第13話
「殿下! 敵本陣と思われる旗が下がっていきます!」
「おお、さすがは殿下!」
「遠目からあれを本陣と見抜くとはまさに慧眼!」
「所詮商人どもだ、まだこれだけ離れているというのにもう逃げだしておるわ!」
「殿下! 敵本陣が下がっている以上、ここは追撃をかけるのが上策かと! 思ったよりも敵の後退が早い、今動かねば機を失いますぞ!」
周囲の騎士だけでなく信頼を寄せる側近からも強気の言葉を聞いたカイン。
だが、戦場の空気を読むという点において並ぶもののない天才と称されたカインの勘が、これ以上進めば全滅すると囁き続けていた。
(罠があるのは間違いない。それも、俺の力を知ってなお勝利を確信するほどの危険な仕掛けが。だが、面白い……!!)
「進むぞ。あの本陣さえ潰せば包囲から抜けられる。それまでは全員、気を抜くなよ」
「「「ハッ!!」」」
「大将首もらったーーー!!」
「邪魔だ、どけ」
一糸乱れぬ返事と行軍で応える側近たちに小さく頷くと、カインは目の前に立ちふさがった巨漢の傭兵を一刀のもとに斬り捨て、自ら先頭に立った。
そうして、つかず離れずの距離を保ちながら逃げ続ける敵本陣に、不信を抱き始めた騎士が現れだした頃、
「突破! 敵陣を突破しました!」
ついにカインの前に立ちふさがっていた傭兵の部隊が途切れ、アベル達同盟幹部が集う本陣が丸裸になった。
「ふん、所詮銭勘定しかできぬ者たちだったな!」
「殿下、あとはあの愚か者たちを討ち取れば我らの勝利です!」
「バカが! 戦力を分散させすぎたな!」
敵に最後のとどめを刺そうと血気に逸る騎士たちが、今か今かとカインの命令を待つ。
だが、当のカインの目は、映るもの全てが凍り付きそうなほどに冷め切っていた。
「ここは、広場か。――そうか、ここか」
「殿下! ご命令を! ……殿下?」
「全員、防御陣形」
「で――」
カインの言葉が、周囲の騎士に届くか届かないかの刹那、
ヒュウウウゥゥゥ―――― ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!
空から降ってきた無数の矢が、近衛騎士団がいる広場を埋め尽くした。
「で、殿下……」
「やはり罠だったか」
カイン本人と、その声に反応して盾を掲げた側近たちは何とか無事だったが、周囲には、ハリネズミと化した騎士たちの半数が動かなくなり、残り半数が絶叫とうめき声をあげていた。
「て、敵襲ーーー!! 敵襲ーーー!! 前方の左右の道から出現!! 左は赤の旗、右は青の旗、間違いありません! 赤の騎士団と青の騎士団です!!」
「こ、後方からも敵が……!! 掲げるのは白の旗、白の騎士団です!!」
側近たちが被害を確認する間もなく、さらなる凶報があちこちから届く。
「バカな!! 我らが誘い出されただと!?」
「敵は烏合の衆だぞ!! どこに我らを出し抜ける策を用意できる軍師がいるのか!?」
(その通りだ。三大騎士団にそんな知恵者がいたなど、聞いたこともない。かといって、傭兵風情が思いつける規模でもないし、商人どもに至っては論外だ。……どうやら入れ知恵した奴がいるらしいな。といっても、城を包囲――それ以前に反乱を察知できなかった時点で
口にしても騎士たちの士気を下げるだけだ。
そう断じたカインは、心の内だけで状況を整理し、理解した。
「――っ!?前方! 下がり続けていた傭兵団が戻ってきました!」
「くっ、これで退路は完全に断たれたか」
「かくなる上は――」
「見事、騎士道精神を貫くのみ!!」
今や、総数の二割にまで数を減らした騎士たちは最期の覚悟を決め、自分たちの主の号令を聞くために振り返った。
そこで、彼らは見た。
ここ数年では戦場ですら感情を表に出すことのなくなった王太子カインが、猛獣のように歯を剥き笑いながら号令をかけようとする横顔を。
「全軍、突撃---------っ!!」
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