第10話 クチナシの匂いの約束。

 「お疲れ様でした!」今日は約束していた香苗さんとの食事デートの日。僕はほんの少し離れた所にある川沿いに連ねているお店の一つを予約した。




 7/30(火)大人2名。少し歳の離れた女性と20:00〜。




 「狙いすぎちゃったかな〜好きだって言うことバレバレだよなぁ〜」と1人恥ずかしがりながらプレゼントしようと思って買ってきていた、ヒマワリとマーガレットのプチブーケを見ながら香苗さんの事を待っていた。「喜んでくれるかなぁ…。」

 もうそろそろ時間になる。香苗さん来てくれるかな。


 「お待たせ、待たせてしまった?」


 「いいえ!!全然。僕もさっききた所でした!!!」


 ふと香苗さんの笑い声が聞こえた気がした。「さて!行きましょうか!!」


 お店の花壇には色々な夏の花が植えられていた。白く少し甘い匂いのする小さい花があった。「あれ、なんだろう……」



 僕たちは席につくなり注文をした。美味しいご飯を食べ、食べ終わりの食器は下げられテーブルに残るのはドリンクの開きそうなグラスが2つ…。天気も晴れていて川沿いの歩道を照らすガス灯の柔らかな橙色の光が空に浮かぶ三日月の青白さと相待って見事なコントラストを放っていた。


 「涼しいね…まだ7月が終わるって言うだけなのに夜は丁度よくなるね。」そう言って川を見ていた香苗さんの横顔を見つつ可愛いと僕は思っていた…


 「そうですね。8月はどうなんですかね?あっついんでしょうかね??」ちゃんと顔を見て話せない…見れない。見たら………。ここで買ったプレゼントを渡して“告白”しなきゃ。後悔する。そう思い口を開いた。


 「あっあ…あの。香苗さん。今日は……えっと…ありがとうございます。それから………これ、僕からのプレゼントです!!受け取ってください!」そう言ってプチブーケを香苗さんの前に出した。めちゃくちゃな顔なんだろうなと前は見れなかった。恥ずかしかった。


 「えっ!ありがとう!!!嬉しいなぁ。こうやってお花を貰うことってあんまり無いから私、嬉しい!」



 笑って受け取ってくれた!良かった。嬉しかった!!!



 「どうしたの?亮太くん、ずーっと下向いたままで?良い匂いだね。このお花。ヒマワリとなんだろうこの白いの?」


 「あっと、えっと…それはマーガレットですね!ヒマワリと同じで夏の花みたいらしくて!」


 「そうなんだ!綺麗だね!黄色と白。本当ありがとう!」




 告白する?いつ言う?今?帰り際?それとも帰った後にLINEか電話でか??今時って思われるかな…このままのまま…?いらない心配までしてきた。



 「どうしたの?亮太くん。大丈夫?」


 「あああああ、あの。香苗さん。僕、香苗さんのこと、す…好きです。もしよかったら僕と付き合ってくれませんか?」






 言ってしまった……。





 「えっ!あー。ごめんなさい。ただ、無理っていうわけじゃ無いの。ただね………今はごめん………もしも好きで居てくれるのならば来年また7月この場所でもう一度告白してくれない?その時は付き合いたいかな。」私も亮太君の視線だったり気遣いだったりには気付いていた。でも昼職に夜職。二足の草鞋を履いたまま、不安定なままでは付き合いたくなかった。


 「はは、ごめんなさい。そうですよねー!けど僕は諦めたく無いです。来年またここで告白します(笑)」


 「ありがとう。待っているね?(笑)」


 ニコッと笑う香苗さんの顔は今でも忘れていない。僕にとってはこのお店もこの季節も忘れられないものになっていった。


 「そろそろ帰ろうか、ね。」


 「そうですね!」



 僕たちは会計を済ませ、お店の外に出ていた。

 「今日はありがとう、美味しかったし楽しかった!告白もされちゃったしね(笑)」


 「あんまり揶揄わないでくださいよ〜。けど、僕も楽しかったです!今日はアレでしたけど僕、諦めませんから。絶対。」


 「ありがとう。待ってるね。これ、私の個人の連絡先。」


 「ありがとうございます!登録します!!!」


 「それじゃあね。私行くね。真っ直ぐ帰りなね〜!」


 「はい!分かりました〜!!」


 僕はそう言って香苗さんと別れた。手には香苗さんの連絡先。風と歩幅に合わせて動く後ろ髪を僕は見ながらただ立っていた。


 僕も帰ろうかな。

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