第五部 違和感

如月 四恩きさらぎ しおんは違和感を覚えた。

仲間の神楽 陸都かぐら りくとに対してだ。

(仲間を疑うなんて、最低だな)

ないことを祈る。裏切られるだけは…。




(まだまだね、あの人)

同じく、忍者の桜木 綾華さくらぎ あやかも、違和感をおべえた。

この中で唯一、陸都が密偵だとわかったのだ。

綾華たちの指揮官役である、巫 かんなぎ わたるが陸都に重大な役目を与えようとする。

「待って」

陸都に与えられた役目は、味方の軍に密書を届ける、という大切な役目。

彼はきっと、この密書を味方の軍ではなく、敵の軍の赤月あかつき軍に渡すつもりなのだろう。それだけは防がなければ。

合戦の際にこちらの動きが、すべてわかってしまう。

赤月軍の兵は十三万人。こちらは十二万人と、かなりの差がある。

頭脳戦で行くしかない、という今、その作戦がバレてしまえば一貫の終わりだ。

(最初の戦いで、負けるわけにはいかない)

「どうしました?」

「…その役目、私に任せて」

みながぎょっ、とする。

「何を言う!敵軍の領域に入るんだぞ?!」

そんなことは関係ない。要するに、敵軍に渡るのを防止すればいいだけの話だ。

「君は女だ。この役目は危険すぎる」

また女だと馬鹿にされた。

「それは関係ないでしょう?!」

渉が関係ある、と答えた。

「なぜ…?」

「…女人は、男より力が劣る。馬鹿にしているわけではない。心配しているのだ。姉上のようにならないかと…」

「大丈夫。私はそこら辺のか弱い女じゃない。事情はわからないけど、完璧にやってみせるわ。任せて!」

綾華は渉の肩に手を置いた。

「そうだな…。君に、任せてもいいだろうか」

「もちろん!」

これで防止できた。

渉の言葉を聞いておけばよかった、と後悔することになるのは、このときの綾華にはわからなかった。

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