第二章-2 神様は見ている
一人の少女が町の教会へと通い始めました。お父さんとお母さんも一緒です。彼女の名前はマリア。マリアは教会で新しいお友だちと出会います。どんなお友だちでしょうか。
わたし、いろんな人に出会ったわ。だからわかったの。わたし、みんなのことがキライじゃない。でも好きな人は数えられるだけしかいないのよ。
教会にはたくさんの人が来る。その人たちみんなとお話するなんて無理よ。それだけたくさんなの。
みんな知らない人たち。お話してやっと好きかキライかわかるわ。だからキライじゃないの。好きでもないの。
それでいいじゃない。あの人のことは好き、あの人のことはキライ。いちいち好きかキライかで人をわけるなんて、そんなのいみないわ。
食べてから好きかキライか言えばいいのよ。わたしはそう思ってたわ。お父さんもそう言ってた。でもね、お母さんは違うんだって。
見たこともないのに自分は「キライな人」に入れられる。お話なんてしたことないのに、「エヴァはキライで変だからどっかいけ」って言われたことがあるんだって。わたしはその人がキライになったわ。だってわたしの好きな人のことをキライだって言うのだもの。わたし、その人のこと知らないけどキライだわ。
そう言う人たちのいる町のことも、わたし、キライだわ。
お父さんはよそものだった。町の外からやって来た人。関係ないって見向きもされない。
お母さんはでもどりだった。町から出ていって、また戻ってきた人。イラナイから追い出して、やりたくないことやらせるために呼び寄せる。
わたしはつれごだった。戻ってきた人が連れてきた子。よそものでもない、ずっといた人でもない。じゃあわたしはみんなにとって「好き」なの? 「キライ」なの?
みんなはわたしを見ないで「キライ」にしたわ。お母さんがエヴァだからキライなんだってさ。いいよ。わたしだってそう言うみんなのことキライになるから。
わたしは「キライ」な人の前で笑わなくなった。笑わなくたっていいよ。誰も見てないんだから。
「いいんじゃなくて?」
それでもいいよって教会で会ったあの子は言ったわ。右手で数えられるくらいしかあったことはなかったけど、その子はわたしの一番のお友だちで、初めてのお姉さんになった。
わたしはね、お姉さんの前ではにこにこ笑顔になるの。楽しくっておもしろくって、一緒にいるだけで笑っちゃう。お母さんとお父さんと一緒の時もそうだよ。「好き」な人と一緒にいるとうれしくなっちゃうの。
教会は楽しいわ。お姉さんいるし、キライじゃない人たちもたくさんいる。
わたしの場所は家と教会になった。町にはわたしたちの場所がないってわかってたの。みんな、イヤなお顔をするから。
お父さんは外に出ることが多くなった。わたしたちが外に出ないかわりに、お父さんが外に行くの。
お母さんは痩せてしまったわ。でもお仕事は続けてる。わたしもそうしてほしいと思った。お母さんの絵を、描いたお洋服を見るのがほんとに好きだった。大好きだったから。
いつか山小屋に戻ったらね、わたし、絵本をお母さんとお父さんに読んであげるんだ。そして、ベッドの中でお祈りをするの。
「天の神様のお名前によって感謝してお祈りいたします。アーメン」
教会で習ったお祈りを、毎晩するわ。神様は見ていてくださるもの。
聖書はまだ重たくて開けない。でもいつか、わたしがみんなのために読んであげるの。
だからね、家の中で、こっそりとお祈りの練習をしているのよ。お父さんが外に出ている時間、お母さんがお庭でブランのお散歩をしている時。
誰もいない部屋の机の上にね、あのお人形、ナターシャを座らせて、まだうまくできないお祈りを聴いてもらうの。
彼女は笑っていたわ。
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