第24話 依頼完了とお金の使い道



 地下施設の解体が終わり、教会でヨゼフに報告を終えると今回のスライム調査の依頼が完了した。


「ありがとうございました。今回の依頼は完了と言うことで問題ありません」


 ヨゼフは頭を一度下げて丁寧にお礼を言った。


「オッケー。そしたら、終わりで俺らを帰っちゃうわ」

「あなたはもう少し言葉を選びましょう」


 俺が軽く答えるとシャルがため息を吐きながら悩ましげに言った。とは言っても依頼が終われば俺らが村に滞在する意味もない。それでも言葉を選ぶ必要はあるかもしれないが、気にしたら彼女に負けた気がする。


「報酬はギルドに預けているので、拠点にしている街のギルドから受け取ってください」

「はい。わかりました」


 依頼報告は事前に依頼者がギルドに報告を渡しておき、解決すれば報告を依頼受注者に渡す仕組みだ。


「お金は後で貰うわ。まあ、リリムと仲良くやってくれ」

「もちろんです」


 俺が適当なことを言えばヨゼフは笑みを浮かべて答える。一緒にいたリリムは顔を赤めらせて照れている。とりあえず、幸せで何よりです。


「それでは、ヨゼフさん、リリムさん。私たちはこれにて失礼致します」

「またね!」

「じゃあなー」


 俺らは別れの挨拶をして村から離れてた。



 ✳︎✳︎✳︎



 村から帰り、ホワイトタウンへ戻ってきた。ギルドに立ち寄り、オリバーの元へとやってくると依頼の報告を終わらせる。


「そうか。地下施設にスライムが発生する原因があったのか。それで依頼人の問題は解消されたんだな。それなら報酬金を渡すが、まとめてシャルに渡しておくぞ」


 面倒くさそうに巾着に数えた金貨を詰め込んだオリバーが俺らに巾着を渡して言った。


「ありがとうございます。ありがたくいただきます」


 そう言ったシャルと受付カウンターから離れてギルドの待合席方面……つまり、酒場の方面にやってきて、適当な席に座ると俺は話を始めた。


「あんたにしては珍しいんじゃないか? 報酬金を受け取るなんて、慈善活動はやめたのか?」


 俺はシャルを煽るように話しかけると彼女は半目で俺を睨むと言い放った。


「今回は複数で受けた依頼だからですよ。だから、お金は三等分して、私の分は私が決めます。他は知りません。何にお金を使うのかは、あなたで決めてください」


 少し意外だった。報酬金の一部を返却する彼女だ。勝手に返却するのではないかと思っていた。


「あんたのことだから勝手に返却するのかと思ってたわ」


 思っていたら口に出ていた。すると、彼女は眉間にシワを寄せた。


「他人のお金を勝手に返すほど身勝手ではありません。あなたの勝手な印象の方が不愉快です」


 勝手な想像でものを語ってしまったのには悪い気がしているため、あまり反論できない。


「あはは。たしかにシャルは倹約家だからお金を使っている印象はないかも。今回の依頼で貰ったお金は何に使うの?」


 アリアが楽しそうに笑うとシャルに尋ねた。


 正直、俺もシャルがお金を何に使うのか不思議に思う。アリアが倹約家と言った通り、シャルが自分のためにお金を使っている時を見たことがない。


「そうですね。……何に使いましょうか」


 少し考え込んだシャルは迷ったように答えた。普段からお金を使うことがない彼女はこう言った時に何にお金を使うかわからないようだ。


「俺だったら酒かな。飲み過ぎると金がかかるからな」

「あなたみたいなバカな使い方はしたくありませんね」


 バカな使い方とは酷い言い草だ。他の冒険者は楽しそうに飲み合っている。他の冒険者は。(強調)


「アリアは何に使うんだ?」

「私はどうしよっかなー。剣と防具の整備と流行りの装飾品やお菓子かなー」


 顎に人差し指を置いたアリアは楽しげにお金を何に使うのか想像していた。


「まあ、女の子っぽくていいんじゃねぇの」

「女の子っぽいって、私は女の子だよ!」

「あー、そうだな。でも、そうじゃない奴もいるからな」

「それは私のことですか?」


 俺が意味深に答えるとシャルが不快そうに俺を見て尋ねてきた。


「……はぁー。ともかく、私は使い道がないので叔父さんに渡すと思います」

「それはあんたっぽいな。欲がない」

「えー、一緒に“カフェ”に行こうよ。最近、流行りらしいよ!」

「……アリアがそういうのなら行きましょう」


 カフェが流行りとは、随分と文明的だ。前世にもあった文明なだけに違和感はないが、身近な女子が流行りを追っていると妙なソワソワ感がある。


 これって、会話しない陰キャ特有なのかな。俺は前世でも人と会話しないタイプだったから、浮き足立っているだけかな。


「つーか、カフェだけじゃ報酬金を使いきらねぇだろ。貯めた分も含めてどうするんだ? オリバーが貯めてるんだろ?」


 俺がオリバーの貯金分も含めて訊ねると、シャルやアリアは考え込み、しばらくしたのちにアリアが思いついたように言った。


「あ、そうしたら、孤児院とか作ったら?」


 想像外のお金の使い方に驚いた。


「でも、たしかにな。これからお金を貯めていくなら孤児院を作ることを目指すのもありかもな」


 よくよく考えると彼女の慈善精神を思うとありかもしれない。


「なるほど。孤児院ですか。……一度、考えてみてもいいかもしれませんね」


 彼女の興味もあるのなら孤児院を作る考えはアリなのかもしれない。


 お金がどれほどかかるのか、作るのに何が必要なのか、どれほど時間がかかるものなのか、何も知らない。


 何も知らないけれど、金を貯め始めるところから始まるのはいい考えかもしれない。


「それじゃあさ! あの子に会いに行かない!?」


 アリアが楽しげに言うが、“あの子”が誰なのか俺にはわからない。


「ああ、たしかに良いかもしれませんね。あの人ならば手を貸してくれるかもしれません」


 いや、だから誰だよ。俺はその“あの子”を知らないんだよ。


「元孤児で勇者一行の女の子。魔写しの魔眼を持っているクレアだね」


 ……ほう。勇者一行だと説明してくれるのか、アリア。よく俺を思って話してくれている。

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