第十部 将軍との面会

「高本将軍…」

振り向いたら将軍がいた。

「…市左衛門、よく頑張ったな」

そう言い、頭を撫でてくれる。

「将軍…。私…」

「そなたは、過ちを犯してはいない。もうすぐ、合戦が行われる。一時、戻ってきなさい」

将軍は人払いをした。

この人だ。市左衛門が、恋しくてたまらなかった人は。

「将軍、私は…戻れるんでしょうか。あなたの土地の者を殺したこともある…」

将軍はため息をついた。軽いため息を。

「はあ…。今はそれどころではない。少しでも、人手が欲しい。そなたのような、武術に長けた者が欲しい。協力してくれないだろうか」

赦してはくれないだろう。

(それでもいい。この人のところに、帰れるのであれば…)

市左衛門の願いはそれだけだ。これの他に願いはない。

高本将軍はよわい二十一。

他の将軍と比べると、まだまだ若い。

それに、先代が急に亡くなられたため、人でも足りているか足りていないかだ。

(少しでも、役に立てれたら…)

「…私でよければ…」

笑顔は作れなかった。けれど、自分の意思を言えた。

「そなたの意思が聞けて、何より嬉しい。市左衛門。そなたは、私の部下だ。そなたがいやでなければ、私の部下を続けてほしい。今までのことは赦そう。これで、そなたが戻ってきてくれるのであれば…市左衛門?!なぜ泣いている!私がいやか?!赤月の野郎がいいか?!なら、止めはしないが、そなたが苦しむだけだと…。ーすまない」

市左衛門は首を横に振った。

「違います!将軍!私が真にお仕えしたい方は、あなたさまひとりです!!私だけは、絶対に裏切りません!」

この世に絶対などの言葉はない。

だが、信じてほしかったのだ。裏切らない、と。

「ありがとう…。市左衛門。私は幸せ者だ。そなたのような者がいて。…戻ってきてくれるか?」

将軍は手を差し伸ばした。こっちにおいで、と言うかのように。

「はい!おそばにおります!」

市左衛門は将軍の手を握った。

そのときだ。

「…将軍っ!!」

将軍の背後に、手裏剣しゅりけんがある。

(これは、よけられない!けれど、守らなければ…!どうしたらいい!)

と考えている間に、手裏剣が降りた。

「将軍!お怪我は?!」

「…大丈夫だ。そなたは?」

「私は大丈夫です」

(何者だ。将軍を堂々と狙う奴は)

「久しぶりですね。将軍。感謝してくださいよ?」

「…湊…」

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