第三章-2 噂
「わたし、マリア」
アリスちゃんに初めてごあいさつした時の笑顔が忘れられない。彼女はとっても素敵な笑顔をわたしに見せてくれたの。
「あたし、アリス!」
キライだと思ったのは気のせいだったのね。だってキライになる理由なんてないじゃない。
アリスちゃんは六才。わたしはあとちょっとで六才になるけど、まだ五才だった。アリスちゃんとは同い年のお友だちになりたかったの。だからわたし、
「もうすぐ六才だよ」
そう言ったの。だってそうでしょ。わたしはもうすぐ六才だった。
「じゃああたしたちお友だちね!」
可愛くて素敵な女の子は笑ったわ。アリスちゃんのお母さんは絶対に美人よ。見なくてもわかる。彼女がこんなに可愛いんだもの。そうに決まってる。
女の子はね、お母さんに育ててもらうの。だって女の子の気持ちがわかるのはお母さんよ。男の子はお父さんに育ててもらうの。男の子の気持ちはお父さんだから。だからこんなに素敵な女の子を育てるお母さんはとっても素敵な女の人。きっとそうよ。
わたし、嬉しくなったわ。お母さんとお父さんを思い出した。アリスちゃんにもお母さんとお父さんがいるって思ったら、なんでかわくわくした。わたしとアリスちゃんはおんなじだって思ったの。
そんなはずないのにね。
仲良しになれたと思ったの。でも何度も会ううちにアリスちゃんはわたしに笑わなくなった。教会の人が出してくれるお菓子も、アリスちゃんはわたしのためだって言いながら持って行っちゃう。
アリスちゃんはわたしのことがキライになったんだ。
だから、わたしもアリスちゃんのことをキライになった。
とっても素敵で可愛い子だったんだよ。でもいつからこんな風になっちゃったのか、わたしにはわからないの。
アリスちゃんにだったらあの動くお人形の話をしてもいいと思ったのに。わたしはなんにも話さないまま、アリスちゃんとさよならした。
悲しかったわ。寂しかったわ。そんなわたしの頭をお姉さんはゆっくり撫でていてくれた。お姉さんだけはいつだってわたしの味方だった。
わたしはもっと淋しくなったわ。アリスちゃんはもうわたしとおしゃべりしてくれないの。
アリスちゃんとのことはね、お母さんたちにお話したんだ。こんな可愛い子がいたんだよって。だからね、何も話さなくなったわたしが変だとは思ってたのかもしれない。
お父さんは新しい絵本を作ったわ。動くお人形の続きの話よ。その本にお母さんは絵じゃなくてね、カバーを作ったの。本にお洋服を着せる。わたしはびっくりしたわ。
その本のお話には、二人のお人形が出てきたの。お家の中にいる歩く人形。外からやって来たお庭を歩き回る人形。
わたしはなんでかマリアとアリスをそのお話に被せたわ。
なんでだろう。
アリスちゃん。お話したいな。
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