タイプメタ〈魔神〉
――
国家転覆も可能と言える男。黒嵜景文の再誕を喜ぶ者はいないだろう。
研究施設は勿論のこと。景文の潜在能力や備えている機能を聞いた人間は直ぐ様に敵意を向ける。それほどまでに景文という半人造人間は失敗作でもあり完成された作品でもある――。
これは研修を受けた井ノ神と襲撃犯の四本腕にとっては周知の事実であった。
「――ちっ」
「……景文?」
黒目が朱色に染まった景文は理性をなくしたように――いや、正確に言えばあるのだが。
ロボット系によくある暴走モード状態のオーラを醸し出している景文はただ喋っただけ。あるいは、ただ存在しているだけで他人の精神に害をもたらしそうだ。
「お前、景文に何をした?」
四本腕は井ノ神を睨みながら質問する。
「――理由のわからないボタンを押しちゃいました」
敵対している者同士と思えない会話。井ノ神はテヘペロ顔で頭を触る。
人を苛立たせる顔をした井ノ神に――四本腕は興味が無い。さっきまで井ノ神の知っている事に興味津々であったが、自我を失った景文にすり替わった。
「――っ!」
四本腕は人格が変わったかのように僅かに震える。
それを見た井ノ神はこの状況のやばさ。ついさっきまで景文を殺しかけたこいつですら怯えている事に危機感を覚える。
「あのぉ〜……。四本腕さん?」
名前が分からないので身体的特徴で呼ぶ井ノ神。
それに対して四本腕さんは目を向けることもなくあっさりと答える。
「その呼び方はよせ。俺はタイプエタ。ニアヒューマノイド・タイプエタ・5――だ」
「呼びずらっ!」
「ではエタファイブとでも呼べ。俺の主はそうよんでいる」
心を許した――ようには見えない。
しかし今は争い合っている場合では無いこと。
井ノ神もエタファイブもお互いに理解していた。
何故なら今目の前にいる景文は『黒嵜景文』ではなく『ニアヒューマノイド・タイプメタ』であるからだ。
今までのような可愛げのある反抗期じみた景文の影はない。もはや彼の姿はロボットというよりも殺戮兵器として生み出された存在。
「おい――」
エタファイブは藁にも縋る気持ちで井ノ神を頼ろうと呼びかける。
「分かってるよ――。それ以上喋んな」
「流石は俺を出し抜いた器だ」
そんなクサイセリフを吐くんじゃねぇよ。
今更俺の手を借りたいなんて、そんな自分勝手で都合の良い話なんてあるもんか――と井ノ神はエタファイブに愚痴る。
しかしその気持ちは分からないでもない。
『タイプメタ』はエタファイブに敵意を抱いた顔をしているが、それは井ノ神に対しても同じであった。
ただオーラが怖いというだけではない。
『タイプメタ』の余りの殺意が、井ノ神の未来。自分も巻き込まれるという未来を予知させる。
「おい景文。お前は今何を考えている――?」
震える口と声。
「……人間程度が馴れ馴れしくその名前を出すな」
「お前本気で言ってんのか――?」
「俺の言葉に意見するな。そんなことよりも俺の質問に答えよ――」
『タイプメタ』は井ノ神を更に見下して目を細める。
「雪はどこへいった?」
感情の無いその声は他人などどうでもいいという人格を表していたにも関わらず、発言の内容は兄弟や家族を心配するような言葉だった。
「アイツなら然るべき場所に送ってやった」
答えたのはエタファイブであった。
圧に屈しない。
それが伝わるような答え方であった。
「……」
エタファイブの答えに一瞬無言になる景文。
「聞こえなかったか? 雪は――」
――という言葉を最後に、 エタファイブはロケットのように射出された右腕で殴り飛ばされた。
エタファイブの腹は殴られた音から遅れて、くの字に曲がる。
「クソッタレが……」
エタファイブは飛ばされて壁に打ち付けられるのだが何とか受け身をとり、ダメージを最小限に抑えた。けれども抑えたとはいえ、致命傷であるのは確かであった。
腹も凹ませたことによって少しは衝撃を和らげたが、物体をエグル貫通力は抑えることが出来なかった。腹には大穴。それを中心に無数の亀裂。
エタファイブの敗北が決定――。
――とは一概には言えなかった。
『タイプメタ』の右腕は持ち主に戻る事なく、エタファイブのくぼんだ腹に埋まったまま。これはつまりタイプメタの攻撃手段を一つ潰したということ。
「右腕はこれで終わりだな――」
「だといいけどな――」
見立てが甘かった。
切り離された右腕は――細胞から再生された。
何の法則性も垣間見えないように。
特に電気を放つでもなく、肘の部分から生えるように再生された。
「――生えたな」
「ちっ。
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