第18話 決意

ずっと後悔していた。

ギルド会議のとき、餓狼と青焔の関係に

違和感を覚えていたじゃないか。


俺には仲が悪くなんて見えなかった。

寧ろ、二人には友人とも違う

何か別の関係が見えた。


その違和感をグレイスさんに

伝えるべきだった。

そうしたら、

何か変わっていたかもしれない。


何やってんだ俺は……

観察眼の力を見込まれてグレイスさんに

拾ってもらったのに……

何も役に立てなかった。


「ぶざまね」


そのときだった。


死刑が確定した次の日。

俺は牢獄にぶち込まれていた。


その檻の外に訪れたのは、


「……ローズさん」


彼女は俺のボロボロになった体に

冷たい視線を向けた。


「お、俺……やってないんです!

本当です! あれは餓狼が」


「……最低……アンタ……

恩を仇で返すなんて」


「ちが……」


「餓狼は不思議なとこはあるけど、

誰よりもグレイスを慕ってた。

それだけは分かる」


ああ……無理だ……

そうだよな。

入ったばかりの俺と長年一緒にいた

餓狼では関係値に違いがあり過ぎる。


絶対にこの疑いは晴れない。


俺はもう反論する気力が起きなかった。


「本当はアンタの顔見たくもなかったけど、

最後に言いたいことがあって来たわ。

アンタ……首よ」


その言葉がレッズのときと重なった。


どうして。

何で……

いつも……いつも……いつも……!!!

どうして俺はこうなるんだ!

俺は何も悪いことはしていない!


「せめて最後は大人しく死を受け入れなさい」


そう言ってローズさんは俺の回答を待たずに、

立ち去った。


俺は……死ぬのか……?


こんな濡れ衣を着せられて。


惨めに。誰にも信じてもらえぬまま。


くそ! くそ! くそ!


そんなの嫌だ!!!!


恨んでやる!

俺を陥れた青焔! 餓狼!


俺を信じてくれなかった奴ら全員!


呪い殺してやる!


「レオ」


そのとき、耳元で誰かが囁いた。


「フェアリン!?」


「しっ! 監守に気づかれる」


「助けてくれ。無実を証明してくれよ。

フェアリンもあの場にいたし、

犯人が誰か知ってるんだろ!?」


「……僕には無理だよ」


フェアリンが俺に回復魔法を

かけてくれているのが分かる。


抜かれた歯。

裂かれた皮。

切れらた足の健。

切り落とされた指が復活する。


「もう皆犯人を君にしている。

餓狼と青焔にはアリバイがあるって」


「それは青焔がイーターだからだ!

その能力で分身を他者に擬態させたんだ!」


「けど、それを証明できない」


「……青焔にイーター判定を受けさせれば」


「どうやって? 青焔には餓狼がいる。

力づくで受けさせる?

ローズやルンベルが協力してくれても

勝てるか怪しいよ」


「そ、そんな」


「……グレイスがいれば……

何とかなったかもしれない」


そのフェアリンの言葉が

心に突き刺さった。


「もうマーブルシティの住民全員が

君を殺そうとしてる。

だから、もう僕が君にできることは」


ガチャっと足かせと手錠が外れ、

牢屋の檻が開いた。


「逃がすことだけだ」


フェアリンが盗んで来たであろう

鍵を捨てる。


「さあ早く!」


「……ほんとにこれでいいのか?

……俺らがこの事実を広めなきゃ

グレイスさんたちが浮かばれないだろ」


「何言ってんのさ!

じゃあ勝てるの?

レオは餓狼たちに勝てるかよ!?」


そのフェアリンの言葉に何も言い返せなかった。


「逃げるんだ。

僕は君がこのまま死ぬのが許せない」


「……フェアリン」


「そして……レオ……

グレイスが死ぬ直前で言ってんだ……


「グレイスさんが? 何て?」


「グレイスは……君に」


そのときだった。


「何か金属音がしなかったか?」


監守が近づいてくる。


「逃げて!!」


そのフェアリンの焦った叫びに

俺は走り出した。


観察眼で安全な道を選びながら

無我夢中で駆ける。


途中、脱走がバレて

冒険者たちに追われたが、

彼らは突然混乱し、暴れだした。


その冒険者たちの中にフェアリンの

姿が一瞬だけ見えた。


きっとフェアリンが俺が逃げるのを

混乱系の魔法をかけて助けてくれたのだろう。


「逃げるな!!」

「この卑怯者!」

「グレイスを返せ!」

「人殺し!」


人々の罵詈雑言を受けながら、必死に走った。

気づけば、何も声が聞こえなくなっていた。


そうか。

もうマーブルシティを抜けたのか……


「……くそ」


正直、虚しさと怒りしか

俺には残ってなかった。


今まで親切に接してくれる人なんて

ほとんどいなかったし、

信頼していた仲間にも裏切られた。


唯一俺に親切に接してくれた人たちも

亡くなった。


……もうこの世界には敵しかない。

全員、俺の敵だ。


強くならなきゃ。


そうだ。

俺が弱かったから、仲間に裏切られた。

俺が弱かったからグレイスさん達を

助けられなかった。


このままじゃだめだ。


もっと強くなるんだ。


もう二度と、裏切られるのも失うのも嫌だ。

これ以上、不幸になりたくない。


俺を不幸にするやつは殺す。

俺を信用しない奴も、敵意を向ける奴も

全員殺す。


そうできるように、俺は

最強になる。













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