10.アイナ先生はただの医者じゃないらしい
城郭都市ハーディーの西門を出てしばらく。
街道沿いから外れたところにある森に到着した。なお、ギルドから出て2時間程度のことである。ただいま馬車に揺られた後で尻が痛い。
「いや~ちょうどグリフォン狩りの途中まで乗せてくれる馬車があってよかったね」
「よくねー。結局俺には何の装備品も買わねぇのかよ」
せめて防具と縦くらい寄越してほしいものだ。結局仕事終わりの服とリュック背負ったままだぞ。
「私という極めて優秀な存在とソニアがいるのに不満かな?」
「満足ポイントはどこですか?」
ドラゴンになった坊主の炎から守ってくれたんだから、多少腕は経つんだろうが、正直なんともいえない。攻撃する方法は見てないし。
「戦力にカウントしてないならなぁんで俺を連れてくるんだよ」
「そりゃあ君、まだソニアに繋がってる糸が見えるだろう?」
ソニアの胸元をもう一度見てみると、あった。
金色の糸は眼前の森へ向かってずっとずっと伸びている。
「森ん奥に続いてるな」
「グリフォンと言っても、私たちが求めているのは『魔眼持ち』だ。複数いる場合、君に見定めてもらう必要があるのさ」
ますます俺がいるのは危ないんじゃないんですか先生?
胸中のツッコみもむなしく、鬱蒼とした木々の中を進んで行く。足元にある金色の糸は、まるで道しるべのように誘う。
その最中……
「buuuuuuuuuuuuuuuuu—―」
ちょっと大きめ――1メートルくらいの虫さん達がこんにちは。甲虫のような昆虫が3体、空から落ちてきた。
「うぇ、でけぇ虫……!」
「昆虫系の複眼も興味はあるんだがね……残念ながら魔眼足りえないからっ……!」
傍のソニアが矢を射る、そして同時にアイナが前に出る。
アイナが右手を振るうと、見えない何かが昆虫たちを切り刻んだ。文字通り、木っ端みじんに。あっという間のできごとに、呆然とするばかり。
「これ、森カブトですね…………森の魔物」
「よくいる昆虫型だね」
「そ、それより、アイナ先生すごいですぅ!」
「医者の癖にえげつえねぇ攻撃しやがるなぁ」
「失礼だなカンペー、これも魔法だよ。初歩的な風魔法だけどね」
大して自慢する様子もなく、アイナは再び歩き出した。
変な虫にまた襲われたくもないので、俺とソニアも後を追う。さっきの虫――森カブトだったか?――の残骸の脇には、標的からズレた矢が1本。いそいそとソニアがそれを拾いつつ、どこか興奮気味で話しかけてきた。
「初歩的なものなんて言いましたけどぉ……明らかに異常な威力ですぅ!」
「戦う医者か……」
どっかの医療漫画にあったっけな。物理攻撃だけど。
そりゃ極めて優秀でヤバいくらい強い魔法使いの医者がいたら不安要素はないわな。
「褒めてくれてもいいよ⁉」
「はいはい、すごいすごい」
初めて助けてもらった時もそうだが、こいつ……やっぱただの医者じゃねぇな……って、魔眼の研究なんてしてるんだからただの医者じゃないか。
「お? ……糸の光が強くなってきた」
「だいぶ奥まで来たからね、そろそろかも」
森の奥……泉のほとりに、糸に繋がる存在はいた。
下身体はライオン、茶色の翼に前足から上は真っ白で、黄色い
周りにも似たような個体が数頭いたが、金色の糸が繋がっているそれは明らかにデカい。さっきアイナが倒していた森カブトとやらが、嘴にすっぽりと収まってしまっている。あれが……
「ぐぐぐぐぐぐぐグリフォンですぅ……!」
「やはり、選定の魔眼に間違いなしだね。素晴らしい!」
どんどん異世界らしくなってきたな。
2人の上がったテンションに気づいたのか、グリフォンがこちらへ視線を向け、
「pyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!」
癒しスポットに入ったのが気に入らなかったのか、デケェ鳥はややご立腹の様子。あれ、もしかしなくてもヤバい?
「さぁ、魔眼調達だよ!」
「コマンドが逃げるしかありません先生」
チュートリアルもないまま、異世界での戦いが始まる。
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