第15話 竜が帰りくる

うーん、あらかたこの世界のことは見終わったかな?思ったより時間がかかったなぁ……一週間くらい?太陽を追っかけるみたいに飛んで行ったから時間感覚は曖昧だ。この世界の日付変更線って何処に有るんだろうな?



俺は人に見つからないよう、高高度を維持して飛びながら、また、できる限り雲に隠れて移動できるように微妙に身体の舵取りを行いながら……これまでの事に思いを馳せる。



この大陸には最初の都市から見て、4つの国に分かれているようだった。北西の百合と剣の旗を掲げた城、北東の斧と槍の旗を掲げた豆腐を組み合わせたような城、南東にある旗はないがいかにも大聖堂っていう感じの場所。

最後に、南西にはハンマーと鎌を組み合わせた旗を掲げた宮殿があった……こちらは獣人らしい人影が他の3つの都市よりも多くて、如何にもファンタジー!って感じだったが、空から見た限りドラゴンは居なかった。竜人っぽい奴はいたけど……多分リザードマンとかだよな、きっと。


そして何だかんだと、この大陸だけでなく海の向こうの都市とか国家の様子も見に行ってしまった。アジアっぽい国とかアフリカみたいな国もあったけど、日本みたいな場所はなかった……中華っぽい赤塗りの建物とかは建っていたんだけどな……水田を見つけたときは「お?」って思ったが、そっちはベトナムっぽい雰囲気の国だったし。



まあ、そんなわけで……単に飛んで移動するだけならまだしも、気になる場所があれば翼を止めて観察したり観光したり、時には出来る限りに身を隠しつつ大地に降りたりしたので、思ったより時間がかかってしまったわけだ。

いや、まあ……元の世界基準で考えて一週間で世界を周回したと考えれば、ハイペースもハイペースなんだろうけど。

それにしてもドラゴンの身体は頑丈だな〜……あちこちに飛び続けたというのに、筋肉痛とか疲労とかも感じることがない。勿論、無休息だったわけじゃあない。腹が減ったり喉が渇いたりすれば、山とか森を探して、その奥地で食いでのありそうなモンスターっぽい大型の生き物を仕留めて食ったりはしてたし、川や泉の水を飲んだり、寝たりウンコ出したりもしたが……そういう必要最小限の休息以外は取らずに飛び続けられたからなあ。俺の前世なんて学校の苦行授業でマラソンしただけで身体中悲鳴を上げていたのに。やっぱ身体の作りとかからして他の生物とは違うんだろう。



だがまあ……身体は頑丈でも、やっぱりドラゴンの身体ってのは不自由だ。



先の村では上手いこと行ったから、他の村とか都市とかでも上手くいくかなと思った……ちゃんと事前に確認して、急激に近寄らったり、いきなり市街に入らないよう注意したんだけどなあ……ダメだわ、近づこうとするとメッチャ攻撃される。

いや、まあ効かないのは解ってるから、今回は反撃もせずに好きに攻撃させて様子を見てたんだが……そうすると、今度は逃げちまうんだよなあ……。

まー、でも、日本基準で考えたら羽の生えたクソバカでかいヒグマが突然やってきて、必死に銃とかで応戦してもノーダメージで突っ立ってたらビビって逃げるか……俺でも逃げるわ。どう考えても「何なんだァ?今のはぁ……?」って威圧されてるとしか思わん。まさか「もしかして人と仲良くしたいのかな?」なんてトチ狂ったお友達がいるはずもないだろう。


そもそも俺も異世界人が何言ってるのか理解できないからなぁ……こういうのって自動翻訳機能とか付いてるもんじゃあねえのか?異世界転生テンプレを適用して欲しかった。




グルル……



唸る。

そうだな、言葉だ。


言葉さえ別ればまだマシなコミュニケーションが取れると思うんだよな。

流石にドラゴンである俺は人語を話せるとは思えないが、相手が何言ってるか解るだけでも十分なんだよ。「freeze!」って叫んでる相手に近寄ればそりゃあ銃で撃たれるのも道理だが、逆に言えば相手の言葉に従って動けばある程度の信用をそこで手に入れられるってことだ……言葉が通じる相手を、知性のある同族だと考えるのが人間というもの。

先の例えの羽の生えたクソバカでかいヒグマだって、人間から「右向くんだよ90度!」って言われて直ぐに「ぬっ!」と右向けば、差し当たりその時点で攻撃はされないんじゃあないだろうか?

それに、YES/NOの受け答えなら全身無差別破壊兵器である俺でも出来るだろうし、意思疎通も見込める。


言葉を覚えるメリットはとにかく大きいし、前世でTOEICどころか英語検定すらゴミクズたる俺ですら、面倒だろうが必死こいてやろうと気合も入っている……の、だが。

ただ、問題は誰に教えてもらうかなんだよな……怪物相手に言葉を教えようとしてくれる人っていないか?ドラゴンに異世界会話を教えてくれる駅前留学店舗とかないかな?いや、マジで居たら絶対に狂人の類だろうが。



そんなことを考え、蒸気のため息を吐きながら、すっかり俺の塒となった洞穴へと戻……アレ?



……おかしいな、確か洞穴周辺は俺が地割れ作った上に、色々と自分の覚えている魔法を確かめるため、実践実験を繰り返したせいでポストアポカリプスめいた荒野が拡がっていたんだけど……。



……なんで、すげえ樹海になってるんだ?



あれ?洞穴の場所間違えた……?でも地割れ跡はあるし、ドラゴンの方向感覚的にも戻って帰ってきているって確信があるんだが……え?なんで?エルフでもやってきて植林活動でもしたのか?

そういや、諸国巡りしてたときにエルフの姿は見なかったしな、ファンタジー世界だから絶対いるものだと思ってたけど……この世界にエルフは居ないのかな?いや、むしろ一族総出で直しに来たから見なかったとか?


俺は首をひねって付近を飛び回り……ふと、一番樹木が濃く、多く繁っている場所を発見する。そこだけ異様に緑が濃いというか、樹木が巨大化しているというか、有り体に表現するなら世界樹一歩手前みたいなところだった。


俺はそこを見て…ついでにドラゴン特有の地図感覚と照合して……確信する。



……あそこ、俺がドラゴンウンコを纒めておいた場所トイレじゃん……。



え、ドラゴンウンコってこんな能力あるの……?

……マジで?こんな短期間で荒野を樹海に変えるの?



………いや、まてよ?



俺は諸国漫遊したときに飯も食ったし……ウンコも何回かしたよな?



あの場所もまさか……?






俺はしばらく動きを止めて、考えたが……。





うん、そうだな。諦めよう。



思考を放棄することにした。

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