第二章-3 神様は見ている
一人の少女が町へやって来てからしばらく経ちました。しかし残念なことに少女とお母さんは町の人たちと仲良くできていないようです。彼女の名前はマリア。マリアは新しい家で何をしているのでしょうか。
週末にわたしは教会に行くの。楽しいときもあるしそうじゃない時もあるわ。でも公園に遊びに出かける時と同じよ。行った先で何があるかなんてわからない。
それでも行きたいからわたしは行くの。大丈夫よ。お父さんとお母さんが一緒だもの。
でもね。
知りたくないことを言われた時、今日ここに来なきゃよかったって。
そう思うことはあるんだ。
何度も教会に行ってね、わたしに誰かが言うの。
「呪われた家の子だ」
お母さんは引っ越した先の家がどんな家か知ってたわ。
「あの子の家は呪われている」
だって、お母さんに押し付けられたお役目ですもの。
「呪われている」
きっとお父さんも知ってたわ。
「あの子は呪われている」
だってお母さんの大事なお父さんですもの。
呪われてなんかいないわ。わたしもお母さんもお父さんも、誰も呪われてなんかいない。
それに、呪われた家なんてどの絵本にも出てこないのよ。どんな家だって呪われたくないでしょう。
「呪われてる?」
ナターシャのガラスでできたまんまるおめめを見ていると、何か言ってる気がするの。ねえ、そういう時、ない? お人形がしゃべる時間。お人形が動きそうな時間。
あるはずないわ。ナターシャはお人形よ。どんなにわたしたちにそっくりでも、このロシア人形はロシア人間じゃないもの。お人形は自分だけじゃ動かない。お人形はしゃべらない。だってお人形だから。
でもお母さんとお父さんはわたしに家のことを話さない。今住んでるこの家になにかあるなんて、誰も知りたくない。だからわたしに教えてあげないの。
「ねえ、ナターシャ。あなたはだあれ?」
ただのお人形、ナターシャ。
この子だけがわたしになにかを教えようとしているの。
夜になるとね、ナターシャはわたしのお部屋にいるんですもの。
動かしてないのに。
夕食の時はいつもどおりリビングにいたはずだわ。あそこがこの子の場所なんだから。
でもわたしのお部屋にいるの。
ナターシャはお人形なのに。
こわくなんてないわ。ナターシャはただのお人形。お人形なの。
ただ、ナターシャのおめめがキレイすぎて不思議なことが起こってるだけよ。ナターシャは変じゃないわ。
小麦色の長い髪、前髪は短く切り揃えて。不思議な青い目、ロシアンブルーっていうロシアのお空と冬の湖の色。ほっぺたは赤い白雪姫。お口はピンクのバラの花びら。
お洋服はね、民族衣装なんだって。きっとロシアの人のお洋服よ。だってロシア人形だもの。ナターシャにすっごく似合ってる。他に誰も着てるのを見たことがないわ。
きっとね、ナターシャは帰りたいのよ。わたしたちみたいに。
この町はロシアじゃないわ。この子の場所じゃない。
いつかね、わたしたちが山小屋に帰る時には一緒にお外へ出るんだ。それでね、ナターシャをロシアにかえしてあげるの。ロシアにはお友だちがきっとたくさんいるわ。
でもごめんね。まだ帰れないの。
ナターシャをお家に帰してあげられないマリアを許してください。
「アタシ、ここにいるわ」
あら、またわたしのお部屋にいるのね。ナターシャ。
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