第13話 初秋の折

 「おはようございます。香苗さん。」

 「おはよう。亮太君。」


 そんなLINEが二人の間で交わされていた。その先はいつも何も続いていない...2度目の告白をしてから数日経って外にはコートを羽織っている人が多くなった。空気もすっかり冬に向けて冷たく肌に刺さる様になってきた。


 僕はあの後、香苗さんの事を送り解散した。歩いている内に香苗さんは落ち着きを取り戻して僕に再度別れ際に「今日はありがとう。これからお願いします。」と一言言って別れた。その時の彼女の顔は笑っていたのか、泣いた後でクシャクシャになっていたのか、夜も更けていて良く見えなかった。ただはっきりとその言葉だけが静かな夜の暗闇の中で聞こえただけだった。


 会社の中では直接に話す事はあまりない。僕達の会話はいつもLINEだ。今時なのか分からないがそれはそれで良いと思っている。香苗さんは事務。僕はずっと会社に居るわけでもなく外に出ることもある為、休憩やお昼も一緒には居れない。それでも帰りはさりげなく一緒には帰ろうと努力している...つもりだ。早速、上司の人から言われた。「最近、岩田さんと帰ること多いよな、亮太。」本当にこの人はよく見ていると思う...


 「そうですね。偶然ですかね~?」少しとぼけた感じに答えるしかなかった。恥ずかしい...

 僕は会社に戻り喫煙所を横目に自分のデスクに戻った。パソコンを立ち上げキーボードを叩きパスワードを打ち込む。そうしてメールのチェック、残りの業務を進めていく。事務員さん達のデスクがある方を向いて香苗さんの影を探した。「あ、まだ居た。良かったぁ。」本当あの夜、香苗さんから別の仕事をしている事、僕のを思って考えていてくれていた事を泣きながら話してくれた時は嬉しさと同時に辛さも半々だった。カッコつけて彼氏みたく全部受け止めるくらいの勢いで返事したけど、どう捉えてくれたのか。こうして付き合っても風俗やるのかな....?僕は複雑な気持ちで一杯だ。




 携帯のバイブレーションがデスクを叩いた。


 「もうすぐ終わりそう??」香苗さんからのLINEだ。「はい!あと10分くらいで上がれます!!」聞きたい事は沢山ある。デートもしたい。悲しい寄りの辛い思い出スタートになってしまった僕らだから楽しい思い出でこれから更新していきたい。


 「お疲れ様です。待たせてすいません。」

 「大丈夫よ。私もLINEしたくらいに終わったからさ。」


 会社を出ると冷たい風が僕達を迎え、街路樹が揺れていた。


 「一気に寒くなってきましたね。」

 「そうね、随分気温下がったよね。夕方は流石に震えるね(笑)」

 「香苗さん、今度の週末って空いていますか??」

 「今週末??うーん。どうだろう。調整してみる。」


 香苗さんの中では夜職と彼氏(僕)とどちらが優先度高いのかな......僕自身凄く女々しくなる。女々しすぎるくらいに。彼氏、彼女。そういう関係であって彼女を束縛する理由にはならないだろう。けど彼氏として僕を優先してくれないかな。そう思うのはおかしいことなのか。


 「調整してみてください!デートしたいです!!」言葉に力が入る。


 「わかった、わかった(笑)決まったら連絡するね!」


 二人で話しながら各々の家へ帰っている途中、朋美と会う。

 「あー香苗、こんなところで会うなんて(笑)何々??隣の子がこの間言っていた子~~??いい感じの子じゃない!!付き合ってんの??あんたたち(笑)」


 「朋美、そんな茶化さないで。そう。ご察しの通りその子だよ。」


 「初めまして。松下亮太です。香苗さんとお付き合いさせてもらってます。」あ、この人前に公園で香苗さんと話していた人だ...


 「凄くいい子だね!!じゃあ、私は用事あるから香苗、また今度ね!!」

 「うん、またあとで。」


 「朋美さん、凄く明るい人ですね。」

 「そうね。いつもあんな感じだよ。ずっとあんなテンションだから気持ちが落ち込んでいる時はその反発なのか凄いのよね(笑)」


 そう少し恥ずかしそうに話す彼女(香苗さん)を見て少しほっこりした。


 「じゃあね。また明日。お疲れ様!」

 「はい!また明日!気を付けて帰って下さいね!!今週末の調整頼みますよ!!!」

 「はいはい(笑)じゃあね!」


 そういって彼女の背中を見送るのがここ最近の僕の中のルーティンに自然となっていた。「デートプラン考えよっと!!!」


 まず今は楽しい気持ちで一杯にしよっと!!!

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