第17話 罠2

……どうしてこうなった。


「正直に答えなさい」


「……やってない」


「小指を切り落とせ」


これで指が全てなくなった。


「あああああああああああ!!」


痛みで意識が飛びそうになる。


飛んでも冷水をかけられて

何度もたたき起こされた。


グレイスさんに救われた俺は他の班と

合流するために上層を目指していた。


だが、背後から驚異的な速度で上がって来た

青焔とルンベルさん、ローズさんに

捉えられた。


何が起こっているのか分からない

俺を余所に、青焔は大きな声で


『魔法石を取り戻したぞ!』


と叫んだ。


それから拘束され、

この拷問部屋に閉じ込められた。


どうやら俺は青焔に嵌められたらしい。


「白状しなさい」


拷問官が冷静に言う。


「……やってない……

あれは青焔と餓狼がやった。

グレイスさんを殺したのもあいつらだ」


「それは何度も聞きました。

青焔と餓狼はルンベルとローズたちの証言により、

アリバイがあります。

加えて、グレイスの胸元には

貴方の双剣が突き刺さっていました」


「それは俺の姿になった青焔がやったんだ!

上にいた青焔も餓狼も、分身が擬態してたんだ」


「はあ、そうですか」


こいつら……間違いなく青焔側の奴らだ。


この話をしても全く聞き耳を持たない。


ルンベルさん達にも話したのに、

誰も信じてくれない。


「次は腕の皮を削げ」


―――――――――――――――――――――――


(なんで餓狼が……)


ホーリー・ガーディアンズにいても

餓狼の噂は耳にしていた。

あのグレイスに次ぐ強さを誇っていると。


容姿や性格も剣呑としていて、とても

人の下につくようなやつじゃない。

だがらこそ、それを従えているグレイス

が凄いと思っていた。

傍から見ても、二人はタイプは違えど相性は良い。

お互いに相手の力を信じている。

そんな感じがしていた。


そんな彼がグレイスを裏切り、

エリシアとハンターを殺した。


フェアリンは姿を隠して二人の回復を試みたが、

もう魔力は底をついていた。


戦闘面で餓狼たちに勝てるわけがない。

ただ、自分の存在を気づかれないように

潜むしかなかった。


そのとき、グレイスに命令され、

レオが逃げた。


(レオ! 良かった。

グレイスのおかげでレオは

逃げれそうだ。僕も今のうちに

ルンベルたちの所へ)


そう思っても、フェアリンはグレイスの

元を離れられなかった。


きっとグレイスは餓狼に殺される。

このままルンベルに助けを求めに行っても

間に合わないだろう。

なら、最強と呼ばれたグレイスの最後の勇姿を

見届けたかった。

その最後を誰かが見ていないとあまりにも

可哀そうで。


やがて、グレイスの動きは鈍り、地面に倒れた。


そして、グレイスは視線を動かした。

それが自分を探していると感じた

フェアリンはグレイスに近寄より、

頬に触れた。


その感触に気が付いたようで、グレイスは

ゆっくりと言葉を紡ぐ。


事切れる直前にグレイスが口にした

その言葉をフェアリンは胸に刻み込む。


(グレイス……この言葉……必ず)


そのときだった。

鋭い殺意がフェアリンを襲った。


ぱっとその方角を見る。


餓狼と目が合った。


このままここに居れば、間違いなく気配で

バレると察したフェアリンは

ルンベルたちの元に向かうために

上層へと逃げた。


それからしばらくダンジョンを彷徨い、

ようやくルンベルたちと合流したフェアリンは

ルンベルの口から出た言葉に驚愕した。


二日後。


「どういうこと!? どうして

レオが犯人になってるの!?

レオはやってない!

犯人は青焔と餓狼だって言ってるじゃないか!」


ホーリー・ガーディアンズの

ギルドマスター室でフェアリンは

ルンベルに抗議する。


「……フェアリン。

まさか幻想でも見ていたんじゃないのか?

その二人は私たちと行動していたと

何度も説明しただろう。

あれが分身と主張しているが、

餓狼のことはどう説明する。

SSランクのアサシンでも

他人の分身は作れない」


「でも!

確かに僕は見たんだよ!」


「なら、それを証明してくれ」


その言葉にフェアリンは言葉に詰まる。


「……ルンベルは僕のことを疑っているの?」


「いや? だが、人前で正体を見せれない

フェアリンでは、何も証明できないだろ?」


ルンベルはおもむろに立ち上がり、

窓の外を眺めた。


「見てみろ、フェアリン。

街中では今、

魔法石を奪う目的で英雄のグレイスを

殺したとして、

今すぐにでもあの少年の死刑を

求める者達で溢れている」


フェアリンはそのけたたましく

怒り狂う住民たちを視界に入れる。


「確かに、フェアリンと

あの少年の主張は一致している。

だが、姿を見せれない君が皆の前で

彼の無罪を主張しても、

信用してもらえるはずがない。

下手をすれば、共犯として君も疑われる」


そうなれば、自分の居場所でもある

このギルドも疑われる。

フェアリンは苦い顔をした。


「それにもう……誰がグレイスを

殺したのかを考えている段階ではない。

今はグレイスという世界の支柱を失い、

動揺したこの状況をどう治めるかを

考えなければならない。

そのために、まずは彼らの怒りを払拭すべきだ」


「それって……レオを……」


「そうだ。死刑することが決まった」


「ま、待ってよ! それは駄目だよ!

冤罪じゃないか!」


「だから、それを議論している

段階じゃないんだよ!

このままでは街はもっと乱れる!

分かるだろ!? グレイスを失ったんだ!

その後釜が誰になるのか!? 

その空席を奪い合う戦いが起こりうるんだ!」


「そ、そんな」


ここまで動揺しているルンベルを初めて見た。


(……なら……せめて……)
















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