おめみえになられている
第二章-1 神様は見ている
一人の少女が町へとやって来ました。彼女の名前はマリア。お父さんとお母さん、そして大きな白い犬と一緒に、彼女はある日この町へやって来ました。
お母さんのお家はたくさんの人がいたわ。でもみんな、お母さんのことをバカにするの。影でこそこそ悪いことを言われていたわ。でもそれをお母さんの前では言わないの。
ひどいわ。お母さんは泣くのを我慢して、いつも返事だけしてた。
「ええ、そうですね」
「はい、わかりました」
「すいません」
「ごめんなさい」
ごめんなさい。ごめんなさい。いつもいつもお母さんはごめんなさい。悪いことなんてしてないわ。でもお母さんはごめんなさいするの。
わたし、わかるわ。怒られたくないの。恐いお顔、大きな声、痛い言葉。悪いことしてないのに「おまえが悪い」にされる。
なんでかわからないの。だからごめんなさいしなきゃ、その人は怒ったまま。お母さんはいつも誰かに怒られていた。
そんなの違う。どうしてお母さんが怒られなきゃいけないの。それは絶対に言っちゃいけないことだった。
お母さんは。お母さんは、本当にお家から一歩も外へ出なくなったわ。みんな、お母さんを見ると怒るの。不機嫌になるの。だから、お母さんはお家から出なくなった。
お父さんはね、そんなお母さんを包んで、それでもいいって言ったわ。その分、お父さんは外に出てお買い物とかオシゴトをするようになった。
わたしは外へ出たりお家で遊んだり、その時の気分で一日を過ごしたわ。お母さんのおかげで怒られずにいられたの。
町の人はわたしを見ても怒らなかったわ。でもいい顔もしなかった。そういう時はね、にこって笑ってごきげんようって言うの。で、ね。誰かが何か言う前にお家へ帰っちゃえばいいのよ。
そう言って笑って見せてくれたのは町で出会った二つ年上のお姉さんだった。
町は大きかった。でもね、だからひとつにまとめるのが難しかったの。大きすぎるからみんなで一緒が難しい。でも別の町にはできない。別の町になったら小さすぎるから。
町はいくつかのまとまりに分かれてて、それをまとめる大事な場所があった。それが教会。わたしたちが週末絶対に欠かすことのない大事な大事な場所。
家からずっと離れた教会にはお母さんのことを知ってる人がほとんどいない。いろんな場所からいろんな人が集まっているんだもの。神様はすべての人を愛してくださるわ。 そして、御言葉によってたくさんのことを教えてくださる。お父さんの絵本からさえ学べない主の御心がわたしたちの心の在り処となるの。
そう、その場所でわたしはお勉強をした。まだ学校に行かなくてもいい年齢で、行けても家からは遠すぎたからね。わたしは学校へは行かないの。学校の代わりが教会だった。
そこで会った彼女は家からずっとずっと遠いとこ、町のはしっこに住んでいたわ。だからお母さんのことも知らなかった。
「あら、あなた初めての子ね。いいわ。あたくしがいろいろ教えてあげましてよ」
その子はね、すごくひらひらしてて、髪の毛をくるくる巻いて、いつも違うリボンでおしゃれして。可愛いよ。うん、すごく可愛い女の子。二つ年上の女の子。
でもね。でもねえ。
「ほら、とっととお名前を名乗ったらどうですの?」
ちょっと変かもしれないね。
ふふっ。わたしたち、すごく気が合っちゃうわ。変な子同士、きっと素敵なお友だちになれるよ。
その子はね、年が離れたお姉さんの真似をしたいお年頃。妹が欲しかったんだって。
「わたし、マリア。あなたのお名前を教えて」
山小屋を出てよかったって思ったのがこの子との出会いだよ。他のはいらなかった。
いらないわ。だって、家の近くの子はみんな、お母さんもわたしもイラナイんだもの。
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