14.対グリフォン②(ピンホールショット!)


「ボヤボヤですぅ‼」

「落ち着け! 俺の顔は何となくわかるだろ」

「でも眼鏡がないと狙えません~!」

「うるさいぞ戦力外っ!」


 と口は悪いがしっかり俺とソニアの前に立つ追放剣士と槍の人。その横に杖の人とアイナが並び、横一線の隊列状態。泉を背に、傷だらけのグリフォンが瞳を輝かせてこちらを見据えている。


「どんだけ頑丈なんだよ……相当攻撃したぜ?」

「うむぅ、我々より上かもしれん」

「どうすんの⁉ もうこっちも魔力に余裕ないわよ!」


 相当こき使ったせいか、追放パーティーは疲労困憊。反対にこっちは泥まみれの俺、眼鏡粉砕のソニア、そして……


「あと一押し、とどめの一撃が欲しいね」


 楽しそうに、けれど大して汚れてもいないアイナ医師。『とどめ』のワードと同時にこちらを見て口角を上げる。相変わらず魔眼レンズから見える糸は全員とグリフォンを繋げているが、一番強く光って結ばれているのはソニアで……ったく、どうしろってんだ。考えろ、何かあるはずなんだ。


 ……って、仕事の時より頭回してやんの。

 ははっ、退屈な日常が一転。ちょっと楽しんでやがるな俺。とりあえず、あのデカい鳥を倒さなきゃ報酬ももらえないんだから……


 膠着状態の中でまたひとつ、糸が見えた。ソニアの目元から地面へ垂れ、そして俺……の背後――リュックへ伸びる。


「いつまでこうしてりゃ……」

「ちょっと待ってくれ、30秒でいい!」


 異世界に来てから開けてなかったリュックを開く。

 水筒、財布、スマホの充電器、消毒用の携帯アルコールスプレー、ポケットティッシュにタオル、駅前でもらった黒色のチラシにガム、あとは仕事道具のペンとか……


 ――――これか。


「……予定通り狙撃はソニアにやらせる」

「えぇぇえ⁉」

「眼鏡の壊れたコイツなんてお荷物だろ!」

「大丈夫、報酬欲しけりゃ信じろって。狙撃できるよう誘導してもらって、ソニアが止めを刺す。気を引いててくれ!」

「……絶対報酬寄越せよ⁉」


 ぶつくさ言いながら、追放剣士たちが前へ出た。

 

「じゃあ、私も魔眼レンズを使おうかな」

「ちょちょちょ! 消毒消毒」

「変なとこ細かいね……」

「大事なこと!」


 懐からレンズを取り出しつけようとするアイナの手へアルコールを一拭き。魔猫の魔眼を付けたアイナの頭に猫耳が生える。


「正面から狙えるよう調整してくれ、それ以外じゃ外しのソニアがもっと酷くなっちまう」

「分かったにゃ!」


 pyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy!


 最後の抵抗と言わんばかりにグリフォンが羽を広げ叫ぶ。

 ……時間がない、さっさと作るか。


 リュックの中からペンを取り出し、同じく出した紙へ突き刺す。その間、『選定の魔眼レンズ』の糸は、俺の手に絡むように、そして眼鏡に巻き付く。


「ソニア、ちょっと眼鏡借りるぞ」

「ふぁ、はい!」


 テープもないから片目に折り目をつけるように貼って……


「こ、これなんですかカンペーさん⁉」

「眼鏡の代わりだ、狙撃用のな!」


 眼鏡の右眼部分、本来レンズのある場所には一点穴の空いた黒い紙。他の奴には見えているのか、固定するように金色の糸が紙を留めている。


 ――ピンホール。

 本来ならもっと厚紙とかに穴を空けてるものなんだが……この際仕方ない。チラシにペンで穴を作り、眼鏡に張り付けた即席の代用品。近視の強い人間でも、目に入る光量自体を狭めているため、一時的に遠くが見える状態になる(限度はあるが)。ただし、視界が瞳孔の真ん中しか見えないため、視野が凄く狭い。


「ソニア、お前の目でグリフォンが見えるか!」

「右眼だけですけど――いつもより見えますっ! これなら、魔法で強化した矢で狙えます!」

「頼むぜルーキー。細かい調整は指示するから、集中で」


 ゆっくりと、しかし素早くエルフの少女は矢を番える。そして、その動きを奴は視界に捉えていた。


「pyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy」


 やはり危険と察知したのか、グリフォンの魔眼が光る。


「確実に正面を向かせてくれ! 前衛は左右から、杖の人は背後に! アイナ! とにかく攪乱っ!」


 爪でパーティーを薙ぎ払うグリフォン。剣と槍をはねのけ、風と火の魔法を飛び上がって避ける。前に出る4人の頭上、そこでグリフォンは大きく羽を開く。既に標的は俺とソニア、討たれる前に仕留めるつもりか。


「両前足の間、鳥の上体と胴の境目……」


 やじりが青白く煌めく。

 多分……これがソニアの本気なんだろう。今までは見えにくい視界で普通に撃っていた。


「pyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy」

 

 中空の鷲は最後に問う。なんなんだお前は――と言われている気がした。そんなもん、俺の方が知りたい。


 強いて言うなら……ちょっと目の事を知ってる一般人だけど。


「来るよ、カンペー!」

「わあってる――ソニア、撃てぇッ!」


 森の空から一直線に向かって来るグリフォン。

 照準は変わりなく、ソニアの構えにブレはなく。


 青白い閃光を纏った矢は、グリフォンの心臓を貫き撃ち落とした。



 

 ◇ ◇ ◇



 黒い紙にペンなどで穴を開けて、裸眼で覗いてみると遠くが見やすくなるぞ!

 ※近視が強い人や遠視の人だと見えにくいかもしれないから注意!


 

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