第45話   イオラは大好き?

 でも、ノワールに付き合わせるっつったって、具体的に何をだよ。俺、あんまりこいつのことよく知らないんだよな。自分のことほとんどしゃべんないし、そのくせ俺に質問ばっかりして、答えが気に入らないと無言で俺を責めるんだよな〜。


 ぶっちゃけ、こんな状況じゃなかったら、あんまり関わらないタイプだったかも。まあ、サフィールもルナも、俺が平凡に暮らしていたら絶対に避けて過ごしてるキャラだわ。三人ともけっこうキツイ性格してるしな、俺とウマも趣味も合わないし〜。


 は〜ぁ。天井にぶら下がってる手足でも眺めとこっと。リアルだなぁ、手の先には爪まで生えてるよ。


 リアルっつったら、やたらリアルだったなぁ、アルエット王子の夢。今までは、墓の下でアルエット王子が嫉妬に狂うあまりに、俺に変な夢を見させてるのかなって思ってたんだけど……なんか、違うような気がしてきたぞ。アルエット王子は、そういうことするキャラじゃない気がするんだよな……無邪気っていうか、周りの目を気にせずに思いっきりお師匠様に愛情表現する、そういう性格に思えるんだよな。悪く言えば、ウルトラ単細胞って感じ。


 俺の解釈違いかもしれないけど、でも……ドロドロした感情とは、無縁な感じがするんだよな、アルエット王子って。


 じゃあ、なんで俺にこんな夢を見せるんだろう。どの夢も俺と無関係じゃないような気がするんだよな、同じお師匠様の奥さんに選ばれた者同士、何か共通点があるのかな。


 えっと……お師匠様は、何か言ってたっけ? 俺を泉から呼んだ、とか言ってたような……俺とまた会えるのを、すごく楽しみにしてたとか言ってたような……ん? 会える?


 俺、以前もどこかでお師匠様に会ったのか? 全然覚えてないけど。


 ……亡くなってるアルエット王子、その王子になる夢を何度も見る俺、初対面のはずなのに、再会を喜ぶお師匠様。しかもお師匠様は、俺に一番目の奥さんの名前を付けてた。


 もしかして……俺はアルエット王子の生まれ変わり? なのかな。


 やばい……夜ってどうしてこんなにいろいろとぐるぐる考えちゃうんだろ。なんだか気持ち悪いことも考えちゃうし、あーもう、こんなんじゃ眠れないよ〜。


 そうだ、自称眠ったことがない嘘つきノワールに、話を聞いてもらうか。一人で抱え込むには、けっこう衝撃的な話だしな。


「なあ、ノワール」


「なぁに?」


 ……なんか向き合って話すの、ちょっと照れくさいかも。ノワールがまっすぐ俺を見つめてるっていうのが、また……それでも、こいつに文句言える奴は、この先も出ないんだろうな。だって、なんていうか、同じ人間じゃないような感じするんだよな、特にノワール。人間と仲良くしてくれてるだけで、実際は俺たちのことどう思ってるのか、誰にもわかんない、そんな感じの人外って感じする。


 その人外と、向き合って夢の話をしている俺も、相当メンタルやばいよな。なんか、いろいろ慣れちゃったんだよな、この世界ならあり得るかなぁって思って、何でも受け入れてら。


 このまま変化してゆく俺でいいのかな……。もうちょっと用心深くならなきゃだめかな、でもそうすると、まず目の前にいるノワールを一番怖がらなきゃいけないんだよな。


 今こうして、さっき見た夢の話を、真剣な顔で聞いてくれてるのに。


「イオラが、アルエット王子の生まれ変わり……」


「そう。自分でもバカなこと言ってるのはわかってるけど、そうなんじゃないかなって思う自分もいるんだ。俺の中にさぁ、アルエット王子だった頃の記憶が残ってるのかも」


「……そういう考え方のある宗派の国なの? ニーポンって」


「え? ……んーと、なんかいろんな宗派の人が住んでるよ。輪廻転生とか、信じてる人いると思う。俺は、宗教の話はよくわかんないんだけど、アニメとか漫画で、重要人物の生まれ変わりが主人公だとか、そういう設定のを見たことがあるよ」


「あにめ? まんが?」


「あ、えーと、娯楽っていうか、そういう書物っていうか」


「ああ、娯楽関連か」


 よかった、こっちの世界にも娯楽はあるんだな。漫画はまだないみたいだけど、この世界の人たち頭良いし、多分すぐに雑誌とか図書館とか作りそう。


「イオラの言う、生まれ変わりの文化は、たぶんルナリアやサフには伝わらないと思う」


「あー、それはなんとなく思ったよ。そういう考え方が、この国にはなさそうだし」


「うん、ないよ。ボクだってなんとなく、わかる程度だし。それと、イオラがアルエット王子になりきってる夢を見るのは、イオラがルナリアと交尾したがってる、ただの欲求不満だと思う」


「え」


「ルナリアと交尾して、赤ちゃん欲しいんだ」


 な、なんでそうなる……。こいつもサフィールみたいに、俺とルナをくっつけたいのか。俺は意図せず二人も味方がいるのか? いやこれ、味方されてるって状況判断でいいのか?


「あのな、妊娠したアルエット王子の夢を見ただけで、なんで俺がルナと子作りしたいと思うわけよ」


「イオラは、気持ちよくなりたいの? それとも、気持ちよくしてあげたいの?」


「……」


 なんだよ、その質問……。答えづらい心理テストみたいなこと、するなよ。


 すごく、恥ずかしいこと聞かれた気がする……。でも、すごく大事なこと突かれたような気もする……。今のは、ルナとどうなりたいかって質問だよな。ヤバイ、はぐらかしたいのに、一所懸命考えなきゃって、焦る自分がいる。


 気持ちよくなるだけなら、胎ん中掻き混ぜられるだけで、俺は何度も失神してた。


 だけど、ルナは気持ちいいのか?


 お師匠様の指でも、冷たい器具でもなくて。ベッドでルナが気持ち良さそうに目を細めて、俺を見下ろして……うーわ、かなり嬉しいかも……。


「耳、赤い」


 ! ……。


「イオラ、やり方わかる? ルナリア、きっとすぐに気持ちいいとこ責めてくる。イオラも腰を動かして、すぐに出さないように位置を調整してね」


「サフィールの受け売り過ぎるだろ」


 俺が誰を好きになっても、そのまんまスルーされてほしいって気持ちもある。今すぐくっつけようとか、その、抱かれること前提で話を進められると、俺、どうしたらいいかわかんなくなる。


 ノワールの目の色、なんであいつとそっくりなんだよ……。


「俺、変だわ。胎のヤツが消えたら、もうルナに対してこんなこと思うのも、なくなるん、だよな……」


「わからない。ボクはイオラじゃないから」


 ……そういえば、前例がないんだったな、俺の腹の症状。なら、マジで誰にもわからないのか。アルエット王子は、もう故人だしなぁ。すぐそこに本人の墓石もあるし。


「イオラは、本当のことわかる日がくるの、楽しみ?」


「……んっと、わかんねえ……」


 嘘。全然楽しみじゃないし、怖い。


「俺、誰かをこんなに好きになったこと、なかったんだ。だから、全部ウソだったんだってわかって、そのあと、納得できる自信、なくてさ……」


「このまま、ルナリアを好きでいたい?」


「……でもルナは、そんなこと望んでないんだろ……」


 一方的にずっと好きだなんて、つらい。片想いしてる人って、毎日どんな感じで過ごしてるの? チケットすら滅多に取れない人気アイドルとか、海外のすでに亡くなってるアーティストとか……俺の場合は、同じ屋根の下の、異世界の王子様だ。


 遠いのに、すぐそこにいる。気さくに話しかけてくれるけど、身分的にも立場的にも全く釣り合わなくて、話もウマも合わなくて……。


 見た目はザ・王子様なんだけどなー、中身がド変態なんだよな……。失神してる俺を風呂場でオモチャにしたりとか、他にも俺が把握してないだけで、何かいろいろされてそうだ。


 でも、優しいところもあるし、見ず知らずの俺を匿う思いきりの良さもあるし……総合的に評価したら、イイ男のうちに入るんだろうか〜???


「うう、混乱してきた……。ルナのこと考えると、いつもわけわかんなくなる」


「じゃあ、今は、ルナリアのこと好き?」


「今ぁ?」


「そう、今、この瞬間」


 ……そんなの、お前もわかりきってるだろ。言わせようとしてる感が出すぎなんだよ。このまま素直に返事するのも、なんか悔しくて、しばらく何を言おうか悩んだ。


「最近、あいつやたらと忙しそうだよな。ちゃんと休めてるのかなーとか、そういうの心配になるくらいには、嫌ってないよ」


「ボクとサフは? 好き?」


「わかんねえ。でも頼りにはしてる。なんか強キャラ感が半端ねえし」


「好きってこと?」


「となりで寝られるくらいにはな」


 人外二人に挟まれて寝られてるの、よくよく考えたらヤバすぎじゃね。もう俺、手足縛られてないなら、どこだって寝られる気がしてきたわ。


「お前は? そんなに俺のこと好きじゃねーだろ」


「イオラは、サフと仲良しだから好き」


 めっちゃ意外な返答きたわ。俺に対して、にこりともしないくせに。


「サフね、両親がいないの。半分妖精だし、周りには普通の人間のフリしてなきゃならないし、お姫様として綺麗にしてなきゃならないし、大好きなルナリアの力にもなりたいし、いろんな事しなきゃならないの。毎日すごく忙しくて、それが本当にサフ自身がやりたい事なのかも、もうわかんなくなってるの」


「……」


「サフ、頑張り屋さん。だから手も抜かないし、抜けない。普通の生き方をしたことないから、普通の人みたいに、生きられない。でもイオラは、当たり前のようにサフとお話ししてくれる。だから大好き」


 あくまで基準は、サフィールへの態度の良し悪しなんだな。


「イオラ、またいろいろ聞くから、いろいろ聞かせてね」


「うん……」


 ……で、お前は何者なんだよ。眠くなってきたことだし、また明日に聞けばいいか。


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