20.魔眼レンズ第1被検者、イーヴァ副団長
切先が向けられた首筋に冷や汗が流れる。
「まがん、ふぃったー?」
「いや、えぇ…………」
またいつか行くことになるとは思っていたが……なぁんで数日後すぐ戻されなきゃならんのだ。しかもこれ、帰ったら休憩明けからだろぉ?
「おい!」
赤髪の少女は素肌を片手でできるだけ隠して声を荒げる。
選定の魔眼は反応なし。ここは自分で切り抜けろとでも言うのか。それとも魔眼さんはラッキースケベのスチルを集めたいのか。
「だ、誰って……俺は神兵タケル、ここの先生に頼まれて来てる助手だよ」
「カンペータケルゥ? まさか……カンペー⁉︎」
数ミリ剣が進む。
「お前がカンペー、選定の魔眼使い・カンペーっ? よくもアイナを唆したな⁉」
「ちょちょちょちょちょ待て待て待て、誤解だ!」
「問答無用ぉっ!」
刃が一度引かれ、そして――
「イヴぅ? 朝っぱらから呼ぶなんてなんの…………」
視界の端、扉の奥から現れたのはアッシュグレーの髪の少女。大あくびの間抜けな顔のまま、表情は固まる。
「ごゆっくり~」
「「待て待て待て!」」
◇ ◇ ◇
「……で、改めて自己紹介から」
悪いことはしてないが、とりあえず正座。
今にも噛みつきそうな勢いでこちらを睨む赤髪の少女をアイナが押さえている。着替え終わった姿は軽装ではあるが、胸当てと脛あて、そして腰には一振りの剣。
「この子はこの城郭都市ハーディーの精鋭騎士団の副団長で私の幼馴染み、イーヴァ・クロウ。イヴって呼んでるよ。で、あっちがカンペー」
「おい、俺の紹介雑すぎんだろ」
「だってイヴ、カンペーのこと知ってたらしいし」
「覗きの現行犯と詐欺師ってことでいいわよね」
前者は事実だけ見れば間違いではないが、後半は言いがかりである。どうやらここは、この前来た
「違うってば……ほら、言ってたでしょ? 魔眼レンズ運用に必要な人材を探すって……それがカンペーだよ」
「……こんな男がぁ?」
「どうもこんな男です」
「っていうかカンペー、どうやって来たの?」
「俺が聞きてぇよ! それとアイナ、あの坊主頭また会ったぞ⁉」
「あれ、おかしいな…………」
わざとらしく首を傾げるアイナ。しかもどうやら、今回
「……まぁいいや、ならさっさと帰してくれ」
「無理だよ、魔力回復してないし。あれからまだ2日だよ?」
「えぇ……」
「それに、レディの着替えを覗いて逃げられると思う?」
「そうだぞ変態、貴様は逮捕だ」
「じゃあもうアイナ先生の手伝いはしませんっすわ」
「イヴ、これは事故だよ。私に免じて許してあげてくれ」
この先生の手首はドリルで出来ているのではないだろうか?
いくらなんでもこの程度のお願いで副団長様が許すわけ……
「う……まぁ、アイナがそう言うなら仕方ないか」
さては
お許しが出たところで正座を崩して足への血流を促す。改めてイヴを見ると、身なりは『副団長』とやららしく、こざっぱりしているが、目元には違和感しかない。
顔は洗い流したらか目脂は落とされたものの、真っ赤な白目は依然変わらず。要するに、充血している。
「そんなことよりアイナ、大変だ! わたしは魔眼レンズに呪われてしまった‼」
「呪い?」
「魔眼レンズはあくまで魔眼だから人によって副作用があるんだ。私が猫の耳が生えたように、ね。人によっては呪いという」
「なにっ、アイナに猫の耳だと⁉」
「あぁもう話が進まない、イヴはちょっと黙ってて」
しゅんとするイヴを他所目に、アイナ医師は話を続ける。
「で、幼馴染であるイヴがとにかく来てくれっていうから、早朝にわざわざ私から遠路はるばる診療所から入るのも出るのもいちいち手続きが面倒なハーディーの兵舎に来たらカンペーとイヴの情事を目撃したわけさ」
「わかりやすい時系列の説明どうも」
もはやツッコミをする気力すら失せてしまった。
異世界に飛ばされた原因は置いといて、要するにアイナは幼馴染みのイヴの往診へ来たってことだ。
「……ちょっと、待て。魔眼の
「正確には魔眼レンズの方だね」
「へぇ……俺より前にレンズ着けてる奴いたんだな」
どうやら『俺より前に』というワードが嬉しかったのか、萎んでいたイヴの顔に覇気が戻り胸を張った。
「ハッハッハ! そう、何を隠そうこのアイナの幼馴染であるわたしは栄誉ある魔眼レンズの第一号なのだ! どうだカンペー、羨ましいか?」
「どうって……」
ギラつくオレンジ色の目の正体は魔眼レンズらしいが、それって……実験の第1号ってことなのでは?
やっぱこいつアホだわ。
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