第28話 エリザリーナ姉様

「フローレンスさんを僕の家に……ですか?」

「はい、そしてできればルクス様のお部屋にお邪魔させていただきたいと考えています」


 フローレンスさんを僕の部屋────その前に、僕の家に招く。

 普段なら断る理由は無いけど、今日はシアナに信頼関係の薄い相手と女性のことを家に招かないようにと言われている。

 あれは、信頼関係の薄い相手、その中でも特に女性は家に招かない方が良いっていうことなのか、それとも純粋に女性そのものを指しているのか。

 僕がシアナの言葉の意図を考えていると、僕の様子を気遣うようにフローレンスさんが優しく言った。


「不都合がありましたら別の日でも構いませんので、そこまで深刻にお考えいただかなくとも結構ですよ」


 フローレンスさんがせっかく誘ってくれたのに、別の日にしてもらうのは忍びないし、何よりフローレンスさんはもう十分信頼できる人だ。

 シアナだって、フローレンスさんなら家に招いても大丈夫だと言ってくれるだろう。


「わかりました、今日は僕の家で一緒に時間を過ごしましょう」

「ありがとうございます、ルクス様」


 フローレンスさんの申し出を受け入れると、フローレンスさんはとても嬉しそうに笑顔を見せてくれた────けど、その後で満開の笑顔から少し微笑むぐらいのいつもの表情に落ち着くと、フローレンスさんが言った。


「……ルクス様のお家となると、やはりあのメイドの方も居らっしゃるのですか?」

「普段ならそうなんですけど、今日は用事があるみたいで、少なくとも夕方の間は帰ってこないみたいなんです」

「っ……!そうですか」


 フローレンスさんは、目を見開いて驚いている様子だった……フローレンスさんがあんな表情をするのは珍しい。

 もしかして、フローレンスさんはシアナと話したかったりしたんだろうか。


「シアナが居た方が都合が良いなら、今日でない別の日ならいつでも居ると思うので、別の日にしますか?」

「いえ、本日で結構です……このような機会に恵まれるとは……」


 僕には聞こえない声で何かを小さく呟いていたみたいだったけど、とりあえず今日で大丈夫みたいだ。

 その後、貴族学校から出た僕とフローレンスさんは、一緒に馬車に乗ってロッドエル伯爵家の屋敷へと向かった。



◇シアナside◇

 王城内の廊下を歩きながら、ドレスを着たシアナと黒のメイド服を着たバイオレットが互いにしか聞こえない声で話していた。


「ルクスくん、そろそろ貴族学校での講義も終わって屋敷に帰ってる頃かしら」

「そうですね」

「……気のせいだと思うけれど、やっぱり少し不安が────」

「あれ〜?フェリシアーナだ〜」


 シアナが何とも言えない不安を胸に募らせていると、その不安とは正反対な明るい声が廊下の奥から聞こえてきた。

 そして、その人物はシアナたちの目の前に姿を現す。

 その人物は、明るいピンク色の髪の毛を二つ括りにしていて、胸元を露出させた服と、スリットのスカートを履いていた。


「……エリザリーナ姉様、お久しぶりです」

「……第二王女様、お久しぶりです」


 シアナとバイオレットは、第二王女エリザリーナに対してそう挨拶をする。

 すると、エリザリーナはまたも明るい声音で話し始めた。


「二人とも久しぶり〜!半年ぐらい前まで伯爵家の男と婚約したいなんてフェリシアーナらしくもないこと言ってたけど、最近は大人しいね〜!もしかして、その男に振られちゃったりした〜?それとも考えを改めたの〜?」

「エリザリーナ姉様には関係の無い話です」

「そうだね〜!でも、もしそうだとしたら大事な妹のことを振った男のことは許せないから────その伯爵家の男の名前、教えてくれない?」


 エリザリーナがシアナに近づいてきて耳元でそう囁いた時、シアナは殺気の込められた表情でエリザリーナのことを見て冷たく言った。


「彼に何かすれば、エリザリーナ姉様でも容赦しないわ」

「わ〜!怖〜い!でも────」


 エリザリーナは、シアナに虚な目を向けて言った。


「私と本気で争って、勝てると思ってるの?」

「彼に危害が及ぶようなら、私は手段を選ばないとだけ伝えておくわ……行きましょう、バイオレット」


 それだけ伝えおえると、シアナはバイオレットと共に玉座へと向かった。

 そして、一人廊下に残されたエリザリーナは、目に明るさを取り戻して口角を上げながら呟く。


「あのフェリシアーナをあそこまで惚れ込ませる男がこの世に存在するなんて、ちょっと驚いちゃった……伯爵家にもとんだ悪党が居るみたい────せっかくだから、今度暇つぶしにそのフェリシアーナが惚れ込んでる男探してみるのもアリかな……どうせ、私が誘惑すればその男だって────はぁ、どこかに私の婚約者に相応しい、物語に出てくる王子様みたいな男居ないかな〜」


 そんなことを呟きながら、エリザリーナは軽い足取りで廊下を歩いて行った。



◇ルクスside◇

 貴族学校から馬車に乗ってロッドエル伯爵家に到着した僕とフローレンスさんは、一緒に僕の屋敷へと入った。


「外観も素晴らしかったですか、屋敷内もとても素晴らしい装飾が施されていますね」


 僕の部屋へ向かう道中の廊下を歩きながら、フローレンスさんは建物を見渡しながらそう言ってくれた。


「ありがとうございます……でも、フローレンスさんの屋敷の方がすごいんじゃ無いですか?」


 前はフローレンスさんの屋敷の庭だけで屋敷内に入ったことは無かったが、フローレンスさん自身が建築に力を入れていると言っていたから、おそらく僕の屋敷よりもすごいんじゃ無いかと思ってそう聞いてみる……すると、フローレンスさんは少し考えた素振りを取ってから言った。


「どうでしょうか……今度、フローレンス家の屋敷内に入ってみますか?」

「え?良いんですか?」

「はい、是非」


 そう言って、フローレンスさんは僕に穏やかな笑顔を見せくれた。


「そういうことなら、僕も是非お邪魔したいです!」

「ルクス様のお部屋という楽しみが目の前にあるのに、さらに楽しみが増えてしまいました」


 そんな会話をしていると、あっという間に僕の部屋の前に到着したので、僕はそのままフローレンスさんのことを僕の部屋に招き入れた。

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