第三章-3 噂
アリスちゃんはマリアのことをキライになった。アリスちゃんはもうマリアとお話してくれない。アリスちゃんは。アリスちゃんは。
「ねえ、ナターシャ。あなたのこと、お話できなかったよ」
わたしはもっと早くに言ってればよかったと思った。ナターシャのことを、動くお人形のことを。
信じてくれなくてもよかったの。ただ、聞いてもらえればそれでよかった。
「ナターシャがね」
「お家にいるお人形よ」
「いつもわたしのお部屋に来てたわ」
「ロシア人形なんだって」
「でも本当はね」
わたしはいろんな人にお人形の話をするようになった。いつもナターシャのことを言うからね、大人の人は「ナターシャ」がわたしの想像のお友だちだって思ってるみたいなの。わたしはたくさん話した。
お父さんとお母さんは困った子だなんて言いながら止めようとしない。だからこれは悪いことじゃないのよ。わたしは続けた。
きっとね、たくさんの人がわたしのお話を聴いたわ。だからなのかな。わたし、知らない人の声が何かを言ってるのをよく聴いたの。
「君があのお家の」
「呪われてる」
「人形が動くはずない」
「変だ」
「よりによってあの家」
「呪われてる」
「おかしな子」
「呪いのせいだ」
ひそひそ言ってるのが聴こえたの。だからわたし、言ったんだ。
「呪われてなんかいないわ! だってお話の最後は」
呪われてなんかいないのよ。あの家は変かもしれない。でも呪われてなんかいないわ。
それはわたしが話したお人形の話のせいだと思ったわ。わたしが変なことを言ったから、あの家は呪われたんだって。
でもちょっと違うのよ。
あのね、みんなが話す「呪われた家」の話って、わたしが話したことも聞いたこともないお話がまざってるの。
「動く人形」
「謎の地下室」
「裏庭の迷路」
「数が一多い住人」
「異常な集会」
「開かずの間」
まだあると思うわ。わたし、お人形以外全部知らなかった。
あの家は「呪われてた」家だったのよ。ずっと前からそういう風にウワサされてたお家。
わたしは思ったわ。
なんで、そんな家にお母さんが呼ばれたのか。なんでわたしたちがそんな家に住まなきゃいけないのか。
なんでナターシャはあの家にいたのか。
わからないことばっかだった。
だから、知らない人から声をかけられた時も、わたしの中で変なのとして終わったの。
「きみ、マリアちゃんだね」
一度だけ見たことがあった。
アリスちゃんのお父さん。
わたし、知らないの。わからないの。
でもね、この人のこと、わたしキライなんだ。
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