第46話   二度寝の悪夢(性描写有)

 水草が浮いてる……見上げると、原始的で好き放題生い茂る大森林が、雲一つない青空へとたくさんの手を伸ばしていた。


 水浴びしてる……?


 もしかして、と思って後ろを振り向くと、やっぱりだ、白い尻尾が生えてら。俺またアルエット王子になってる。


 変なの。そんなに興味のない故人の体に何度もなりきる夢って、みんな見るものなのかな。なんか俺だけな気がするんだけど。


 あ、そうだ、お腹は? すぐには動けないほど大きかった、あのお腹は……おそるおそる見下ろすと、ぺったんこだった。


「ママー! ママママママー!」


「ママ、パパが来てるよー!」


 お、チビたちも元気だな……って、数が多い!! 泉の浅瀬にびっしりいるー! 豆のようだった身長が、大きめの栗ぐらいに成長してる妖精もいるな。年長さんと年少さんクラスに分けることができそうだ。


 え……アルエット王子って、今まで何個ぐらい卵生んできたんだ? 一個につき、千匹くらい孵化するとか? う、想像したら、ちょっと気持ち悪い、かも。


 えっとー、お師匠様が近くに来てるんだって? 何か用事かな。きょろきょろと捜してみると、森の茂みをガサガサ鳴らしながら、すっかり淡い水色カラー(夢カワ系だっけ? 女子が言ってた気がする)なお師匠様が現れた。むきむきの体躯がドリームなカラーになってて、お菓子の国から登場したみたいになってる。黒々としてたタテガミが、ソーダ味の綿菓子みたいになってる。


 アルエット王子がめっちゃ嬉しそうに、お師匠様に向かって片手を振った。自分だけが名付けたお師匠様の名前を、たくさん呼んでたよ。この名前で呼んで良いのは、きっとアルエット王子だけだ。俺は絶対に使っちゃダメなヤツだ。


 ……なーんか、お師匠様がそわそわしてるぞ。周辺をうろうろしてる。


 でも、何度も何度も名前を呼ばれて、たぶん水浴びをする予定じゃなかったお師匠様も、泉の中に入ってきた。


 小柄なアルエット王子もバシャバシャ泳いで、お師匠様の腕の中にゴールインする。


「大好き!」


 声にも全身にも、弾けんばかりの愛がいっぱい詰まってた。


 ルナがさー、俺とアルエット王子が誰にでも発情するんだとか決めつけてたけど、絶対違うよな。どの夢にだって、お師匠様とのイチャイチャっぷりしか登場しないし。アルエット王子が浮気したりとか、他の妖精になびいてる様子は、全然ねえな。ってか、お師匠様との間に割って入れねえ。そんな勇気のあるヤツも、この森にいないだろうしな。


 やっぱり俺もアルエット王子も、誰かれ構わず恋なんかしてない。ちゃんと選んでるんだ。それがわかって、なんかホッとした。


「ふふ」


 屈託のないアルエット王子が、初めて恥じらいだ笑みを浮かべた。変なのー、背中に乗ったり抱きしめたり、キスしたりと、ノリノリで積極的に愛されに行くアルエット王子が、抱き上げられた程度で、こんなにもじもじするか?


 お師匠様はアルエット王子を抱えたまま、水辺から出てしまった。水の滴る裸の王子を、すぐ近くの小さな花がたくさん咲いてる花畑に下ろした。


「ママ!」


「ママー!」


 水辺や花畑で遊んでいたチビたちが、駆け寄ってくる。


 ……あのさ、着替えねえの? チビたちすら袋みたいなの着てるのに、アルエット王子はベタベタのままでいいの?


 四つある膝を曲げて背を低くするお師匠様に、アルエット王子が甘えるようにたくさんキスした。二人してたくさん、体を触り合ってた。


 体や種族の違いすら、愛しく思っているのが伝わってくる。たくさんお互いの体を撫でながらキスしていた。


 チビたちの前で、すっげえラブラブっぷり……。俺、自分の両親が弟たちの前でこんななってたら怒るぞ。せめて部屋でやれって言うわ。


 ……?


 アルエット王子が、花畑に手足をつけて、なぜか四つん這いに。さらに腰を高く上げている。


 ……え? 何してんだ? アルエット王子の大好きなお師匠様の顔、見えない体勢なんだけど。


 ほらぁ、後ろでお師匠様の戸惑ってる気配がするよ。俺だって、隣りにいたヤツに急にケツ向けられたら、びっくりするよ


「良いのか? 卵を生んでから、まだ日が浅いだろう」


「うん。お腹に卵がある間、ずっと我慢しててくれたでしょ?」


 二人の会話の内容が、よくわからない俺。お腹に卵がある間、いったい何を我慢してt…………血の気が引いたとは、まさに、このことだった……。


 そうだった、お師匠様は馬みたいな下半身してて、男性器も後ろ脚側にあって、おまけに硬くて重たい蹄まで生えてるから、交尾するなら相手にジッとしててもらって、なおかつ馬と同じようなポーズしててもらわないと、挿れづらいんだ……。


 うっ、腰掴まれた……うわ、当たってる……


 すでに卵を何個も生んでいるアルエット王子の入り口は、なんの抵抗もなく飲み込んでゆく……俺は全身に鳥肌が立ち、逃げようにも、この体はラブラブなアルエット王子、悦んで受け入れている。


 でも、意識は、俺なんだよ!!


 いいいいいやだいやだいやだ嫌だ嫌だ!! 夢でも嫌だ!! バケモノと交尾したくないい!!


 目ぇ醒ませ俺!!


 怖い! 怖いよぉ!!


 ってか、こんなに小さい体なのに、よくお師匠様の挿るよな! 胎ん中ほとんどメシベじゃんかよ! 他の内臓はどうしたんだよ、妖精化が進んだら今度は人間的な臓器が縮んじゃうのか!?


 ああ嘘嘘ウソ嘘 それ以上 奥やだ!


 アルエット王子も興奮してる 胎ん中ものすごくビクンビクンッて、待ってる 搾り取ろうと待機してる


 ひっ……!


 もう全部挿れる気なんだ……


 胎の奥が マジでヤバイ 圧っされて拡げられる感触 ちょっとハマりそう


 あと硬い 熱い! 胎ん中でお師匠様のが脈打ってて存在感がハンパない!


 夢なせいか、リアルな快楽はあんまり……? ただただアルエット王子の胎ん中が、完全にお師匠様専用になってることに、圧倒された。


 うぅ、後ろで お師匠様の興奮してる鼻息が聞こえる……王子を気遣ってるのか、乱暴な感じはしないけど、いつ理性のタガが吹っ飛ぶかわからないくらい興奮してる……


 大きな指がお腹を優しく撫でてくすぐると、アルエット王子が嬉しすぎて、すごく可愛い声で鳴いた。


 チビたちがなんであんなにオモラシーって連呼してたのか、ようやくわかったよ……。植物みたいな生態系してるチビたちにとっては、両親の受粉シーンは、兄弟が増える喜びと一緒なんだ。お師匠様もアルエット王子も体の作りは男性だから、オモラシしてるようにチビたちには見えたんだろう……。


 二番目の奥さん候補である俺のオモラシも、仲間や兄弟が増える証だから嬉しかったんだな……。


 あぁ こうやって分析して現実逃避してたのに、なんか 激しくなってきた


 やだやだやだほんとやだ!! 無理無理絶対無理!! アルエット王子はよくても、俺は嫌なんだあああ!!


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