第一章-2 あの町、この町

大きな木でできたお家はわたしとお母さんと新しいお父さんでいっぱいになった。近くにはもうお菓子屋さんもスーパーも公園もないけど、わたしはお母さんと、なによりお父さんが一緒だったからさみしくはなかったよ。

三人だったからお外が雪で真っ白になってもつまらなくなかった。どんなにお外に出ちゃいけないって言われても、お家の中には楽しいがたっくさん詰まってたから、わたしは飽きることがなかった。

ただ、わたしが大好きだったボール遊びができなくなっちゃったのだけはおもしろくなかったな。


山小屋での毎日はほとんど同じだった。朝起きてお母さん手作りのごはんを食べる。ひとりで遊んで、お昼とおやつを食べて、お昼寝をする。気づけばお外は真っ赤になって、みんなでごはんを食べながら今日のお話をする。

なにもなかったよ。なんにもない。それが山での暮らしなんだって。

毎日が同じで、毎日が違う。まちがいさがしの今日と明日はなんだかおもしろくなっていった。

時々お客さんがやってきた。その人たちはわたしたちのためにお家がケガしてないか見てくれたり、お野菜やくだもの、お肉やおさかなを売ってくれた。たくさんの人たちはお父さんの知り合いだった。中にはお友だちもいた。男の人も女の人もいたけど、わたしのお友だちなれる子はいなかった。


たまにね、そんな人たちがわたしに写真を見せてくれるの。

「うちの小僧はわがままなんだ」

「うちの子はあなたよりいくつ年上なのよ」

「連れて来れたらよかったんだけどな」

「いつか会えたらお友だちになってあげてね」

離れたところにわたしのお友だちはたくさんいたの。でもまだ会ったことのないお友だち。近くて遠い明日に会えるお友だち。

わたしは一人じゃなかった。写真を見せてくれた人たちに、わたしは言った。

「わたし、マリア。その子とお友だちになりたいな。お名前を教えて」


わたしには会ったことのないお友だちがたくさんできた。それはとてもすてきなことだと思うの。


お山にあるお家はお父さんのお家だけだった。他の人のお家はお山の外にあった。そこには前にわたしとお母さんがいたみたいなアパートも、スーパーも、公園も、たくさん揃っていた。でもお父さんのお家はそこにはなかった。

わたしたちがいる山小屋は、お父さんのお父さんからもらったものなんだって。お父さんのお父さんはそのまたお父さんからもらったんだって。だからこの山小屋はとっても大事なもの。いつかここはわたしのものになる。ヨセフからマリアに贈られるプレゼントなんだって、お父さんは笑って言った。

よくわかんなかったけど、お母さんも笑っていたからきっとすてきなことのはずだよね。


いつかね。みんなをわたしの山小屋にご招待して、パーティーを開くのがわたしの夢なんです。たくさんお話して、たくさんおいしいものを食べて、夜には外に出てお星さまを見るの。

それでね、お父さんにお願いするんだ。お星さまのお話を聴かせて、って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る