第3話 クラスではこんな感じ

 どうして学校は平日毎日あるんだろうか。面倒臭い事この上ない。友達と会える場所って考えると、そこまで悪いものでもないんだけどね。なんて考えながら教室に入る。


「さっくんおはよう!」


 教室に入ると、影山さんが駆け寄ってきた。朝から元気だなぁ……なんて呑気なことを思っていると、影山さんが目の前で躓いて転けそうになる。仕方ないなぁ……


「よっと」


 いつも通り片手で倒れてくる影山さんを支える。初めの方は、腕に伝わってくる柔らかい感触とかにドギマギしていたけど、今はもう慣れた。そんなことよりも心配のほうが勝つから、気にする余裕が無くなったって表現の方が正しいかもしれないけど。


「大丈夫? いつも言ってるけど、気を付けてよ」


 腕の中にすっぽり収まっている影山さんに問いかける。まぁ、今回もしっかり受け止められたし、怪我とかは無いはずだ。あるとしたら、コケるときに足を挫くぐらいかな。


「うん! いつもありがとね」


「お安い御用ですよ姫様」


「うむ。くるしゅうない。褒美を授けよう」


 いつも通りの軽い会話をこなして、一件落着! なんて思っていると、目の前に少し影ができた。それと同時に、周りから歓声が聞こえてくる。


「わぷっ」


 なんだ? 疑問を持つと同時に、柔らかい感触が僕を包み込む。


「ちょ、何やってるの影山さん!」


「何って……ご褒美だよ?」


 僕を抱きしめたままの影山さんが耳元で話してくる。くすぐったいし、恥ずかしい。でも、こうやってもらえるのはちょっと嬉しい。


「恥ずかしいから離してもらえる?」


 彼女の温もりを惜しく思いながらも、離してもらうよう頼む。周りの目にそろそろ耐えきれなくなってきたから、この場から逃げ出したくなったのだ。


「嫌でーす。授業が始まるまでこのままだもんねー。お姫様の言葉は絶対なのです」


 そう言ってさらに強く抱きついてくる。離すつもりはないらしい。髪から香ってくる匂いに当てられてクラクラする。


 表情は見えないけど、多分笑ってるんだろうな。こういうちょっとした悪戯をしてくる時は、いつも無邪気な笑顔で楽しそうにしている。


「えへへ〜。動けないでしょ〜」


 まぁ、楽しそうならいいか。本気で振りほどこうと思えば振りほどけるんだけど、そんなことをしたら怪我させてしまうかもしれないからね。


「今日はいつも以上にイチャイチャしてるな。教室の空気が甘いんだが」


「やっほ、新。イチャイチャしてるつもりはないんだけど」


「新垣君おはよ」


「おう。おはよう。それでいちゃついてないってのは無理があるんじゃないか? そこんとこどう思うよみんな!」


 僕達じゃなくて、周りに問いかける。すると、クラスのみんなからも声があがる。そうだ! 言ってやれ!


「2人の邪魔すんじゃねー!」


「楽しく眺めてたのになにしてんだお前は!」


 あれ? 思ってたのとなんか違う……みんなからも否定してもらえると思ってたんだけど、否定も肯定もされずに新にヤジが飛んだだけだ。


 それに、内容を聞く限り、僕たちがイチャイチャしていないと言ってくれる人はいなくて、イチャイチャしてるのを見て楽しんでるって言ってる人が大半だ。なんでえ? このまま流れそうな空気だけど、これだけは言っておきたい。


「僕たちを見世物にしないでくれる!?」


「私は別にいいよー」


 全く反対の意見が僕たちから飛び出す。あの……影山さん? そこで許容されるとみんながさぁ……


「我らが姫からの許可が出たぞ!」


「華ちゃんからの許可が出たよ! 写真撮ろうよ写真!」


 こうなるよねぇ! 


 基本的に、このクラスでの影山さんは発言権がかなり強い。ドジっ子属性の愛されキャラだから、みんな甘やかしてしまうのだ。かくいう僕もなんだけどね。


「ちょ、やめて! スマホ向けるな!」


「いえーい! ほら、さっくんも一緒にー? ピース!」


 ノリノリである。


「はいはい」


 こうなると、いくら抵抗しても意味がないから大人しく従う。周りを囲まれて、カメラを向けられる。まるで動物園の動物になったような気分だ。


「はーい。それじゃぁ授業……どういう状況?」


 どうやら授業が始まるらしく、先生が入ってきた。見るからに僕たちの状況に困惑している。


「何でもないですよ。そういえばクラスのグループ作ってなかったなって思って、今作ってただけです。ほら、みんな席に着くよ」


 適当な理由をつけて誤魔化した後、集まっていたはずのみんなが一斉に席に着き始める。この辺の団結力は流石と言ったところだ。


「あの……影山さん?」


「ん〜?」


 隣に座る影山さんに疑問を投げかける。


「どうして掴んだままなの? 離してほしいな〜、なんて」


 席に座ってはいるけど、影山さんは僕の服を掴んだまま離してくれない。どうして?


「別にいいでしょ? 先生にもバレてないみたいだし、こうしてると落ち着くんだ〜」


「そんなこと言われても……」


 確かにバレてはいないみたいだけど、単純にノートが書きづらい。それに、少しだけ気恥ずかしい。


 無理に離させるわけにもいかないし、どうしようかと頭を悩ませていると、先生からアクションがあった。


「迫、影山、イチャつくのは辞めろ。毎度思うが、独身の私への当てつけか?」


 名指しで注意され、またもや注目を集める。こっちを見るクラスメイト達は、またもやニヤニヤして楽しそうに笑っている。他人事だと思って楽しみやがって……


「違いますよ。こもちゃん、思い込みが激しいんじゃないですか?」


 流石にそんなことをするわけがない。そもそも、当てつけもなにも付き合ってすらいないんだから、そんなことをするのは変な話だ。当てつけにならないだろ。


「そうか? ならいい。ただ、それを抜きにしても授業中にイチャつくな。他のみんなも気になって集中できないだろう?」


「そんなことないと思いますけど。今だって、こもちゃんが言及しなかったら誰も気づいてなかったと思いますよ」


「そうだそうだー」


 影山さんと2人で反抗する。そんな僕たちを見て、こもちゃんがまたため息をつく。いやぁ、いつもごめんなさいね。面倒をかけてます。


「あなた達は本当に変わらないわね。もういい。授業を進める」


 僕達に対処するのが面倒になったのか、諦められたのか。どっちかはわからないけど、結局今日も、こもちゃんに勝つことには成功した。


「「いえーい!」」


 小声で喜びながら、音を出さないようにハイタッチする。これもいつもやっていることだ。


 こんなことをしてるから『イチャついてる』だなんて言われるんだろうなぁ……

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君の背中を追いかけて ハルノエル @harueru

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