11.前門のワイルドボア、後門のグリフォン⁉


 小枝を踏みつけ、土を駆ける。

 運動不足気味で舗装されていない場所を走るのはなかなかキツい……が、足を止めることもできない。


「pyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy」


 背後からは高らかな叫び声。


「先生ェッ、自慢の魔法はどうしんたんだ⁉ すげぇ魔法使ってくれよ!」

「ここぞという時に使わないと魔力切れになるからまだダメだ! 昨日魔眼レンズに使った複製魔法で回復しきってない!」

「じゃあなんで森カブトに使ったんだよォッ⁉」

「カンペーに自慢したかったんだよぉ~!」

「ふふふふふふふたりとも走ってくださいぃ~!」


 そもそも……


『焦らないでね、まずは私の魔法で先制してソニアに追撃をっ!』


 そう言って意気揚々と放った火球はグリフォンの胸元を焼き、さらにもう一発火球を放ったところで、炎を厭わず敵はこちらへ突っ込んできたのだった。ソニアの矢はグリフォンの頬を掠めるだけで、俺達は『逃げる』を選ぶことになり……


『あれ?』

『突っ込んできますぅ⁉』


 全力疾走をする羽目になっているのは過信か計画性のなさか。誰が悪いかというと……


「なーにが極めて優秀だ! 前衛雇っとけよ先生ぇっ!」

「いやはや、魔眼は奥深いねぇ~はっはっは!」


 笑ってる場合じゃねぇ!

 しかも後ろのあのクソ鳥、わざとペース緩めてやがる。あっちの方が狩りを楽しんでるじゃねーか。


「いざとなったらお前を囮にするか……!」

「カンペーそりゃひどいよ⁉」

「患者のソニアは最優先、なら先生が庇うのが正解――あだッ⁉」

「カンペー⁉」「カンペーさんっ⁉」


 露出した木の根に躓いて、地面とキス。異世界でも土の臭いは相変わらず。地面を揺らす足音はすぐそこに迫る。


「いやーっ!」


 突進されて骨が砕ける……!

 ――なんてことはなく、グリフォンは寸前で足を止めた。俺を見ているわけではなく、前方からやって来る『何か』へ目線を向けた。


「な……なんだ?」


 ドドド……と、グリフォンよりも強い足の踏み鳴らし。いや、それが連続している。よく聞けば、その音のなかに数人の悲鳴の声。


「「「たーすーけーてぇー!」」」


 見たような顔の面子、それはついさっき別れたソニアを追放したパーティーの3人だった。


「つ、追放パーティー⁉」

「pguiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii」


 さらに後ろには真っ黒な毛皮と薄汚れた2本の牙をした流線形。

 グリフォンと同じくらいのサイズをしたバカみたいにデカい……イノシシ! 


「ワイルドボアですぅ」

「挟み撃ちだね」

「笑ってる場合かよ!」


 迫る獣、背後に構える獣。

 人生で体験したことない冷や汗が背中を伝う。実感していなかったが、これ……マジでヤバいのでは?


「カンペー、何か見えないかい⁉」

「何って……!」


 グリフォンとソニアを繋ぐ糸、それとは別に、追放パーティーと俺達の全員から伸びる金色の糸。それは今の道を外れた脇へ通じていた。どうせこのまま立ち止まっても魔物の餌だ。何でか知らないがグリフォンは止まってるし、今しかない!


「お前らあっちへ逃げるぞ、魔眼レンズ教えてる!」

「やっぱり見えてるんだね、『選定の道』が!」

「おい! ソニアをクビにしたお前らも、こっちに走れ!」

「お前ら、なんで⁉」

「いいから走れ!」


 俺、アイナ、ソニア。そして追放パーティーの計6人。

 獣道へ撤退。


 結局『逃げる』じゃねぇか!!

 

 

 


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