第52話   誕生日プレゼント〜?

 怪訝そうに尋ね返すノワールに、俺はうなずいた。


「そう、お前ら二人の手配書! 今ここにないのが惜しまれるくらいだよ。ルナはお前ら二人の似顔絵を、すっげえ細かくそっくりに描いてたんだぜ!」


「なんでボクとサフが指名手配されてるの? 描いたのはルナリア王子なの???」


 俺は事の経緯をノワールに話して聞かせた。そもそも俺が森からルナの城に侵入できたのは、あの手配書のおかげなんだよな。


「ふ~ん……ルナリア王子が、ボクとサフを餌にして、イオラをおびき寄せたんだね。で、罠にかかって捕まって、今に至ると」


「うう……まあ、そういうことになるんだけどさ。ともかく、ルナはお前らの顔をそっくり描けるくらい、めっちゃ大事に思ってるんだ。嫌いなヤツとか、興味のない相手だったら、あんなに綺麗に細かく写実できないと思うんだ」


「そんなに似てたの? ボクとサフの絵」


「おう。うちのチビたちも、キレイだキレイだって騒いでたぜ。俺も見惚れるくらいだった。ルナにとっては、罠に使う程度の小道具だったかもしれないけど、二人のこと大事に思ってなきゃ、あの細かさは無理だって!」


 ノワールが大きな目を丸くして、俺を見上げていた。しかも、ちょっとずつ赤面してゆくものだから、お、俺まで釣られちまったじゃねえか。


「ともかく、ルナとお前らの絆は、本物だと、俺は思うよ……」


「……うん……」


 二人してもじもじしながら、なんとなく窓から外を眺めると、窓を閉めたのに雄叫びがめっちゃ響いてきてびっくりした。


 ……ルナ、お師匠様と戦う準備をしてるのかな。俺、次にお前と会ったときにどんな感じでしゃべればいいの。俺のこと、敵側のスパイとかって警戒されてたら、どうしよう……。


「うんしょっと!」


「どっこらしょっと!」


 突然、背後から苦しそうな声が聞こえて、俺は飛び上がるほどびっくりして振り向いた。


 なんだなんだぁ!? 廊下いっぱいに、すっげーでっかいクマ(?)が歩いてるぞ!?


「ハァ~、なんで毎年毎年、こんなにでっかい動物のぬいぐるみなんか届けるんかねぇ」


「廊下に設置する俺たちの身にもなってほしいよな」


 兵士が二人がかりで、クマの両脇に体を差し入れて二人三脚ならぬ三人四脚で、廊下をずるずると進んでいる。うーわー、腰グキッてやりそう。もっと大人数で運ぶ系じゃね? 俺も手伝ったほうがいいかな、どうせ傍観してても「そこの若えの! 見てないで助けろよ!」とか言われるんだろうし。


「俺、ちょっと行ってくるよ」


「え? 押し潰されにいくの?」


「なんでそうなるんだよ。お前あの巨大なベアーを目撃して、なんとも思わねえの? 俺は今、超絶びっくりしてるんだけど」


「毎年のことだよ。ルナリア王子のお父さんが、お誕生日近くになると、届けてくれるの」


「へええ!??? ルナって、でっかいぬいぐるみを集める趣味があんの?」


「ないよ。でも、毎年必ず届くの。この上の階に、いろんな動物がいっぱいいるんだよ。泥棒も腰抜かすくらいに」


 俺も腰抜かす自信あるわ。えー……でも四階、ちょっと気になるな。いつか見せてもらおっと。今すぐはちょっと、俺のメンタルがいろんな意味で保たないかもしれないから、遠慮するわ……。


「ルナの趣味じゃない物を、どうして毎年ルナの親父さんは届けてくるんだ? まさか嫌がらせとか? それか、まだルナのこと小さな子供だとでも思ってるのかな」


「たぶん、そう。王様はルナのこと、小さな男の子だと思ってる。だから命の大事さを、ぬいぐるみを使って思い出してもらおうとしてるの。たぶんだけど」


「そう言えばさ、廊下に変な約束事が書かれた紙が貼ってあるのを見たよ。二つ、いや三つだけ約束事が書いてあったな。ルナに向けて、親父さんが書いてくれた感じだったけど、もしかしてアレが関係してる?」


「してると思う。たぶん」


 ええ~……この城の額縁に納まってる動物の骨たちを見れば、わかるだろ。ルナは妖精化が進んだ生き物と、そうじゃない生き物との違いを観察して、カルテに書いてるんだよ。ただ命を無意味に犠牲にしてるわけじゃないんだ。


 それに、今のルナには大きいぬいぐるみと対峙してる時間なんて無いんじゃないのか……? 最近、根詰めてるし……。


「ルナはさ、今すっごく忙しいんだろ。親父さんは、そのことわかってないのかな。これから妖精たちと戦うってのに、命の大事さとか、そういうの説くのって今じゃない気がする。ルナは人間側の勝利のために、戦おうとしてるんだろ? じゃあ、今は、集中させたほうがいいんじゃ……」


「イオラ……キミの口から、そんなに理解ある言葉が出てくるだなんて、ボク今すっごくびっくりしてる」


「え? お前、そんなにはっきりと驚きの表情、浮かべるんだな。意外だわ」


「今のイオラは、ルナリア王子の右腕、理解者、寵姫って感じがする。貫禄出てきた」


「なんでお前からも公認になるんだよ」


 意図せず外堀が埋まってゆくんだが。寵姫の貫禄だぁ~?


「おい! そこの若えの!」


 ひえっ! びっくりしたぁ!


 やっべ、重労働してる大人を尻目に、学生がぶらぶらしてたら絶対にどやされるってわかってたのに~、やらかしたわ。すぐに手伝いに行かなきゃ!


 って、うーわー! 運び手のおじさん二人が、倒れたクマの下敷きになってるー!


「助けてくれー!!」


「はーい!!」


 わりと命にかかわる大ピンチだったわ。


 けっきょくノワールが魔法で浮かせてくれてさ、壁際の、なんかちょうど人目に付く感じの、イイところに置いてくれたよ。それでー、来年からはノワールが運んでくれよって話になって、いいよって引き受けてて、その一連の流れに俺はめっちゃ爆笑してたわ。


 この世界に来てから、俺こんなに笑ったの初めてかもしれん。


「わーい、クマさんだー!」


「クマさん、ずっとここにいるの?」


 うわ、服の襟首からチビたちが出てきた。忘れてたぜ……。


「お前ら、絶対にこのクマのこと汚すなよ。たぶん、お高いだろうから」


「たかいのー?」


「クマさん、せぇたかいもんねー」


 四階のぬいぐるみ達も見に行きたかったけど、ハァ、あきらめるかぁ~。絶ッッッ対にこいつらが悪さするだろうから。


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