12.パーティーは報酬次第で組むもの


「pyyyyyyyyyy」

「pguiiiiiiiiiiiiiii」


 動物(魔物だが)の叫びと衝突音が鳴り響く。どちらかというと、悲鳴は猪……もとい、ワイルドボアである。獣道に伸びる金色の糸を辿り、木の陰に隠れること数十分。


「2頭は縄張り争いかな、命拾いしたね!」

「まったくだ。お医者様は事前に残りMPを申告するように」


 たはは〜と笑い流す雇用主に毒づいている間、合流した3人はまだ息切れ中。


「クソ! ワイルドボアなんて初心者でも狩れるモンスターじゃねぇか!」

「どう見たって普通の個体より何倍も大きいじゃない⁉︎」

「槍が通らなかった……」


 とはいえ、大した傷もないあたり撤退の判断は早かったのだろう。


「か、カンペーさん、どうしてこの道に?」

「ソニアとグリフォンを繋いでた糸以外にも、別の糸が見えたんだよ」

「多分選定の魔眼魔眼レンズによる指示だね。戦闘とは別のルートを示してくれたんだ。順調に馴染んでてなにより」


 便利なコンタクトだことで。まさかこのまま癒着しないよな……?


「魔眼って……もしかしてアンタたち!」

「お前らか、『魔眼合わせます』とか宣伝してた怪しい奴らは⁉」

「『ら』はやめろ! 広告宣伝諸々全部この医者の犯行だっつうの」

「ひどいなぁ、カンペーを知ってもらうための宣伝なのに――――」


 pyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy

 pugiiii…………


 雄たけびはグリフォンのそれ。

 ワイルドボアの方は悲鳴にも似た声を上げてながらグリフォンの声にかき消されていく。


「おや、もう決着がついたようだね」

「マジか」


 大して警戒する様子もなく、アイナが立ち上がって来た道を戻り始める。


「お、おい! まだグリフォンがいるんじゃねぇの?」

「仮にいたとしても、私達は彼の魔眼が目当てなんだよ?」


 そりゃそうなんだが。

 大した作戦もない状態で戻るとは……アイナに怖いものはないのか。と言いつつ自分もすたすたと後を追うと、安心したのかソニアも追放パーティーもついてきた。さながらド〇クエ。


 元の道には力なく倒れた巨大な猪。

 その胴体は明らかに『爪』で引き裂かれた痕跡。さらに牙はへし折られ、まさにズタズタの亡骸……ワイルドボアが放置されていた。


「さすが魔眼持ち、見事なまでの爪攻撃だ……!」

「なにもしてないけど、依頼達成したわね」

「うーぃ、じゃあ証拠品の牙でも持ち帰って……」


 追放パーティーが勝手に『彼の戦利品』に近づこうとしたその時。


 pyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!


 森の道、影が地面を這いながら木々を揺らす。咆哮と共に中空から高速で羽のついた獅子が急降下。


「うぉぁっ⁉」

「カンペーさん!」


 咄嗟に手を伸ばしたソニアに掴まり地面に伏せる。

 見上げた先には血にまみれた体で白い翼を羽ばたかせ、森の支配者がこちらを見下ろす。しかしすぐには襲って来ない。むしろ強く風を起こし、俺達を下がらせようとしていた。


「どうやらこのワイルドボアは自分のものだって主張したいらしいね」

「んだとぉ、依頼が達成できねぇじゃねぇか!」

「報酬ももらえないわよ、どうするの⁉」

「退くしかあるまい!」

「ざけんなっ! 倒したことにして素材を剥ぐ!」


 追放剣士が無理やりワイルドボアに近づこうとする。もちろんグリフォンの魔眼はそれを見逃すはずもなく。


 pyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!


 再び降下、追放剣士に鋭い爪が襲い掛かる。


「やらせません!」


 グリフォンの急襲よりも速く、ソニアが弓を引く。一瞬で3本放ち、相手の動きを止める。どの矢も外したが、さらにもう一射。グリフォンの身体……ライオンの胴体に突き刺さった。


「やるじゃんソニア」

「あ、あの今のは必死で……」


 ソニアの謙遜などお構いなしに、撃たれたグリフォンは叫ぶ。大きく仰け反り、より強く、森を震わせる。


 瞬間、グリフォンの胴体から金色の糸が伸びた。繋ぐのはソニアではなく……アイナと強い光で連結した。魔眼レンズが何を知らせているのか分からないが……何か伝えているはず!


「アイナ、魔法打て!」


 疑問もなにもなく、アイナは見えない刃でグリフォンを切り刻む。羽に阻まれるものの、羽ばたく奴を撃ち落とした。さらに糸の数は増え、追放剣士、槍使い、杖持ち(魔法使い?)と繋がり、強く光る。


「おい、追放トリオ! 追撃してくれ!」

「はぁ、なんで――」

「攻撃ッ!」


 怒声にも似た俺の号令で剣と槍で追撃を仕掛ける。態勢を立て直したグリフォンに払われるが、杖持ちの放った火球が鷲の頭に直撃した。そして糸は次にソニアへ。


「ソニア、う」


 全てを言い切る前に、ソニアが矢を放つ。青白い閃光に包まれた一本の矢が、またグリフォンの胴体を射る。


 pyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!

 

 土に塗れながら、魔物はさらに叫ぶ。同時に奴の両目が輝いた。


「効いてる!」

「きゅ、急に連携が上手く行って……」

「カンペー! 恐らく君は今、魔眼レンズの機能が引き出されている! この場を切り抜ける方法をしているんだ! そのまま指示して!」

「どう見たって素人のこいつの指示なんて聞けるかよ……うわッ!」

 

 追放剣士がぶーぶー文句を言う間にグリフォンが反撃に出る。その間にも糸は正解を示すように行動させるべき人物を強く光らせた。


「ソニア、外してもいいから一発! 回避したところを槍の人! 突いてすぐに杖のあんた!」

「あい分かった!」

「もぅ、しょうがないわねッ!」


 弓、槍、魔法……またしても連携してグリフォンを後退させる。

 おいおいおいおい、このコンタクトは素材選びの眼じゃねぇのか⁉ なんかとんでもないことになってないか?


 わずかな隙、アイナが追放剣士と俺の間へ入った。


「どのみち剣士の君達もこのグリフォンを倒さないとワイルドボアの討伐証拠は取れないよ。これだけやったんだ、彼も逃がしてくれないし私達に手を貸すべきだ! このまま奴を見逃せばもっと被害が出る!」

「道連れかよ!」

「じゃあ交渉だ、私達はグリフォンを倒せる算段がある。欲しいのは魔眼だけ! 討伐の報酬金も君達にあげよう!」


 すると剣士はコンマ一秒迷ったふりをして、笑った。


「乗った!」

「交渉成立! カンペー、指示頼むよ!」

「無茶言うな!」

「金貨追加1枚!」

「乗ったッ!」


 かねで成り立つ金糸きんしパーティー、即席成立。

 

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