第12話

「どうやら予定通り、上手くいったみたいですね」

「はい、やはり王太子派は官僚たちから嫌われていたばかりか、その自覚すらなかったようですな」


 数多の敵軍が難攻不落と称えた王城の跳ね橋が、内通者の手引きによって下ろされ、その神話に終止符が打たれようとしている様を、アベルと同盟幹部の面々は敵の矢が届かないはるか後方から見ていた。


「問題はここからですな。果たしてうまく引っかかってくれるかどうか」

「大丈夫でしょう。いくら諜報力で劣る王太子派とはいえ、さすがに首謀者が我らということくらいは気づいているはず。でなければ、わざわざこの身を晒した甲斐がないというもの」

「何より、雇い入れた全傭兵団から、敗北はあり得ないとのお墨付きをもらっていますからな。いくら英雄と持てはやされようとも王太子とて人の子。むしろ、あの方が得意な戦で堂々と打ち破ってこそ、我らの正当性が証明される」


 戦場という慣れない空気を吸っているせいか、普段は無駄口をたたくことのない幹部たちの饒舌な様子を、黙って見守るアベル。


(王太子カイン殿下。できれば一目だけでも会って、人となりを知ってから決めたかったけど……)


 だが、同盟盟主として交渉のために王国中を飛び回るアベルと、休む間もなく戦場という戦場を駆け回るカインが出会う機会など、どう考えてもあり得ない。

 結局、こういう形でしか関わりを持てなかっのだと思いつつも、それでもアベルは悔いを感じずにはいられなかった。


「急報、急報ーーー!! フルプレートの一団が傭兵団を蹴散らしながら、まっすぐこちらに突っ込んできています!」


 そんな物思いにふけるアベルの意識を覚醒させたのは、敵がこちらに狙いを定めたという知らせだった。


「やはり、こちらに来ましたな」

「それはそうだろう。何しろ他の門には三大騎士団が陣取っている。ついさっきまで友軍だった相手だ、いかに近衛騎士団とて躊躇いもあろう。当然、傭兵と戦う方が士気が下がらん。それに、指揮系統が一本化できない傭兵団相手なら包囲を抜けられると踏んだのだろうな」

「特に工夫もないが、それだけに迷いなく我らを討ちに来ているようだな。さすがはカイン殿下」

「――では、アベル殿」

「ええ、手はず通り、後退しましょう」


 指示を促す幹部の声に頷いたアベルは、圧倒的優勢にもかかわらず本陣を動かすことを宣言した。

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