21.イヴはアホの子炎の子&ゴリラの子?
イヴがアホの子ってことは置いといて。
「まぁいいや……魔眼の呪いだっけか? いや、魔眼レンズの呪いか」
「そうだね。イヴ、具体的にどんな症状なのかな?」
「わたしに現れたのは何週間か前なんだが……」
主訴の聞き取りである。
発端は1〜2週間前、いつものように早朝起床してすぐ異変に気づいたそう。
「わたしだって人の子だ、目脂くらいは出るものだが顔を洗えば問題ない……だが魔眼の呪いは目を開けることすら叶わなかった」
「……どういうこと?」
「夥しい量の目脂が貼り付いて目が開けられなかったんだッ! おまけに両目はかゆいし目の中も呪われているようで妙な違和感もあるし、何よりこの赤く染まった目! どうだ、魔眼レンズの呪いだろう⁉︎」
異世界の医療基準がどの程度かは知らん。知らんがわかることがある。
「ちょっとちょっと、アイナせんせ」
「んむ? なんだいカンペー」
部屋の隅にアイナを連れ、こそこそ会議を開く。先生も先生で微妙な表情。
「あれ
「うん……やっぱりカンペーは分かるよね」
心底めんどくさそうにアイナがため息をついた。眼科で働いていればわかる。おい、まさかこの世界はこのために俺を呼んだのか? 嘘だろお前。
――そもそも
白目が充血して赤くなり、瞼の裏が腫れ、目脂が出る症状。原因は多岐に渡るが、主に細菌性(ばい菌)とウィルス性。
炎症は物理的な刺激やばい菌、ウィルスなどに対して起きる生体の防御反応のこと。『発赤、熱感、腫脹、疼痛』の4症状がこれに当たる。コンタクトレンズユーザーによくある症状であり、花粉症によって発生するアレルギー性なども昨今ではよく見られる。
「でもカンペー、まだ待って欲しい。原因が何か分かってないからね」
「万が一魔眼レンズが原因なら責任問題ですよせんせ?」
「う……わかってるよぉ」
別世界特有の結膜炎とかあるのかな。
まぁいいや、後学の為に付き合ってやるか。
「アイナ、どうだ? この呪いは解けるのか⁈」
「多分ね。ただ、呪いかどうか症状断定の前にいくつか質問をするよ、いいかなイヴ」
「もちろんだ!」
本来は俺が聞き取るべきところだが、変態容疑がある以上、幼馴染みに任せるのが良い。
「まず根本と考えられる魔眼レンズなんだけど、イヴは毎日外してる?」
「あ、あぁ……」
ん……?
まだひとつ目の質問だというのに、イヴの目が泳ぎ始めた。
「1日何時間くらいつけてるかな?」
「ど、どうしたんだアイナ。呪いと魔眼をつけている時間なんて……」
「いいから、ホントのこと教えてイヴ」
「……時間は数えていないが、基本は朝起きて兵舎に戻り寝るまではずっとだな」
げ……めちゃくちゃ長え。
そう言えばソニアはちゃんとできているだろうか。
「毎月浄化するための薬も渡してるけど、毎日変えてる?」
「ももも、もちろんだ!」
「……」
……2アウトってところか。
視線を向けたアイナも若干、冷や汗をかいている。
「せんせ、このレンズっていつ作ったの?」
「……だいぶ前デス」
正解が見えてきたなぁッセンセーェッ⁉︎
極めて優秀な我が雇用主の両肩を掴み、軽めに揉んでやる。その様子にイヴの眉間に皴が寄る。
「副団長様、変態から質問いいかい?」
「貴様、さっきからアイナに馴れ馴れしいぞ!」
「いいからいいから」
こちらの世界にやって来た時、一緒に持ってきたリュックから仕事道具でもあるペンライトを取り出しながらイヴに歩み寄る。
「なんだ貴様……!」
「いいからいいから。ちょっと目ぇ見せてくださいね」
あくまで触らないように、イヴの目元を照らす。
充血した白目との境目、角膜周辺部に薄い半透明の膜の縁を確認。どうやらオレンジ色の虹彩は魔眼レンズらしい。
「どうしてこれだけ目の状態が酷いのにレンズつけてんすかーッ?」
「こ、これはアイナからもらった大事な『
「レンズの内容は聞いてないっすね!」
頼むから会話をしてくれ。ちょっと煽ってるのは自覚あるけど。
変態呼ばわりの強気な姿勢は一転、イヴはじりじりと後退する。
「だって、アイナがくれたプレゼントなんだからいいでしょ⁉」
いや、よくねぇって。
結膜炎の症状鑑別以前に、レンズの扱いから問題だな。でも今の話で分からないことが増えたぞ。
「ところで……えんしょうじょうってなに?」
「君の世界で例えるなら、燃えてるゴリラだね。魔眼レンズを使う彼女の通り名は
……どんなゴリラだよ。
〇
遥か遠方、極東の火山地帯に生息する燃ゆるゴリラ。
能力については現在不明。
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