第二章-4 神様は見ている

一人の少女が町へやって来てからしばらく経ちました。しかし少女は町の子どもたちと遊びません。彼女の名前はマリア。マリアは子どもたちからどう思われているのでしょうか。







お母さんは家の外には出ないわ。お母さんのことがキライな人たちがいる町になんて行かない。わたしもそうよ。お母さんとお父さんとブランがいればいいの。

お母さんはなんでこんなところに来なきゃいけなかったのかな。それがずっと不思議で、わたし、訊いてみたの。

「この家はね、誰かが持ってないといけない家なのよ」

この家はね、誰かの物なの。誰の物でもなくなった時、それが一番ダメなんだって。

わたしの物です。そう言う人がいればいいのよ。ずっとそう言えればいいの。家はおとなしくしていられるから。

ブランの首に首輪をしてあげた時と同じよ。わたしがブランに首輪をはめてあげるとね、ブランがわたしの家族だってわかるでしょ。だから誰もブランを傷つけない。傷つけちゃいけない。

ブランが誰かを傷つけるとね、わたしが怒られるの。わたしが怒られるとね、お母さんもお父さんも怒られるの。だってブランの家族ですもの。ブランを良い子にさせてあげなくちゃいけないの。それがわたしのせきにんよ。しなくちゃいけないことなの。

それは山小屋にいても、この町にいても変わらないこと。ブランはわたしの家族。ブランはわたしのもの。


この家も同じなんだって。

家が悪い子にならないように誰かの名前が入った首輪をつけてるの。

でもね、家はわたしたちよりもずっとずっと長生きだから、首輪を変えなきゃいけないの。


この町の人は大きな家族なんだって。どこかで血が繋がっててみんな顔見知り。

よくわかんないけど、お母さんは「血が濃い」って言ってたわ。「かけあわせ」とかとも言ってたかも。

でもそんなのは昔の話だって。今そんなのがあったらとんでもないことだって。

えっとね、わたし、子どもはお父さんとお母さんからできるって知ってるわ。聖書のアダムとイヴ、神様にダメって言われてたことをしたからイヴはお腹から子どもを出さないといけなくなった。アダムはずっと働かないといけなくなった。

それはアダムがお父さんに、イヴがお母さんになるからなんでしょ? だから、できた子どものお父さんはアダム、お母さんはイヴなのよ。

子どもは大人になって、別のアダムかイブと結ばれるの。それはお父さんでもお母さんでもないアダムかイヴよ。

だって違うでしょ? お父さんかお母さんと子どもが結ばれるなんて。できた子どもは弟妹じゃないわ。子どもの子どもよ。そんなのっておかしいわ。


そんなおかしいことが昔、この町では普通だったんだって。町の人たちは近かった。みんな、家族だった。




わからないわ。わからない。


だから、お母さんはわたしに言うの。


「知らなくていいことなのよ」


お母さんはきっと知ってるわ。知りたくないことを知ってるのよ。

きっとそれは、やっちゃいけないことなの。神様が怒る、やっちゃいけないこと。

それは昔、この町であったこと。この町の普通だったこと。


じゃあ、今は?


町の人たちは大きな家族なの。その家族が内緒にしておきたいことが、この家には詰まっていた。それはね、外に出しちゃいけないことなの。家が悪い子になっちゃうから。




ねえ、ナターシャ。

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