奇跡は起こりうる、のだろうか

第四章-1 死者は三日目に甦る

「ひとりになったらね」


お母さんは言うんだ。


「自分の好きなことをするんだ」


私はお絵かきが好きだった。だからずっとお絵かきしていたわ。お母さんはそう言った。

それってお母さんがずっとひとりだったってこと。わたしは何も言わなかった。


「だからね、マリアがひとりになったら、お母さんみたいに好きなことをしてもらいたいの。あなたがしたいと思うことをしてね。それはきっとあなたのためになるから」




お父さんがいなくなってから、わたしはお母さんにぴったりくっついていたわ。ずっと一緒。ずっとずっと一緒。一人になんてさせてあげないの。

夜のお庭に誰かいる気がしたわ。足音がする。ドアを、窓を叩く音がする。

わたしはしっかりカギをかけて誰も入ってこれないようにした。その誰かは、お家に入ったらわたしたちのお部屋にやって来るわ。それから、名前も言わないで連れてっちゃうの。


わたしは、ひとりになりたくなかった。

優しいお父さんを連れていったのはきっとあの人よ。でもそうだなんて言えない。

知らない人を悪い人だって決めるのは神様が許さないわ。もしかしたらね、本当はあの人、そんなに悪い人じゃないのかもしれないんだから。

だってあの人はアリスちゃんのパパだよ。パパがいなくなって悲しむのはアリスちゃんなの。アリスちゃんのことが大好きで大切なら、マリアの気持ちもわかるでしょ?

お父さんがいなくなって、わたしはとっても悲しかった。

だから言わないの。アリスちゃんのために。あの人がやったんだって。

わたしはひとりぼっちになりたくなかった。お母さんをひとりぼっちにさせたくなかった。でもアリスちゃんも、ひとりにさせたくなかったの。

ねえ、わかるでしょ? ひとりはこわいんだよ。




外に誰かいる。中に入りたくて、待ってるの。

ドアが叩かれる音がするわ。小さく、コンコンって。入れてくれって言ってるの。でもダメよ。

お家の中に入れたら、その人はまたわたしから大好きなものを連れていっちゃうわ。お母さんか、ブランか。そんなの、絶対にイヤ。


だからドアと窓を閉めるわ。

カギをかけるわ。

カーテンを引いて、見えないようにするの。

ひとりはイヤ。今夜はみんなで同じベットで眠るわ。







お願い、お父さん。かえってきて。







ヨセフさんがいなくなって一日目の夜だったわ。お月さまもお星さまも、誰も帰ってこない、暗くて暗くて真っ暗な夜だった。




外には誰かがいたの。

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