第32話 肉塊


「わーいわーい刺さった刺さった。さきっちょの輸送便でーす。注入開始」


 にゅるにゅるとさきっちょが入ってくる。やばい、何個入れる気だ。


「10個も入れちゃいました、てへ。それではーショック」

「ぐううう」

「あれ、そんなに効いてないね? 防御インプラントでも入れた? まあいいや、定期的にショックするから次第にやられるでしょ」

「おい、こんなショックしたら全身がやられて、生きていても廃人になるし不妊になるぞ、それでいいのか。不妊じゃ子供産めないぞ」

「そんなーわけーないー。きみはーふしだからー子宮も治るー」


 先っちょが入っている脳の後頭部下部から首筋。そこの置換できる場所をゴムで覆って絶縁したんだ。どこが変えられるかなんて知るわけがないし、ゴム以外の絶縁素材は知らない。ただ10個が電気ショック起こしたら間違いなく再起不能になると思ってとっさにやっただけ。耐えられたけどどんな影響が出ているかはわからない。


 生体脳はさきっちょ2個くらいから焼き切れるので、定期的に全てのデータを機械脳に転送している。

 でも、生体脳は、即座に再生するから定期的に記憶が飛び断片的になるけど、焼き切れてもショック死はしない。限界はあるけど。勿論機械脳にも限界はある。データ転送だって本来苦手なことを無理やりやらせている。


 あとは根本をどうにかしないと。

さきっちょは骨の中に埋まってる。

電撃を食らってるし、違和感が内部から沸き起こってくる。

後頭部から首の骨を割って、取り出さないと。

あと、針……だよね。それが地面まで刺さって動けない。


 どうやって?


 あの子に託すか。


翠乃沃土みどりのよくど、あなたに託す。私の左手を動かす権限を与えるから、なんとか直してちょうだい」

「ピー! ピー!」

「嫌がっても、あなたしかいないの、お願い、私を助けて」

「――ピ!」


 大型工具にもなる翠乃沃土みどりのよくどの戦いが始まった。


 もう一本針を刺されたらかなりまずい。パワーを上げないと。おかーさんの技術で作ったプレート型積極破壊バリアだ。少し負荷をかけても問題ないでしょう。

 右手と両膝でプレートに触り、注入パワーを引き上げる。魔力コアを使い始めたけど、大型魔力コアが2直列4並列もあるんだ、そうそう無くなりはしない。


「なにやってんの? え、直そうとしてるの? だめだめ、そんなのゆるさない。そーれもう一本」


 頭上から針が飛んでくる。まだ翠乃沃土みどりのよくどは上の針を切っているから下が刺さっていて動けない。頼むよ、おかーさん。

 ブシュウ、という音と共に針はバリアを貫通しなかった。よっし。


「あずきー!」


「ここあちゃん!」

「大丈夫か、まだ出てくる変異体を倒せば良いのか、そうすれば手術室で治療できるもんな!」

「いや、自力で直す。ここあちゃんは巨人の方をお願い。あれが倒せれば討伐隊が変異体と戦える」

「良いのかそれで!? 本当に行っちゃうぞ!?」

「それより街は大丈夫なの?」

「ルカさんと占い師さんが変わってくれた。ボクは無限エネルギーの出力を上げないといけないから強化するまでに数瞬の時間が掛かるけど、ルカさんと占い師さんは瞬間的に力を出せるから!」


 じゃあ、行ってくるからね!? と言い残してここあちゃんは巨人討伐へと旅立った。フル装備だからかなりの力になるでっしょ。


「無線! ミカだ! 大丈夫なのか!?」

「今針を削り終わって骨を割ってる。一旦倒れるけど問題ない。主力砲を巨人に! 徹甲榴弾を浴びせれば倒れるはず! 街は巨人から守れるほどのエネルギー積層技術じゃない! 来る前に仕留めないと!」

「よし、向かうぞ。信じてるからな」


 そうして巨人討伐へ向かったミカさん。あとは自分との戦いだ。魔力コアがなくなる前にしっぽを2個以下に取り除く!


 後頭部から首の骨を割ったあと、首にいたさきっちょをピンセットで排除して、後頭部下部のどこかに到達する。詳しいことは翠乃沃土みどりのよくどしかわからない。とにかくここに博士のさきっちょはうごめいている。偽博士はひっきりなしに針を飛ばしてくる。まだまだ一般雑魚変異体は出続ける。

 翠乃沃土みどりのよくどは慎重に取り出し作業を進めているが、どうしても神経を触ってしまう。神経は首の真ん中を通る脊柱管内部にあるから、後頭部下部で作業していると触っちゃうのかもしれない。変に動いてプレートから外れるとまずいので、左手以外の神経を遮断する。がっくりと倒れる。

 だけど事前に上手く倒れる姿勢を取っていたためプレートには身体が残っている。

 首の下に刺さっていた針が勢いよく抜けたが、さすがに神経直下は危ないと思ったのか、頭を下げたことが功を奏したのか、関節脇に刺さっていたため神経を通らずすっぽりと抜ける。

 魔力コアはあと少し。でももう少しだ。なんとかなる。


「よし、2個まで取り除いた! あとは元に戻して!」


 元に戻すのは早かった、一度通った道だ。それを直すなんて翠乃沃土みどりのよくどには造作も無いこと。……といいたいが、まだまだ小さい翠乃沃土みどりのよくどが出来たことと言えば手動釘打ち機をめいいっぱいの力で打ち込んで割った骨をかろうじて繋いだくらい。ルカさんのヒーリングをかけて貰わないと。戦後は手術しないとな。

 ここでやっとプレートを外すし背負う。ぶわぁっと寄ってくる一般雑魚変異体から逃げ針から逃げ、街の中へと。首も脳髄もゴムもギリギリなので猛ダッシュは出来なかったけど、なにもしてないで体力は残っていたからね。門で少々手こずったがなんとか入れた。


「ルカさん! ヒーリングをお願いします!」

「わかりました! フル・ケア! フル・リジェネート!」

 私がエネルギーを注入し、その間にルカさんがヒーリングを行う。街の外では歓声が沸いている。巨人の討伐に成功したのだろう。


「あとはフィーが空間を切って、私が処分するだけ」


 一般雑魚型変異体は出現が止まっていた。針も落ちてこない。もう残弾が無いのだろう。


 ヒーリングが終わったのでルカさんに礼を言い、丘に戻りフィーを呼ぶ。そして。


「フィー、切って」

「ガオオオオオ!」


 フィーが空間を切る。全裸の博士が落ちてきた。


「チクショウ、おいたんがアズキチャンを独り占めするんだ! するんだ!」


 ナイフを取り出し、投げつける。ブスリと刺さる。すると――。


「な、なんだこれは。切れたところがふくれて――アズキチャ。タスケ」

「これが半端な完全不老不死の現実。傷を治そうと過剰に肉が再生し、肉塊になるのよ。自分自身であずきは完全不老不死じゃないって証明したわね。私は不老ではあるけど、ある程度不死でしかない。じゃ、私は優しいからすぐに消してあげるね。過負荷重荷電ブーステッド・SAKURA粒子加速砲サクラ・フレア


 強烈な桜色の光が偽博士を包むと、偽博士は跡形もなく消滅した。




「勝った……」







「それで、負傷者とコアの数はどうなったんですか」


 ラウンジでパチパチ計算しているミカさんに聞く。


「それより、首と脳髄の取り替え手術? だっけ? それは上手くいったの? ウチはこっちで忙しくて詳細聞いてないんだけど」

「ま、手術者がおかーさんですから。ゴム含めて異物は全部取り除いてもらいました。ここになにかを移植するよりも、私が持っている不死性で回復させた方が良いってことで、少し休みますけど」


「そっか、よく休んでね。で、こっちは死者12名負傷者38名。巨人がかなりキツかったようね。コアは中型が1000個以上、超特大が1個、奇形コアが1個ね。置換素材は……沢山。死体はすぐに魔力結晶か魔力コアに置換して、岩はフィーの亜空間収納室に入れてゆっくり置換していく感じよ」

「フィー、そんなに入るようになったんですか」

「あなたが大型のゴミ箱を食べさせたおかげでね。奇形コアは偽博士が復活する要因になるってことでもう全部削っちゃったわ。ここのエリア――どこまでの範囲かはわからないけど――だけなら変異体は出ないと思うわ」

「そうですか。あー、寸胴型魔力結晶作成機は見せられないし、1000体以上の肉塊を置換する作業が待っているのかー。屍鬼がこないうちにやらないといけないし。中型魔のコアに置換すれば良いですよね?」

「それでいいわ。大変だけどそれが報酬だからねえ。契約が全ての作家先生が住んでる街だから、契約通りしか払ってくれないのよ。追加報酬は契約にないからないわ。唯一あるのはこれだけよ」


 そういってインプラントを見せてくれる。

 いったいなんだろう。


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