第二章-5 神様は見ている

ねえ、ナターシャ。ねえ、ナターシャ。


どうしてあなたはまたわたしのお部屋にいるの?







一人の少女がお家で遊んでいます。庭にも町にも出ることなく、少女が一人でお家の中にいます。彼女の名前は




「ナターシャ?」







わたし、町の子が変に見えるの。こっちを見てにやにやしてる。わたしのお洋服が変なのかな。髪に何か付いてるのかな。そう思ってお姉さんにもお母さんにもお父さんにも訊いたの。でもわたしはいつも通り。

なんでだろ。なんでだろう。もうほんとになんでかわからなくて、町の子たちを見ないようにしたわ。

わたし、町に来てからずっと変。前は、山小屋にいたときはわたしだったのに違うわたしになっちゃった。

だってみんな、変って言うんだもの。だから変じゃないようにわたしはわたしを変えたわ。どっちも「マリア」だもの。わたしはどんなに変わっても「わたし」なのよ。


ねえ、そうでしょ? ナターシャ。

あのね、ナターシャ。

ほんとうは。ほんとうのほんとうは。

わたし、不安だったの。


変わっちゃったのはわたしだけじゃないわ。お母さんも、お父さんも、どこか変わっちゃった。

変わらないといけなかったの。前のままのわたしたちを町は仲間にしてくれなかった。町が変えたの。わたしたちを。

だから早く全部終わって、もとのわたしたちに戻りたかった。

変わった「わたし」のこと、わたしは好きじゃなかったから。


ねえ、ナターシャ。

わたし、どうしちゃったのかな。

夜、真っ暗なお部屋で眠るのが怖いの。目を閉じると、あの町の子たちの顔が浮かんでくるの。

あの子は変だ。あの子はおかしい。あの子は呪われてる。あの子たちの顔と目と声が怖いの。誰もマリアって言ってないのに、あの子たちが言う「あの子」はわたしのことだって思うの。子どもたちだけじゃないわ。町の人みんながわたしのこと変だって言ってる。

そう思っちゃうの。

そんな人たちのことなんてお祈りできないわ。


ねえ、ナターシャ。神様は見てくださってるわ。

わたしのことも。お母さんもお父さんのことも。あの子たちのことも。あの人たちのことも。

でもね、何にもしてくださらないの。

神様はわたしのすぐ近くにいるけど、何にもしてくださらない。何にもできないの。


寒いわ。寂しいわ。淋しいわ。悲しいの。あの子たちの目が。

でもどうしたらいいのかわかんない。

教えて、ナターシャ。あなたはわたしたちよりずっと前からここにいるんでしょ?

わたし、あなたがお人形で何もできないって知ってるわ。神様と同じね。何にもしてくれないわ。

でもそれでいいの。

今、あなたがこうして毎晩わたしのお部屋にきて、お話を聞いてくれるだけでいいの。

目の前に座って、笑っていてくれるだけでいいの。だってナターシャはお人形だもの。




ねえ、ナターシャ。

あなたはなんでわたしのお部屋に来てくれるの?

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