第十部 将軍との面会
「高本将軍…」
振り向いたら将軍がいた。
「…市左衛門、よく頑張ったな」
そう言い、頭を撫でてくれる。
「将軍…。私…」
「そなたは、過ちを犯してはいない。もうすぐ、合戦が行われる。一時、戻ってきなさい」
将軍は人払いをした。
この人だ。市左衛門が、恋しくてたまらなかった人は。
「将軍、私は…戻れるんでしょうか。あなたの土地の者を殺したこともある…」
将軍はため息をついた。軽いため息を。
「はあ…。今はそれどころではない。少しでも、人手が欲しい。そなたのような、武術に長けた者が欲しい。協力してくれないだろうか」
赦してはくれないだろう。
(それでもいい。この人のところに、帰れるのであれば…)
市左衛門の願いはそれだけだ。これの他に願いはない。
高本将軍は
他の将軍と比べると、まだまだ若い。
それに、先代が急に亡くなられたため、人でも足りているか足りていないかだ。
(少しでも、役に立てれたら…)
「…私でよければ…」
笑顔は作れなかった。けれど、自分の意思を言えた。
「そなたの意思が聞けて、何より嬉しい。市左衛門。そなたは、私の部下だ。そなたがいやでなければ、私の部下を続けてほしい。今までのことは赦そう。これで、そなたが戻ってきてくれるのであれば…市左衛門?!なぜ泣いている!私がいやか?!赤月の野郎がいいか?!なら、止めはしないが、そなたが苦しむだけだと…。ーすまない」
市左衛門は首を横に振った。
「違います!将軍!私が真にお仕えしたい方は、あなたさまひとりです!!私だけは、絶対に裏切りません!」
この世に絶対などの言葉はない。
だが、信じてほしかったのだ。裏切らない、と。
「ありがとう…。市左衛門。私は幸せ者だ。そなたのような者がいて。…戻ってきてくれるか?」
将軍は手を差し伸ばした。こっちにおいで、と言うかのように。
「はい!おそばにおります!」
市左衛門は将軍の手を握った。
そのときだ。
「…将軍っ!!」
将軍の背後に、
(これは、よけられない!けれど、守らなければ…!どうしたらいい!)
と考えている間に、手裏剣が降りた。
「将軍!お怪我は?!」
「…大丈夫だ。そなたは?」
「私は大丈夫です」
(何者だ。将軍を堂々と狙う奴は)
「久しぶりですね。将軍。感謝してくださいよ?」
「…湊…」
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