第37話 奉行が頑張ってみる回

 結局ぐっちゃぐっちゃのぬかるみが固まるまで休憩所にいました。冬将軍はどうにもならんね。

 おかーさんの履帯は徹底的に封じたし。そりゃ、あれば進めただろうけど通常は使わん。

 フィーが歩けば良いのだ。8輪は戦闘用で十分。


 フィーだって子犬ではない。超巨大オオカミなのだ。体高210センチメートル全長295センチ。横幅はギンガグマをも超える。

 普通に歩くだけで速いのだよ。全力疾走されたらなんもない状態だと風で吹っ飛ばされる。

 それくらい速い。

 ちなみに人が乗っているときは風の防護壁を展開してくれるので風の影響は全くなかったりする。雨もしのげるよ。フィーの速度は落ちるけど。

 時速だと20キロメートルから30キロ、それくらいの速さで歩いてくれるフィー。歩きでこれって。馬もびっくりだ。


「もうすぐ城下町に入りますね。小さくなって私が乗りましょう」


 そういって外に出るルカさん。頼りになるなあ。逆に怪しまれることもあるけどね。ミカさんの方が良い場合もある。女一人旅を警戒されることの方が多いけど。

 うちらアンドロイドはちょっと……子供じゃん……。


 無事、中に入ることが出来て宿に入ることに。フィーの目線はラウンジのモニターに映ってるんだよね。耳はマイクで拾ってる。


「さすがに大きすぎて今回も繋がれそうですね」

「でかいからな。しかも犬で。警戒される。なんもない腐ゆっきー町が異常だったんだ」

「どうやってでましょうかしらねえ」


 可能な限り穏便に出たい。ジッパーから出るのはやめておくか。

 誰もいない時を見計らってフィーにテレポートしてもらうことに。


「だれもいないがありません」

「この町は栄えているのか?」

「珍しいから一目見ようというものが多いんです、きっと。WAZAの範囲ステルスさえあればねえ。持ってるのルカさんなのよねえ」

「そういえばルカさん来るの遅いね」


 普通だったら宿屋にチェックインして戻ってくるのに今回は戻ってきません。無線も戦闘時じゃないので持ってないからなあ、ルカさんのはパワーアーマーに付いてる短いところまでしか届かない無線だ。

 私とここあちゃんはだいぶ長い距離まで秘密無線できるんだけど。



 長すぎる。こりゃ連れて行かれたな。


「武装して外に出ましょう。ピストル程度よ」

「らじゃ」

「わかった。最悪ボクのエネルギー速射砲がある」


 魔力結晶作成装置の削りかすで作った単3電池が豊富にあるので、みんな普通のRピストルを装備。

 もちろんおかーさん製なので威力は良い感じに人を殺す程度で申し分なし。

 強すぎる火力を作ったときはお尻ペンペンした。


 フィーに頼んで一気にテレポート。周囲の人がかなりびっくりするが構わない。

 まずは宿屋の人に話を聞く。


「グラサンガングロの大男がどこに行ったか知りませんか?」

「ええと、奉行様がきてどこかに連れて行ったのはみました。それ以外は」

「奉行ですか」

「奉行所の場所はわかりますか?」

「セツキリエル、場所を案内してやって」



「奉行がいるなんて、この城下町そんなに広いのか」

「ぶぎょうってそんなすごいの?」

「御役人ですね。あとで漢字教えますね」

「たてまつるとおこなうだ」

「奉行か。へー」


 しばらく歩いて奉行所へ到着。セツキリエルはしょうコゼニをもらって退散していった。


 あれじゃん、私は日本銀河帝国に属した星の出身だから漢字使うけどさ、小銭を渡すって言葉があるじゃん。

 あれ今なんて言えば良いんだ?

 読みはコゼニだよね、通貨のコゼニと被るんですけど。

 ココゼニ? 間抜け面だな。

 少額のコゼニを渡してうんたらかんたら。小遣い程度のコゼニをもらってうんたらかんたら。賢い人が使いそうだ。私は馬鹿だ。

 チップだと!? 貴様アメリカ合星連合の密偵か!?

 私は馬鹿だからしょうコゼニでいいや。



 ほー、奉行所の前には兵士が二名おる。


「距離は53メートル65。どちらも胸に金属製の鎧、腹部に軽い木製、タケッケーかなあ、そんな感じの防具を身につけている。軽武装だね。槍は多分タケッケーの柄に金属の穂先。頭の上を越えてるんで長いね」


 まだまだここあちゃんのほうがアイセンサーの機能はすごいんだけど、せっかくちょっと前に機能向上したんだしと私が偵察させてもらった。

 ここあちゃんは私のアイディスプレイなんて目じゃないほどのアイセンサーなんだろうなあ。


「槍は威圧用と距離を取るためだろうね。応援がすぐ内部から飛んでくるんだろう。荒事を起こしてコボルト退治を失敗させたくない。ミカが先頭に立って交渉してもらうしかないな。ボクとあずきは子供役だ」

「自ら進んで子供役になるなんて珍しいわねえ。一度バックパックを置いて出直しましょう、中味を荒らされたくはないわ。ピストルはあずきの背中に入れて隠しましょう」

「ボクだって情緒が成長しないわけじゃないさ」

「おお、私の背中が役に立つとは」

「このポンコツはいつまでも成長しなさそうだけどな」


 一発膝を入れてからフィーの前に戻り、テレポートさせてバックパックを収納。お札は予備も背中に仕舞い込みました。ピストル3丁くらいなら入るスペースがある背中君です。絶対空間拡張されてる。


 そしてしずしずとミカさんが奉行所の前に立つ。


「何者だ、名を名乗れ!」


 兵士Aが威圧した声で話す。


「中原ミカと申しますぅ。ウチの連れが奉行様にお連れになられたとのことで、参ったんですぅ」


 ミカさん色仕掛けというか、魅惑仕掛けというか、色っぽい。あのミカさんが……ギャングのような口ぶりに態度だったミカさんが。


「その者の名はなんだ」

「ルカと申しますえ。サングラスに真っ黒な肌の大男ですぅ。どうか、面会だけでも」

「お父さんにあいたいね、ここあ」

「えっ、そうだね、あずねえ」


 少し待て、という言葉とともに一人が中へ入っていく。

 門番兵になんか権限あるのかなーと思って待っていたら、上司らしき人がやって来た。ランニングシャツに短パン姿で。まだ寒いよ!? あとランニングシャツは博士を思い出すからキツいなあ!!


「お主らがあの黒いやつの家族か。連行する」

「ええ、私達は会いたいだけなんですぅ」

「……お前だけはワシの部屋に来い。おい、服を準備しろ。さすがに冷えるわ」


 どう、しよう。子供作戦か。まだ暴れるには早い。


「やだー! お母さんと離れるのやだー!」

「おかーさーん、おかーさーん」


 ぜんぜん心こもってねーなここあ。お前が一番可愛い存在なんだぞ。


「ええい! うるさい!」

「やだー! おとーさんとあいたい! おかーさんとあいたい!」

「やだやだー」


 奉行は観念したのか、


「わかった、全員牢にぶち込んどけ」


 となったのでした。合流という点では悪くないか。


 その牢獄。


 腕を後ろで縛られ、猿ぐつわを噛まされた状態でぶち込まれたんですが、私左手取れますからね。そうじゃなくてもナイフは外側に刃が出て出現するので自然と切れます。

 いつでも逃げられるのを確認してから、まずは外さずにみんなと会話です。速効脱獄はヤバいって。お話聞いてもらえなくなるって。


「もしもしルカさん聞こえますかー? 無線の電波を置換してテレパシーにして秘密発信しています」

「こちらからも聞こえるんでしょうか。聞こえておりますよ」

「チューニング良好。何があったんですか?」

「宿のかたにコボルトのことを伝えたら、お奉行様に知らせなくてはとなり、お奉行の配下が呼びに来て、お奉行がコボルトのことはどうでも良い、お前は牢に入れておく。ですかね」


 どうしよう。この奉行は腐敗している。お殿様なのか閣下なのかわからないけど、領主に会わないと事態は動かないんじゃなかろうか。


「他の奉行をあたる余裕はないですよね、真夜中に脱獄するしか道が見えないです」

「数日以内に処刑か、飯を出さず獄死な感じがするので、脱獄でしょうねえ。そうなると他の奉行は遅すぎます」


 なんで人は腐敗するんだろう。私はインプラントくれる以外なら動かないというのに。

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