第2話

 十年後、王城の中庭で元気に稽古に励む王子カインの様子を眺める、宮廷魔導師ハーゲンベルクの姿があった。

 中庭にいたのはカインだけではなかったが、全員倒れ伏していて、気絶する者うめき声をあげる者などであふれかえっていた。


「あ、ハーゲンベルク!」


 王国が誇る魔導士の姿を見つけたカインは、十歳とは思えない速度で駆け寄った。


「王子、今は剣術の稽古の時間ではないのですか?」

「うん、でも相手が全員のびちゃってさ、退屈してたところなんだ。また新しい魔法を教えてよ!」

「残念ながらこれから所用でしてな、またの機会に。それより、指導役はどうしたのです?」


 たしか、今日の指導役は王国三大騎士団の赤の騎士団長だったなと、ハーゲンベルクは記憶を辿った。


「ああ、あいつね。他の奴よりはましだったけどさ、俺がちょっと挑発したらムキになってかかって来たから、鬱陶しくなってあっちに吹っ飛ばしたよ」


 無邪気に笑いながら王城の外の方を指差すカインに、ハーゲンベルクは戦慄が走った。

 実力主義の赤の騎士団の長がたった十歳の子供に負けたことではない。その人の命を顧みない心の欠落にだ。


そこへ、


「殿下、背中が隙だらけですぞ!!」

「隙じゃなくて、誘ってるんだよ、愚かだな」


倒れたふりをして斬りかかったのは、筋骨隆々の若い騎士。

その振り下ろしをあっさりと弾いて見せたカインは、刃を潰した剣で両肩、両足、そして胴を瞬く間に打ち据えて、若い騎士に再び地を舐めさせた。


「どう、ハーゲンベルク。これで信じてくれた?」

「殿下……」


(たしかあの騎士は、剣の腕を買われた赤の騎士団でも五指に入る実力者。それを今の齢であのように圧倒するとは。……今は王や私が健在だからよいが、果たして王子立太子する頃に、間違いを正してくれる人間がどれだけいるか――)


 すでに自分が教える魔法、それに学業においても、剣術と同等の成績を修めているカイン。

 果ては並ぶ者のいない覇王か、それとも――

 ハーゲンベルクは答えの出ない難題に対して、早急に手を打っておくことを考え始めた。

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