最終話:目覚めたの。

ピンクが言ったとおり、彼女はちゃんと料理も美味かった。

ハウスメイドやってたって言ってたけど、ようは家政婦だよな。

前のオーナーってどんな人物だったんだろう?


ピンクはその人のこと、慕ってたんだろうか?

たとえば恋愛感情があったとか?

もともとは、あんな寂しい子じゃなかったのかもな。

人間生まれた時から、心が寂しい人なんていないはずだから嫌なことがたくさん

積み重なってそうなって行ったんだろうな?

俺はピンクの過去にはあえて触れないことにしてるけど、きっと苦労してる

んだろう。


「琢磨・・・なにボーッとしてんの?」

「ご飯冷めちゃうよ・・・・そんなに私の料理、不味い?」


「あ、いやそうじゃななくて・・・美味しいよ、高級レストランなみに美味しい」


「そこまで言うとウソくさい」


「じゃ〜なんて言えばいいんだよ」

「俺は素直に美味しいって思ったから、そう言っただけだよ」


「ごめん」


「なにかにつけて、そうやって捻くれてものを見ない」


「私は、人に素直のなれなくて・・・」


「やっぱり俺と暮らすの苦痛になってないか?、行くところないからって

俺と一緒にいることに無理に甘んじてるとか?」


「大丈夫・・・琢磨のことも少しづつ分かって来てるし・・・」

「私、素直になるね」

「そうじゃないと琢磨に嫌われちゃうから」


「俺はピンクを嫌ったりしないよ、最初っからピンクのことが好きになったから、

俺んちに引き取った・・・来てもらったんだから」


「引き取ったでいいよ・・・事実、そうなんだから」


「最初に思ったこととは思惑が完全にはずれたけどな」

「だけど・・・ここままってのは俺としては、ちょっと寂しいかな」


「このままって?・・・私と琢磨のこと?」


「そうだよ・・・だって俺にとっちゃ意味ないもん、このままじゃ」

「ピンクみたいな綺麗でいい女が目の前にいるのに、振り向いてもらえないって

男としては惨めだよ」

「俺はこのまま一生ピンクに片想いのままでいるのか?」


「それは琢磨の勝手でしょ?」


「たしかにそうだけど・・・人の心情ってあるじゃん」

「好きな子のことを思うくらい許されてもいいと思うけど・・・傷つけてる

わけじゃないんだから・・・」


「ごめん・・・」


「俺は俺のこと想ってももらえない女にずっと想いを寄せ続けるのか?」

「俺はひとりで横断歩道を渡りたくないんだ」

「ひとりなんて危なっかしくて、誰かと手をつないで一緒に渡ってもらわないと・・・怖くて渡れない・・・」


「それって、もうひとりじゃ生きていけないってこと?」

「その手をつなぐ誰かって私のこと?」


「だから、さっきからそう言ってるだろ?」

「いい歳の男が、みっともないって思うだろ?」

「だけど、俺はそういう女々しい男なんだ・・・笑いたかったら笑っていいよ」

「俺は自分のことどんどん惨めったらしくしてるよな、めちゃカッコ悪い」


「ああ・・・ほんとごめん・・・俺ってなに言ってんだ?」

「悪かった・・・愚痴みたいなこと言って・・・さっきまでのこと忘れて」


「惨めなんかじゃないよ・・・それだけ私に対する想いが強いってことだからね」

「そうなんだ・・・よかった、琢磨の本当の気持ち聞けて」

「今までは、半信半疑だったけど、よ〜く分かった」


「分かったって言うか・・・琢磨の今の言葉で私、キュンってきちゃった」

「人を好きになるって、そう言うもんかもね?」


「なに?そう言うもんって・・・意味分かんないんだけど・・・」

「琢磨の感情が、私の感情を目覚めせたってこと」

「たった今、私と琢磨の気持ちがシンクロしたの」

「私、もう大丈夫みたい・・・今なら琢磨のこと受け入れられる」


「私、琢磨の愛に目覚めちゃった」


「え?・・・それは嬉しいけど・・・いきなりだな」


「人を好きになるって、そう言うもんって言ったでしょ?」

「恋する気持ちって理屈じゃないんだよ」


「ま、まあたしかにな・・・」


「そばに行っていい?」


「うん・・・いいよ」


ピンクは俺のそばに来て、俺を抱きしめた。


「はじめてだねハグしたの」


「そうだな・・・なんだか照れるけど・・・」


「もっと照れるようなことしよっか?」


そう言ってピンクは俺のクチビルにキスした。


俺は、あまりに急なピンクの気持ちの動きに戸惑った。

さっきまで片想いじゃなかったのかよ?

愛に目覚めたなんて言っておきながら、ウソでした〜なんてことないよな?

俺はピンクにからかわれてる?


「琢磨?・・・またボーッとしてる・・・」

「私といる時は余計なこと考えないの」


「いや・・・いいのかなって思って・・・俺ピンクに愛されてる?」

「そうだよ・・・嫌なの?」

「ないない・・・そんなことはない・・・俺もピンクのこと愛してるし」

「こうなって相思相愛でいいんじゃないか?」


「うん・・・じゃ〜もう一歩、進んでみるみる?」


「進んで?みるみる?って・・・」


「そこで待ってて・・・私、シャワー浴びて来るから・・・」


そうか・・・結局、俺の最初のもくろみが予定通り実を結んだってことか。

想いは素直にちゃんと話すべきだな。

だけどこれからが大事、失敗しないようにしないと・・・ピンクにフられでも

したら未来の俺に、なにやってんだって笑われるよ。


おしまい。






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未来の俺に笑われるような恋はしたくない。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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