15.魔眼ゲット!


「…………」


 無言の亡骸がそこにあった。

 ボスが倒されたが、泉の向こう側にいるグリフォンの仲間達はこちらを見るだけ。


「た、倒したぁ」


 先にへたり込んだのは追放パ……じゃなくて、金糸パーティーの剣士たち。


「グリフォンなんてもっと先かと思ったけど、意外といけるじゃない!」

「我々が強い証拠だな」


 喜ぶ面子。

 そして、そばにいたソニアも手を震わせていた。


「わ、わたしもやれたんだ……!」

「おいおい、喜んでるのはいいけどさ。ここからだぞ?」

「さっすがカンペー、切り替えはやーい」


 猫耳のアイナが先に獲物へ。俺もグリフォンの亡骸へ近づく。改めて見るとザ・異世界って感じの生き物だ。鷲の頭と爪、そしてライオンの下半身。胸は見事に矢で穿たれている。


「お前……ずいぶん余裕だったな」

「いざって時、カンペーをニッポンへ強制送還する余力がいるからね。ごめんごめん」


 なんだ、だから笑ってたのか。

 武器も持たせず連れてきたのは安全策がある上で……なんとも用意周到である。というか、それを先に言え。

 こっちの考えなど気にせず、アイナは跪きながら胸元を探る。出てきたのは小ぶりなナイフだった。


「しかし君の選んだ素材は相性がいい。身体能力まで上がってるよ。しかも魔力消費なしだ」

「そりゃよござんした」

「おや……カンペーもこのまま見るのかい? 結構気分悪くする人多いけど」

「患者のために選んだ相手の眼はちゃんと見なきゃ、グリフォンこいつに失礼だろ」

「あ、あのぅ、わたしも見てていいですか?」

「いいよ。その目だとちょっと見にくいだろうから、もっと近づいて……血には気を付けて」


 ソニアが医師の隣へ。

 アイナは鷲の頭から素早く、それでいて丁寧に眼球を摘出した。携帯していたガラスのケースに2つ収納し、おしまい。

 出血も非常に少なく済ませて、グリフォンの瞼を閉した。こっちの宗教観は知らんが、一応合掌。


「魔眼を求めるなら危険が伴う。これは、カンペーを試す機会でもあったのさ」

「お前なぁ……帰す前になんかあったらどうすんだよ」

「その時は私が治してあげるよ。医者だからね!」


 和気藹々とした雰囲気になっているが、生き物を仕留めたことに変わりはない。日本にいた時には考えられない状況である。しかし、俺の魔眼レンズが選んだこの鳥の眼が、ソニアにどんな効果をもたらすものか……


「じゃあ即席パーティーのみんな、私達は目的の魔眼を手に入れたから帰るね。グリフォンの素材も、あとは全部あげるよ」

「お、おう……ほんとにいらないのか? 爪や羽なんて売ったらすげぇ金に」

「言ったろう? 私は魔眼が欲しいんだ、ソニアに合う魔眼がね。それ以外はいらない」

「その子に魔眼を埋め込むつもり⁉︎」

「そんなわけないって。完全に、かつ半永久的にソニアの目を補助する魔眼レンズを作るのさ……さて、おしゃべりしてると他の魔物が来そうだ。カンペー、ソニア、早く帰ろう」


 実にあっさりした態度。

 アイナは余力で俺をこの世界に連れてきた時と同様に光の壁を作り出した。


「ててててててて転送魔法ぅっ⁉︎」

「みんな内緒にしてね、バレると面倒だから。あ、そうだ……グリフォンの討伐報告には私達も証言に行くから、明日ギルドで落ち合おう」


 最初からワープできりゃ行きを馬車では来ないか。帰り道をスキップできるならありがてぇや。馬車はケツが痛い。


「異世界の冒険はどうだったかな、カンペー?」

「危険がある時は言いなさい、診療所から出ないから」

「ま、まってくだしゃぃ〜!」


 猫耳のついた頭をわしゃわしゃかき乱しながら、光の壁の奥へ進み帰ることに。これにて魔眼調達の冒険は一件落着。



 そして数時間後。


 

 森に残されたパーティーは目の前の出来事に呆然としつつもすぐに切り替えて素材の回収を済ませて帰路に着く頃。


「転送魔法使える魔法使いなんて初めて見たかも! すごくない?」

「うむ、素人の男を引き連れても問題ないわけだ」

「……」


 剣士は戸惑っていた。

 確かにあの訳のわからない男は魔物に相対していない……が、自分達へ指示を出してグリフォン討伐に貢献していた。それに、グリフォン自体クビにしたソニアが仕留めたのであって、とても自分たちの実力とはいえない。


「………………」


 自分が駆け出しの頃、あんなふうに戦えていただろうか。



 

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