第7話 襲撃、再び

けたたましいサイレンが艦内に響き渡る。

「状況を説明しろ。」

ノアの同僚が誰かに通信する。

『5時の方向、ヒューマン・フレームの反応!

 数は13機、そのうち一機は隊長機です!』

「……予想より早かったな。グズグズせずに発進す

 ればよかった」

『敵機から通信です!』

「繋げ」

ピッと音がして通信が切り替わる。

『聞こえるか、この艦の艦長!

 私はレブトアロン・トリギアルである。

 お前達の艦にいるアクト・フレームをかけて一対

 一の決闘を申し込む!』

「……は?」

「何いってんだコイツ」

続けて隊長であろう機体はこう言い放つ。

『ただし!そちらはアクト・フレーム一機で私と決

 闘をしてもらう!私が勝ったなら、大人しくアク

 ト・フレームを受け渡してもらう。だが!お前達

 が勝てば、この機を逃してやろう。尚、拒否する

 権利はお前達には無い!20分、準備の時間をくれ 

 てやる!せいぜい足掻くことだな!』

通信が切れる。

「……よくわからんが、その隊長様を叩けば見逃し

 てくれるって事か」

ノアがアクト・フレームのコックピットに乗り込む。

「俺が行く、お前はレイを任せた。」

ノアがシステムディスプレイを操作する。が、

「……何故起動しねぇんだコイツは?」

全く起動しなかった。

「アクト・フレームは生体認証が必要になる。

 しかも、一度登録すれば、死ぬまで変えられん」

「「はぁ!?」」

ノアとレットの声が重なる。

「つ、つまり僕じゃなきゃ駄目ってことですか!?」

「あぁ。だからノア。そこをどけ。」

「レイまで戦いにいかせるかよ!」

ノアが更に操縦桿を操作しようとするが、びくともしなかった。

(どうすれば……)

レットは思考が上手く回らない頭で必死に考える。

(……!)

声が、聞こえた。

誰かの声が。

「父さん。僕が行きます!」

「……駄目だ」

ノアは静かに否定する。

「声が聞こえたんだ。」

「声?」

「『全力で守るから、大丈夫だ』って。」

「「ッ!?」」

ノアとその同僚が絶句する。

「……レイ。」

ノアが静かに問いかける。

「その声が聞こえたのは、本当か?」

まるで無いことをねだるように、声を出す。

「うん。聞こえた。」

「……」

ノアが再び静まり返る。

「レット。」

「……うん。」

「いいか、今から言うことを守れ。」

「……うん。」

「絶対に生きて帰ってこい。」

「分かった。」

「……決まりだな。整備班!今すぐアクト・フレー

 ムの改修急げ!時間はないぞ。」

待っていたと言わんばかりに整備班が作業に取り掛かる。

「こうなりゃ、俺もレイを全力でサポートする。

 取り敢えず操作のマニュアルをパッとでいいか

 ら目を通しておこうか。」

「操作マニュアル……分厚くない?」

「そんなもんだよマニュアルってのは」

整備班から怒号に似た声が響き渡る。

「親方!胸部装甲大破してます!」

「付け替える時間はねぇ!」

「射撃武装もつけますか?」

「弾は使い切るなっつたろ!打撃剣だ打撃剣!」

「親方!バッテリー切れです!」

「急速充電モードだ早くしろ!」

もはやイジメではないか…?

いや、今はマニュアルだ。

「それで、ここをこうするとだな…」

長々と、ノアが解説を続ける。

なんか、とてもわかりやすくかった。


そして、時間が訪れる。

『再び敵隊長機から通信です!』

「繋げろ」

『時間だ!アクト・フレームを出撃させろ!』

「今から出る。焦るな」

ノアの同僚がレットに目線を合わせる。

正直、状況がよくわからないし、アクト・フレームってなんだ?って思う。

だが、今はあの声の言う通りにしたい。何故かそう思う。

「レット。いざって時は俺が相手してる間に逃げ

 ろ。いいな」

「分かった。それじゃあ……行ってきます」

アクト・フレームのコックピットに乗り込み、システムディスプレイの右下のボタンを押す。

低い遠吠えのような起動音と共にサイドカメラ、フロントカメラのディスプレイが投影される。操縦桿のロックが解除され、動きを確かめるように前後に動く。

『駆動系、正常

ヘッドカメラ、正常

関節機構、損傷

細部制御システム、正常

メインブースター、正常

推進剤 15%

姿勢制御スラスター破損

推進剤 3%

表面装甲、胸部装甲中破

火器制御装置、正常

制限装置、起動完了

火器換装システム、起動

全システム起動

アクト・フレームシステムデバイス

発動率12%

フレーム名:V.a.l.k.y.r.i.u.s』

システムディスプレイに表示された文字がしっかり翻訳されている。

「でも、名前読めないんだよなぁ」

だが、フレーム名は何故かもとの表示のままだった。

『レイ、俺も行くからな』

いつの間にかノアが量産機に乗り込んでいた。

「それじゃあ、行きます!」

獣は再び動き出す。

その瞳は蒼く輝いて。


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