロチップのショートもあるしね」
「悲しくないの?」
普通なら、肉親がいなくなるということは、悲しいことだ。だが、目の前の少女はいたって普通のことのように語っている。
「人生には、宿命がありますから」
「冷めてるね」
彼女の姉に対する冷淡な解釈は、厳しい以外の何者でもないが、それでも姉のことを想っていると信じたいと思った。
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