第29話 例え話

「ここがルクス様のお部屋なのですね」


 フローレンスさんは、僕の部屋を見渡して楽しそうにそう呟いた。


「特に変わったものもないので、新鮮さが無くて少し申し訳ないです」


 僕がそう謝ると、フローレンスさんは首を横に振って「いいえ」と答えて続ける。


「この本棚にある本の数を見れば、ルクス様が日頃からどれだけ勉強熱心な方なのかわかります」

「僕はまだ何もできないので、できるようになるために精一杯努力しているだけです」

「ルクス様自身はお気づきになっていないかもしれませんが、ルクス様は貴族学校の中でも相当学力がお高いですよ?王族交流会が終わった後には剣を扱った授業も行われるとこのことなので、そちらの方も楽しみにしています」

「剣は勉強以上に苦手なのであまり期待しないでください」


 僕がそう言うと、フローレンスさんは微笑んでから、次に本棚の横にある花瓶に咲いている花を見て言う。


「こちらの綺麗なお花は、ルクス様がお育てになっているんですか?」

「はい、庭にある花とかは僕じゃないんですけど、自室の花ぐらいは自分だけで育てようと毎朝水をあげています」

「まぁ、とても素晴らしいです……ルクス様のことは知れば知るほど興味が尽きません」

「そう言っていただけて嬉しいです」


 フローレンスさんは、そのまま続けて楽しそうに僕の部屋を見て回ると、次に僕の部屋にあるベッドを見て言った。


「こちらのベッドもとても手入れされていますね、このベッドのお手入れもルクス様が?」

「貴族学校に通うまではそうだったんですけど、貴族学校に通い始めてからは日中に埃が被っちゃったりして手入れが難しいので、最近はシアナに任せています」


 僕がそう言うと、さっきまで楽しそうにしていたフローレンスさんは、少しその表情を落ち着けた。


「シアナさん……ですか」

「……どうかしましたか?」


 楽しそうにしていたフローレンスさんが突然落ち着いた表情になったので、僕はフローレンスさんの様子を窺うようにそう聞いた。

 すると、フローレンスさんは少し間を空けてから言った。


「いえ、何もありません……それはそうと、ルクス様」


 一瞬だけ落ち着いた表情をしていたフローレンスさんだったが、いつも通り優しく穏やかな表情に戻ると、僕に近づいて来て言った。


「この間の婚約の話、少しは考えていただけましたか?」

「え……?あ、あれはもしもっていう話では?」

「確かにもしもとは言いましたが、仮にも公爵家の令嬢である私が例え話だとしてもそのようなことを言うことには、とても大きな意味を持っています……そして、私はルクス様とであれば本当に婚約してもいい────いえ、婚約したいと考えています」


 フローレンスさんと僕が……婚約!?

 例え話じゃなくて、フローレンスさんは本当に僕と婚約したいと考えている……?


「僕なんかと婚約なんて、フローレンスさんに申し訳ないです!もっと他にフローレンスさんに見合う人が────」

「私は、私の目で見て感じた上でルクス様と婚約したいと考えているんです、それに対して否定の意見を述べるのはルクス様の自由ですが、ルクス様が自らのことを卑下する発言をするというのは、同時に私の目を疑うことに繋がります」

「え……!?す、すみません、そんなつもりで言ったわけでは……」

「冗談です、今のは少し意地悪が過ぎましたね」


 そう言うと、フローレンスさんは優しく微笑んだ。


「ですが、ルクス様と婚約したいと考えているのは本当の話です……その気になっていただければ、いつでもお返事を下さい」

「……わかりました」


 さっきは驚いて色々と余計なことを言ってしまったけど、僕と婚約したいと思ってくれているのが本当なら、それと向き合わないわけにはいかないため、僕はそう返事をした。


「では、紅茶を淹れてお話しましょうか……本日は、私が紅茶を淹れさせていただきます」

「え……!?客人の方にそんなことさせられません!僕が淹れます!」

「私はご学友の家に来ただけなので、客人ではありませんよ……それに、ルクス様に私の淹れた紅茶をお飲みいただきたいのです」

「……そういうことなら、フローレンスさんの紅茶を飲ませていただきます」

「はい」


 そして、ティーポットを持ってくると、フローレンスさんがカップに紅茶を注いでくれたので、僕はそれを飲む。


「っ……!お、美味しいです!」

「良かったです」


 本当に美味しい……シアナの淹れてくれた紅茶と同等の美味しさだ。


「今後も、私の淹れた紅茶が飲みたくなりましたら、いつでも仰ってくださいね」

「あ、ありがとうございます!」


 その後、僕とフローレンスさんは僕の部屋で紅茶を飲みながら楽しく過ごし、外が暗くなる前にフローレンスさんには家に帰ってもらうことにした。

 フローレンスさんは少し名残惜しそうにしていたけど「今度は私のお家で共に時間を過ごしましょうね」と言ってくれた。

 フローレンスさんと過ごすのは、やっぱり楽しい────フローレンスさんがこの屋敷から出て十分ほどした後もそんなことを考えていると、僕の部屋のドアがノックされた。


「ご主人様、少しよろしいでしょうか」


 シアナの声だ……もう用事が終わったのかな。


「うん、いいよ」


 僕がそう言うと、シアナは部屋に入ってきた。

 そして、部屋に入った瞬間、シアナは眉を顰めて呟いた。


「この香りは……」


 そして、しばらく立ち止まった後、僕の方に近づいてくると、少し怒っているような雰囲気で言った。


「ご主人様、私の居ない間に女性を連れ込んだりしていませんよね?」



 この作品が連載され始めてから四週間が経過しました!

 この物語を読んで、いつもいいねや☆、コメントや感想レビューなどをくださり本当にありがとうございます。

 もしまだそれらをしたことが無い方は、この機会にこの物語を読んで感じていることなどを教えてくださるととても嬉しいです!

 作者は今後も楽しくこの物語を描かせていただきたいと思いますので、あなたも引き続きこの物語をお楽しみいただけると幸いです!

 今後もよろしくお願いします!

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