第21話 恋人同士? それは嘘か本当の関係なのか?
「ただいま」
帰宅すると、紫煙の匂いが香った。「ん?」
「どうしたの? あれ、煙草臭いね」
靴を脱いでリビングに入ると敦子が煙草を吸っていた。
「何してんだよ……!」
煙草をフローリングに捨てて、スリッパで踏みつぶした。
「お兄ちゃん。何で帰ってきたの? TIは?」
俺は言葉を無くした。変わってしまった妹の姿に、どう反応すればいいのか分からなくなってしまったのだ。
すると加奈が前に出て、「私のわがままで、お兄さんをTIから抜け出させてしまいました。申し訳ありません」と言った。
「あんた、誰?」敦子が顔をしかめた。
「防衛省直属の特殊作戦群のリーダー、です」
俺は、加奈の肩を掴んだ。
「おい、そんな極秘機密言うなよ。もしなんかあったらどうする」
特殊作戦群というのは、訓練内容や組織など、機密事項が多いのだ。それは国防を最前線で守る特殊部隊という任を与えられているからこそであり、海外の特殊部隊の協力を仰ぐ組織でもあるため、昨今のSNSが栄えている時代で加奈の発言は機密事項違反だ。
だが、そんなことを知らない妹は「お兄ちゃん、なにその言い方。私のことおしゃべりだとか思ってるの?」と機嫌を悪くする。
「そういうわけじゃなくて……」
「なら、どういう意味なの?」
「軍には、一般人には言えないことがあるんだよ」
なのに、なんでそんなこと言ったんだ、と咎めるように俺は加奈を睨み付けた。
すると加奈は小声で、「言ってはいけないことぐらい、分かってるって」と言った。
「じゃあなんで」
「相手のことを知るには、まず自分から腹割って話さないとでしょ」
俺は、次の言葉を失った。確かに彼女の言うことも確かにそうかもしれないが、だからと言って……いや、俺らはもう自衛官としての規定は破っているから、どっちにしろ、なのか。
「……”あなた”の名前は?」
敦子の口調が和らいだものになる。加奈の本気が伝わったのだろう。
「私は霧島加奈。よろしく」
すると、敦子は立ち上がって加奈の前に立って手を差し伸べる。「よろしく。敦子だよ」
二人は握手する。それを見て俺は安堵する。それから一応、「敦子、さっきの加奈の発言は――」
「分かってる。友達にも話さないしツイッターにもあげないよ」
「ありがとう」加奈は笑った。
「それより――」敦子は含み笑いをして見せた。「二人はどういう関係?」
「えっとだな」
「恋人同士、かな」
「ええー!」敦子が加奈の言葉に大げさに驚く。「やっぱりそうなんだね。加奈さん、美人だしお似合いだもん。それに、徴兵から抜け出すなんて韓流映画みたいでいいね」
加奈は何も言わず微笑んでいる。そうか。妹は韓流が好きだと言ったから興味をそそる間柄の設定にしたんだな。
俺は、加奈に「ありがとう」と言った。彼女はこちらを見て、無言で頷いた。
敦子が「ちょっと友達の家に行ってくるね」と言って外出したので、家には俺と加奈だけになる。
「なあ、あの”設定”には感謝するが、でも恋人同士っていうのには無理があるんじゃないのか?」
俺は苦笑しながら言うと、加奈はいたって無表情で、「私ね、最期の時は恋人と過ごしたいと思っていたの。そしたら君が現れた」
「は? どういう意味だよそれ」
彼女は真っすぐ俺を見てきた。「私と、付き合ってくれない?」
――俺は言葉が出なかった。もうあと半年で死んでしまう彼女と交際するということが、どれだけ重く残酷なことか。彼女の貴重な一瞬一瞬を、俺みたいな奴が奪ってもいいのか。正直、分からなかった。でも、彼女の願いだ。俺は頷いて彼女の頬を触れて、口づけをした。
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