第12話 道楽者の幼馴染②

 ジラー伯爵邸の庭園に散らばる警官たちを見回しながら、帝都警察刑事部長ブラン・アルケインは苦々しい表情を浮かべた。


「面倒な事件が起きてくれたものね」

「刑事部長が直々に出張ってきたか。大物貴族や大物実業家が集まる場ともなれば、それなりに格の高い人間が必要と上は判断したかな?」


 レイクの推測が当たっていることは、ブランの表情が雄弁に語っていた。

 リンも賛同して頷いた。


「アルケイン侯爵家ともなれば誰からも文句は出ないでしょう」

「今回はシアソン侯爵家の人間が被害者だから、役職も家格も高いのを寄越さないと、帝都警察が本気だってアピールにならないのよね」

「古い貴族は下っ端だけ寄越されると怒るからね。“この私相手に平民の警官を寄越すとは何事だ”とか言う奴は未だにいる」


 ブランは過去にそんな貴族への対応を迫られた経験があったため、当時の記憶を思い出して遠い目をした。


 遺体を調べていたアーネスト・パイン二等捜査官が、立ち上がった。


「肺を撃ち抜かれていますね。この魔導拳銃が凶器に間違いありません」


 パインは小型の拳銃をブランに見せた。


「古い型ね。骨董品?」

「この邸にあった物だとジラー伯爵が証言しています。一階の娯楽室に展示していたそうです」


 魔導拳銃は通常の拳銃と異なり、魔力を流し込んで弾丸を発射する魔導器具の一種である。弾丸自体も拳銃の内部で魔力を凝縮して生成された物であり、魔力が枯渇しない限り発射が可能だ。また、発射音も小さく、近くにいなければ銃声を感知することは困難である。


 凶器の拳銃は手入れこそされていて綺麗だが、デザインから最新の魔導拳銃でないことが分かった。


「邸内にあった物を持ち出したってことね」

「それから被害者は即死ではありませんでした。撃たれた後もしばらく生きていたようです」


 パインは執事のウィルズの遺体がある場所の奥を指差した。警察が新たに用意した照明によって、石畳に垂れた血痕が露わになっていた。


「向こうで撃たれてからこっちまで歩いてきたみたいです。しかし、四阿まで来たところで息絶えたのでしょう。アデレイド・シアソンは四阿ここで撃たれたと思われます」


 四阿の床は真っ赤に染まっていた。しかし、ウィルズと比べると出血量が少ないことが明らかだった。


「アデレイド・シアソンの容態は?」

「病院へ搬送されましたが意識不明のままです」

「レイクが言うには、発見時には既に出血は止まっていたらしいけど」

「アデレイド嬢の友人たちの話によると、彼女は治癒魔術を習得していたそうです。どうやら気を失う前に自身で傷を塞いだと思われます。ただ、傷を治しても血液は戻りませんから……」

「それが彼女の命を繋いだのね。ここから先は彼女の体力が持つかどうか。あとは……」


 ブランは焼けた生垣を見た。庭師によって剪定された生垣の一部は見るも無残な姿となっていた。


「生垣が燃えた原因は何?」

「根元近くに焼けた煙草の吸殻が落ちていました。被害者が吸っていた物と思われます。遺体の傍にはライターも落ちていました」


 レイクはシーツの上に並べられた遺留品を見下ろした。

 煙草の箱、ライター、鍵束、手帳、ペン、ハンカチがあった。


 遺体から煙草の匂いが漂っていた。


「被害者は何故この庭園にいたのか知ってる?」


 ブランが離れた場所から捜査を見守っていた使用人たちに訊ねた。

 メイドのリリーが手を挙げて答えた。


「普段から仕事を抜け出して煙草を吸うことがよくありました。一時期は収まっていたんですけど、最近になってまた抜け出すようになって……」

「生垣に吸殻が落ちていたのは、撃たれた際に弾みで落としたのかしら?」

「恐らくは。生垣の傍に血が滴っていました」


 石畳に残された血痕の出発点は、吸殻が落ちていたすぐ隣だった。ブランは自分の推理に確信を抱いた。


 レイクは遺留品を見終えた後、遺体の右手を見ていた。傷口を抑えたと思われる手はべっとりと血が付着し、指先は薄い赤に染まっていた。


「さて……」


 ブランは先延ばしにしていた問題に着手することにした。彼女は薄い笑みを浮かべて成り行きを観察していたフラシアに話しかけた。


「ティンメル公爵、大変申し訳ありませんがお話を伺ってもよろしいですか?」

「そんなに畏まらなくていいよ。貴女との仲じゃないか、ねえブラン姉様?」


 フラシアがおどけて言う。

 かつての呼び名を口にされた恥ずかしさを、ブランは咳払いをして誤魔化した。


「いいえ、これも仕事の範疇ですから。それでこの拳銃を貴女が発見されたというのは本当ですか?」

「ああ、確かだとも。私がすぐそこで拾ったんだ」


 フラシアが指差した先は、四阿から東へ向かった位置だった。生垣の迷路の入口の一つがそこにあった。


「私はパーティの途中で会場が抜けた後、夜風に当たりながら庭園を見て回っていたんだ。そろそろ会場に戻ろうかと思っていた時に急に騒がしくなったから、何事かと思って皆が向かう方へ行ってみることにしたんだ。そして、迷路を出る直前に入口の辺りに落ちていたそれを見つけたんだ」

「貴女の他に誰かいましたか? アデレイド嬢やウィルズ、それ以外の人物を見ていませんか?」

「いいや、誰も見ていない。私は庭園の東と南側を見て回っていたんだ。四阿は来た時以外には寄ってない。その時にはアデレイド嬢はいなかった」


 そこでフラシアはあっと声を上げた。


「ああ、でも誰か一人来たな。南側を見ていた時に誰かの走り去るような音が聞こえたんだ。その時は気にしなかったが……」

「成程、分かりました」


 ブランの関心は再び凶器の魔導拳銃へと向けられた。

 彼女はジラー伯爵に訊ねた。


「この拳銃は誰でも持ち出せたんですか?」

「ええ、展示ケースに鍵はかかっていませんでしたので。高価な品でもありませんから盗む人間もいないと思って……」


 伯爵が答えると、レイクが口を挟んだ。


「普通は盗むような品じゃないだろうね。今回のような場合は除いて、だけど」

「レイクくん、それはどういう意味だい?」

「外部から凶器を持ち込めない場合ってこと」


 伯爵が訊き返すと、レイクは意味ありげに言った。

 リンは彼の言わんとすることを理解した。


「パーティの参加者は入場する前にボディチェックを受けますから、凶器の類は持ち込めません。だから、凶器は内部にある物を使うか、あるいは魔術を使うしかない。そうですね?」


 レイクの笑みが、満点の回答であることを示唆していた。


 ブランはリーヤ・マリガン三等捜査官に訊いた。


「マリガンくん、パーティが始まってから帰った客は?」

「警備員に確認してきましたが誰もいません。それから敷地内に誰かが侵入した痕跡もないとのことです」

「そう」


 ブランが溜息を吐いた。一番厄介な可能性が立ち塞がったことに、頭が痛くなりそうだった。


「つまり――まだ犯人は邸内にいるってことね」


 野次馬たちに緊張が走ったのを、レイクとリンは感じ取った。彼らは互いに顔を見合わせ、動揺を隠しきれずにいる。


 そんな中、アデレイド嬢の友人たちが叫び出した。


「犯人なんて決まってるじゃない! “破滅の魔女”よ!」


 一人がフラシアを無作法に指差した。

 フラシアは己を睨む令嬢を見つめ返すだけで、何も言わなかった。


「そうよ! 彼女がアデレイド様を殺そうとしたのよ!」

「そいつが銃を持っていたんでしょう!」

「お、落ち着いてください」


 マリガンが令嬢たちを落ち着かせようとわたわたする。彼はフラシアの様子を窺っていた。

 彼女は肩をすくめた。


「気にしてないよ。こんな状況なら誰でも混乱するのは当然だ。思ってもいないことを口走るのも仕方がない。どこかで休ませた方が良いんじゃないかな?」


 まるで意に介していない様子にマリガンはほっとした。それから数人のメイドが暴れる令嬢たちを宥めつつ、邸の中へ連れて行った。


 その後、ウィルズの遺体がシーツを被せられ運ばれていった。彼を良く知る使用人たちは何とも言えない面持ちで、その様子を眺めていた。

 リンは使用人たちの表情の中に悲哀が見られないことに気づいた。暗い顔をしている者はいるが、泣いている者は一人もいなかった。それどころか、もう一度視線で射殺そうとするかのように睨みつけている人間を見た。


「……」


 メイドのアンネだった。リンは彼女の瞳の中に害虫でも見るかのような明確な嫌悪感が滲んでいるのを認めた。

 ジラー伯爵は冷たい表情で、運ばれていく遺体を見ていた。

 ニルス・バドックは終始苛立っているようだった。


 リンは三人の男女の様子をじっと見ていた。




 華やかなパーティ会場には、様々な表情を浮かべた客たちがあちこちで固まって何事か話し合っていた。

 好奇、恐怖、不安、憤怒。

 そんな中、一人だけ普段と何ら変わらない表情の人間がいた。フラシア・ティンメルだ。


「皆不安そうなのに君だけは普段通りだな」


 レイクは会場へ戻ると、すぐにフラシアの元へ真っ直ぐ向かった。彼女は他の客たちから遠巻きに見られ、一人窓際に佇んでいた。

 リンはどうするべきか迷ったが、レイクの後についていくことにした。


「ここで冷静さを失ったところで何も解決しないからね。むしろ気を確かに持って臨むべきだ」

「そこは同意するけど、君の余裕は皆を不安にさせる原因になっているよ」

「難しい話だ。どう振る舞うのが正しいかな? 愛らしく泣き言を喚くとか? それとも、先程の御令嬢方のようにヒステリックに叫ぶとか?」


 レイクはその問いかけを受けて、しばし思考した後に首を振った。


「いや、止めておいた方がいいね。君のそんな姿想像したら寒気がしてきた」

「ご理解いただき感謝するよ」


 フラシアは嗤った。


「まあ、こんな状況は私にとって大したことじゃないからね。痛ましい出来事ではあるし、アデレイド嬢と死んだ執事は気の毒だと思うけど、それ以上の感情は抱かない」


 レイクの目が一瞬険しくなった。

 フラシアは顔を逸らすと、無表情になり弁解した。


「……冗談だよ、そんな怖い顔しないでくれ」


 そう言うと彼女は幼馴染を真っ直ぐ見据える。まるで心の中を見透かそうとするような目だった。


「さて、帝都警察はどう考えるだろうね? シアソン侯爵家が被害者である以上、中途半端な捜査は赦されない。長引かせるなんて以ての外だ。突き上げを食らったら、誰か適当な人間を生贄に仕立てるかもしれないね。たとえば“破滅の魔女”なんて都合の良い嫌われ者だ。帝都警察はいざとなれば私を標的にするかな? 誰も文句を言わないなら、それですべて片がつく」

「そんなことはさせない」


 二人の会話を黙って聴いていたリンは、レイクの声に怒気のような感情が籠っていることに気づいた。彼の表情を見ると、そこに静かな熱量が揺らいで見えた。


「実に頼もしい言葉だ。それが探偵としての君の矜持なんだろうね」


 リンはフラシアの口振りから、彼女もレイクの探偵稼業を知っているだろうと思っていた。

 そして、次に彼女が何を言い出すかも見当がついていた。


「それじゃあ、我が愛しの幼馴染に依頼しようじゃないか。早急にこの事件を解決してほしい。これまで様々な事件を解決してきた名探偵に私の命運を委ねよう。どうだい、引き受けてくれるかな?」


 フラシアの挑戦的な視線が、レイクを射抜く。

 彼はその視線を真正面から受け止めた。


「いいだろう、引き受けた」


 フラシアは笑った。




 レイクたちは応接間へと向かった。ここは警察がジラー伯爵の許可を得て仮の捜査拠点を設置しており、テーブルの上には紙や写真など資料と思わしき物が並んでいた。

 ブランはレイクが来るのを待っていたらしく、彼が部屋へ入ると紅茶を飲んでいた顔を向けた。


「来たわね。どうせティンメル公爵から事件解決を依頼されたんでしょう」

「とうに予想済みか。付き合いが長いと説明する手間が省けて助かる」


 昔からブラウエル侯爵家に出入りしていたブランは、レイクの性格も信条も十分に理解していた。彼女にとってレイクは優秀だが手のかかる弟分という存在だ。彼がどんな問題を持ち込んでくるか予測するのは朝飯前だった。


「……さっき長官から連絡が来たの。貴方宛ての伝言を預かってるわ」


 父親たる帝都警察長官直々のメッセージと聞いて、レイクは身構えた。


「“お前のことだから事件解決に向けて行動を開始しているだろう。承知とは思うがこれは非常にデリケートな事件だ。普段より一層の注意を払う必要がある。心してかかるように”――とのことよ」

「親心溢れる忠告が心に染み入るよ」


 ティンメル公爵、シアソン侯爵、クレファー伯爵、それ以外にも由緒ある貴族と平民の権力者等、数多くの著名人が今夜のパーティに参加している。対応を一つ間違えれば帝都警察の責任問題になりかねない状況だ。それにもかかわらず、ブラウエル侯爵はレイクが捜査に関与することを認める言葉を伝えた。レイクは軽口を叩きつつも、心の中で感謝を述べた。


 レイクは精神を研ぎ澄ませると、早速調査に取り掛かることにした。


「それで? 犯行が可能だった人物の絞り込みはできてるの?」

「アデレイド嬢とウィルズが最後に目撃された時刻がともに七時半頃で、火災に気づいたのが八時頃だから、犯行時刻はその間になるわね。参加者の多くはずっと会場にいたことが確認されているわ。使用人も客の世話をしていたり厨房を行き来していたりと、犯行が不可能な者がほとんどよ。犯行が可能なのは十名程度だったわ」

「その中で、アデレイド嬢やウィルズを殺す動機のある人間は?」

「四人よ。ジラー伯爵、ニルス・バドック、メイドのアンネ、そしてティンメル公爵」


 レイクは今夜出会った四人の顔を順に思い浮かべた。


「フラシアを除けば三人か。悪くない」

「犯人は最初から二人とも殺すつもりだったのでしょうか?」

「恐らく違うと思うわ」


 リンの質問に、ブランは否定を返した。


「まだ簡単にしか調べてないけど、アデレイド嬢とウィルズの間に接点はなかったわ。二人の共通の知り合いが関係者にいたという話も聞かない」

「犯人はいずれか一方を殺すつもりで後をつけたか呼び出すかして庭園で撃ち、そこへもう一方が現れたから慌ててそちらも撃ったってところか」

「その線で調べたところ、アデレイド嬢を殺す動機を持つのが、ニルス・バドックとティンメル公爵。ウィルズを殺す動機を持つのが、ジラー伯爵とアンネよ」


 リンはウィルズの遺体が運び出される時の、ジラー伯爵とアンネの表情を思い出した。伯爵は冷たい目で、アンネは嫌悪感を滲ませた目をしていた。


「フラシアについては分かっている。アデレイド嬢は性悪で有名だったし、他人の悪い噂を流すような人間だ。当然フラシアの“破滅の魔女”に関する誹謗中傷もあちこちでやっていた。正直今まで訴えられなかったのが不思議だ」

「魔導機関時代が来て落ち目になったとはいえ権力だけは持ってる家だもの。本気で事を構えたいと思う人もいなかったんでしょう」

「落ち目だから歯牙にもかけなかっただけじゃないかな?」

「それでも殺人の動機にはなり得るわよ。個人的には……違うと思いたいけど」


 ブランが目を落とした。リンは彼女の顔に何とも言えない感情の色を読み取った。

 だが、それを指摘せずに別の話題を振った。


「ニルスさんの方は? あの人もアデレイド嬢と何かトラブルがあったのですか?」

「アデレイド嬢の友人たちが言っていたわ。彼は以前アデレイド嬢に粉をかけて、肘鉄を食らわされてるのよ」

「ニルスさんがアデレイド嬢を口説いたんですか?」


 ニルスが気の強い女性を好むことはリンも知っていた。だが、たかだか子爵家のニルスが侯爵家のアデレイドを口説こうなど無謀もいいところだと思った。今の時代、貴族の地位も価値観も変わりつつあるが、バドック子爵家とシアソン侯爵家ではつり合いがとれないことは分かり切っている。ニルスがプレイボーイとして有名でも、アデレイドを陥落させるのは困難だというのがリンの見解だった。


「男の趣味なんてどうでもいいけど、貴女も予想している通りニルスはアデレイド嬢の友人たちの前でフラれて、大恥をかかされたらしいの」

「そのことを恨んで犯行に及んだってことか。ニルスは俺たちと会った時にはもう酔いが回っていたし、偶然展示室に入って目に入った魔導拳銃を勢いで持ち出したってのはあり得る話かな。じゃあ、ウィルズの方は? ジラー伯爵とアンネには、どんな動機がある?」

「ジラー伯爵の奥方が亡くなられているのは知ってる?」

「知ってるよ。三年前に事故で亡くなったんでしょ」


 三年前にバルドア区市街地で起きた貨物車の爆発事故を、レイクはよく憶えていた。

 ある日の昼下がり、市街地で魔導器具を積載した貨物車が発進しようとした途端、爆発し炎上した。原因は魔導機関に不具合があり、燃料として貯蔵されていた魔導結晶の魔力が魔導機関の外に放出されたことにあった。不運だったのは、放出された魔力が積載していた魔導器具に直撃し、誘爆を引き起こしたことだ。

 この事故で貨物車の運転手と、付近にいた通行人や店舗の従業員、客等が爆発に巻き込まれ、八名が死亡した。その中にジラー伯爵夫人と付き添いのメイドも含まれていた。


 妻を失ったジラー伯爵はしばらくの間何も喉を通らず、仕事にも手がつかない有様だった。

 見かねたレイクは知り合いの医者の伝手を頼り、信頼の置ける精神科医による魔術的治療を伯爵に受けさせた。その甲斐あって、伯爵は一月後に復帰することができた。


「その奥方の形見のネックレスが紛失したのよ。で、ウィルズが盗んだんじゃないかと疑われていたの。ギャンブルで借金を作っていたみたいで、ネックレスが消えた後に借金が片付いたと酒の席で口にしていたそうよ」

「本当に盗品を売ったなら調べれば分かるな。だけど、それが事実なら腹が立つ」


 死んだ伯爵夫人を知るレイクは憤りを見せた。


「アンネの方は一年前までウィルズと関係を持っていたらしいの。でも、今言ったように酒とギャンブルに金をつぎ込むような男だったから、関係が破綻したそうよ。ウィルズはアンネからも金を借りていたみたい」

「まったく、いつ殺されても不思議じゃないな」


 レイクは呆れかえるしかなかった。

 一方、リンは凶器に関心を移していた。


「凶器の魔導拳銃がいつ持ち出されたかは分かったんですか?」

「展示室に鍵はかけられていなくて、客向けに開放されているの。持ち出そうと思えば、いつでも誰にでもできた。最後に拳銃が確認されたのは昼間にメイドが掃除した時ね。ちなみに、展示室は庭園へ続く扉の近くにあるわ」


 説明を終えたブランは一息吐いて、再び紅茶に口をつけた。


「とまあ、今分かっているのはこれぐらいね。何から手をつける?」

「まずは現場をもう一度見たいな」

「いいわ、行きましょう」


 ブランは了承すると、レイクとリンを案内するため部屋を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る