第27話 留守

◇ルクスside◇

 王族交流会が三日に迫った今日、朝貴族学校に行く準備をしているとシアナがどこか申し訳なさそうな表情で話しかけてきた。


「ご主人様……少し、よろしいでしょうか」

「うん、どうしたの?」

「本日、ご主人様が貴族学校から屋敷に帰ってくる夕方ごろ、私は用事があって屋敷を留守にしているので、ご主人様のことを出迎えることができません……そのことを、先に謝らせていただきたいんです……申し訳ありません」


 申し訳なさそうな表情をしているのはそういうことだったんだ……いつも思ってることだけど、シアナは本当に真面目だ。

 僕は、申し訳ないという表情をしているシアナに言う。


「シアナはいつも朝には見送ってくれて、夕方には僕のことを出迎えてくれて、他にも紅茶とか部屋の掃除とか色々助けてくれてるから、一日家を空けるぐらい気にしなくてもいいよ」

「ご主人様がこのことを気にするような方でないことはわかっているのですが、ご主人様のことを出迎えることができないのが、申し訳ないのです……」


 申し訳ない……か────そういうことなら。


「それなら、今日の夜は久しぶりに二人でゆっくりと話そう」

「ゆっくりと話す、ですか……?」

「うん、貴族学校に入ってからは色々と忙しくてシアナとゆっくり話すこともできてなかったからね……でも、出迎えられないことを申し訳ないって思ってくれるなら、代わりに今日の夜は僕の話し相手になって欲しいんだ」

「っ……!……ありがとうございます、ご主人様」

「僕はただシアナとゆっくり話したいだけだから、感謝されることなんて何も無いよ」


 嘘は何もついてない、シアナとゆっくり話したいというのは本当の話だ────でも、あくまでも僕の要望という形で夜シアナに話し相手になってもらえば、シアナは僕のことを出迎えられないことを申し訳ないと思う感情を代わりに僕の話し相手になるということで置き換えることができる。

 僕にとってもシアナにとっても良いことしかない話だ。

 その後、僕は貴族学校へ行く準備を終わらせると、いつも通り貴族学校に登校するために馬車前まで来た。

 そして、シアナもそれを見送りに来てくれた。


「すみません、ご主人様……あと一つだけよろしいでしょうか?」

「何?」

「今日の夕方は、私が屋敷に居ないので、もし屋敷の中でご主人様が何か危険な目にあった場合にご主人様のことをお守りすることが難しいです……なので、まだ信頼関係の薄い相手や、女性を屋敷に招いたりはしないようにお気を付けください」

「前のフェリシアーナ様の時は例外だったから、僕が個人的に誰かのことを屋敷に招き入れることは無いと思うけど、頭に留めておくね」

「ありがとうございます」


 そして、僕が馬車に乗るとシアナが僕の方に頭を下げて言った。


「行ってらっしゃいませ、ご主人様」

「うん、行ってきます」


 朝のシアナとの時間を過ごし終えた僕は、そのまま馬車に乗って貴族学校へ向かった。



◇シアナside◇

「やっぱり、ルクスくんは王の器ね」

「────そうですね」


 ルクスが居た時には姿を見せなかったバイオレットが、いつも通り黒のフードを被ってシアナの横に姿を見せた。


「ロッドエル様は、お嬢様の申し訳なさというものを、自分が夜に話し相手になってもらうことをお願いする形で自然と解消していました」

「あれはルクスくんにしかできない芸当よ、ルクスくんの優しさがあったからこそできたこと」


 シアナは、そのルクスの優しさを思い出して思わず頬を赤く染める。


「お嬢様が、ますますロッドエル様に惚れ込んでしまいそうですね」

「もうこれ以上無いぐらい大好きだと毎日思っているけれど、日が経つごとに際限なくその気持ちは大きくなっていくわ……」


 甘い声でそう言ったシアナだったが、次の瞬間表情を落ち着けて言った。


「でも、大丈夫かしらルクスくん」

「何がですか?」

「今日は王族交流会の件で、夕方じゃないと難しいって話だったから一時的に王城に戻ってお父様と話に行くことになったけれど、それにはあなたも付いてこないといけない……つまり、ルクスくんのことを守れないということよ」

「ロッドエル伯爵家にも護衛は居ますし、数時間空けるだけなのでそこまで心配なさる必要は無いのでは?」

「もしかしたら、ルクスくんが私の居ない間に女を部屋に上げたり────なんて、ルクスくんがそんなことするはずないわね」


 シアナはルクスのこととなると考えすぎる癖があることを自覚しているため、首を横に振って考えすぎることをやめ、メイドとしての仕事を再開した。



◇ルクスside◇

 今日の貴族学校での講義を全て受け終えた僕が席を立つと、その直後に隣の席のフローレンスさんが話しかけてきた。


「ルクス様、お時間をいただいてもよろしいですか?」

「はい、なんですか?」


 僕が席に座っているフローレンスさんに合わせてもう一度座り直すと、フローレンスさんは頬を赤く染めながら、珍しくどこか拙い口調で話し始めた。


「公爵家の令嬢として、男性にこのようなことをお聞きするのははしたないことだと承知していますし、私も初めての感情なので自分の中でも上手く処理ができていないのですが────本日、ルクス様のお家に私のことを招いていただくことは可能でしょうか?」

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