〖第十三話〗 司令勇者 あさひ

自分の体は光に包まれている。

なんだが心地がいい。


やがて薄まる光。


視界が晴れる。


ここはどこだ。


自分は誰だ。


何故ここに居る。


そんな当然の疑問。

何一つ浮かばないはずである。


何故か。

自分は転生したからだ。


だって疑問に思っても知らないところに行くのは当たり前じゃないか。

そんな事でこの勇者あさひは驚いたりはしない。




――――――――――――




「ここどこおおおおおおおおおおお!?」


「え?え?待って待って僕誰?えなんでここに居るの!?!?」



転生を知っていながら、転生するまでなんだかとても長ーく眠っていたみたいな、時の流れを感じる。

寝ると決めて昼寝した後にいざ起きた頃にはなんで寝てたのか覚えてない、そんな体験と似ている。


「服装は……パーカーって……勝手に変えてよ……気が利かないなぁ」


水色のパーカーに黒の適当なズボン。

とても異世界に来る格好じゃない。


うぅん……

あんまり説明もなかったけど……

転生って0歳からじゃないんだ、

てか転生じゃなくて召喚じゃん。


見たところ20ちょい下、17くらいだろうか。

適当に思い浮かんだ数字だが、前世だとこのくらいの背丈だったように思われる。


「これ……」


足の長さを見て気がついた。

足元にそれ自体が光っている巨大な青色の四角い魔法陣が描かれていた。

何やらルーン文字のようなものも陣の中に書いてある。


「凄いな……僕これで召喚されたってことか」


ざっと見回したところ木でできた民家の一室らしかった。

しかしなんだかボロく、窓も木の板が打ち付けられベットのシーツはとんでもなくスス汚れている。

まるで廃墟だった。


なんかこう……召喚なんだからさ、

王城とか聖堂みたいな華々しいとこでするもんなんじゃないの……?

ていうか……


「あの……誰か居ませんかぁ〜……?」


召喚者が、"いない"。


確かに自分はこの世界に召喚された。

だと言うのに肝心の呼んだ者がいないというのは、なんの冗談だろう。


「とりあえず出ようか……」


部屋を出ると異世界の家というか、創作で見た家というか、凄く現実感のない内装だった。

ログハウスのような建物だが、構造は素人目で見ても適当というかなんというか。

予想の範囲内だったが、随分と寂れている。

そこだけが予想外だった。


玄関のドア開けると外は昼間らしかった。

木々の騒めく音が聞こえる。


うーん空気が美味い。


結局自然溢れる空間はどこの世界であっても良いものだなと感じる。


んで一体全体ここは何処なんだ?


森だった。


外には元畑だったらしき柵で囲われた土地があったが既に花やら草で覆われている。


当たり前だけど人が住んでる感じじゃないな……


森の中に1軒、家屋があるのみで周りはとても入ったらタダで住まなそうな深い森林に囲まれている。


「なぁんでこんなとこ召喚されたかね……」


あれ?


一方向だけ草があまり伸びていない道があった。

この家から外界に出るための通路だろうか。


人いないっぽいし、もう出ていいよね……


真っ直ぐその道に続いた。


――――――――――――


「もぉぉおおおなんでこんな整備されてないの……」


かれこれ30分は歩いただろうか。

引きこもりだったあさひにはとても体力が持たない悪路であった。


自分の体力の無さに嫌気がさしたこと実に3回目のその時だった。

急に森を抜け少し下った所に集落があった。

相変わらずの木の家だが、畑も何かが実っており人の居住を感じる。


「や、やった……!」


自然と駆け足になる。

近づけばどうやら畑を歩く老人や、道で駆け回る子供たち数人が見えた。


「あの……!!すいませーん!!」


近くにいる野菜の入ったバスケットを持った女の子に話しかけることにした。


「……!!」


「え……!?」


絶句している。


別に驚くほどイケメンという訳でも有るまい。

あぁそうか、異世界人にびっくりしたのかもしれ……


「や、やめて……来ないで……」


バスケットをその場に落として、一目散に逆方向へ駆け出した。

それに連鎖するように駆け回っていた子供たちまで悲鳴をあげて逃げ出す始末だった。


「ちょ、ちょっと……!?」


まるで大悪党でも見たような顔つきだった。

まだ何もしていない。


へ……そんな悲鳴まであげなくても……


転生して早々に変質者扱いは堪える。

唖然としていると奥から歩いてくる3人組が居た。


一瞬にして悪寒が走る。


奴らは真っ直ぐに自分を見据え、隠す気もない殺意を、敵意をむき出しにしていた。


1人は小さめの本のような書物を、他2人は剣を握っていた。


「ファイヤバレット」


「ブレイド」


1人は書を開くと詠唱を、もう1人は剣を振り下ろし口を開いた。

四角の青い陣からは炎が、男が振った剣からは軌道に沿った透明な刃が飛び出す。


炎の球と斬撃が同時にこちらに向かってきていた。


お、おい……嘘だろ……

俺はこの世界に勇者として……


動けなかった。

あまりに唐突に訪れる拒絶に、理不尽に脳は動く指示を既に放棄して途方に暮れている。



ようやく避けなければタダでは済まないと悟ったその時にはもう眼前に炎は迫っていた。


「うぇ!?」


死を悟ったその時、急に建物の影に強く引っ張られて尻もちを着いたと同時に目の前を炎球と斬撃が通過していった。


誰かに引っ張られた様だった。

建物の脇にローブを深く被った背丈の低い何者かがそこに立っていた。


「ついてきて」


少女の声だった。

振り向いて走り出した後ろ姿にはしっぽが付いている。

獣人だった。


うわ……異世界っぽいなーーーー


数秒前に敵対されてたにしては呑気な感想なのは自覚している。

でも目の前で創作でしか見ない獣人が動いて話しかけてきたのだ。

ちょっと心躍る。


その後どれだけ逃げ回っただろうか1、2分程は後ろからの攻撃が周囲の家や壁に激突して轟音を発していたがどうやら諦めたらしい。


それでも獣人の少女は歩みを止めず遂には森に入っていってしまった。


「ね、ねぇ……君……もうあいつら追ってきてないみたいなんだけど……一体どこまで……」


もうとっくに息は上がっている。

何せ山を下って村について2分足らずで謎の三人衆にエンカウントだ。

そして逃げのランニング。

もう体が持たない。


「休む?」


ヘトヘトなのを見かねたのか獣人の少女は立ち止まってそう提案してきた。


「お、お願いいたします……」


近くの切り株に座る。

もう喉が干からびそうだ。


少女の方はまるで疲れていない様子だ。

恐るべき異世界人


「それで……君は……どうして助けてくれたの?」


「あのままだったら……貴方殺されちゃうから……」


まぁそうだけど……

成り行きってことでいいのだろうか。


「はぁ……全くなんであんなこと……」


別に畑の作物取ろうとした訳でもないし、若い子に声かけたのもこの見た目と年齢なら不審者とまではいかないはずだ。

別にやましいこともない。


「貴方が……転生者だから……」


獣人の少女が答える。


やっぱりそれしかないのか。

でも召喚された勇者に対してそれは酷い扱いというものだ。

理解ができない。


「で、でも僕は召喚されたんだ……狙われる意味が……」


「貴方……召喚した人に装備……貰わなかったの……?」


やっぱりそうなのか。

どうやら普通は召喚者がいて当然らしい。


「居なかったんだ。それで集落に行ったらあんな事に……」


「もしかして……不法召喚……?」


なんのことだかわからないがどうやらまずそうだ。

意味は知らないがあまりにも当てはまりそうで嫌な予感がする。


いやいや、呼ばれた側であって罪は無い。

もし該当するなら哀れな被害者として貰おう。


「とりあえず付いてきて、私の家なら安全」


再び歩き出した。

ちょっと休憩が足りないが、仕方がない。


「そういえば……君の名前は?」


「……アレーネ」


「そっか。僕はあさひ」


「ギフトとジョブは……」


ん?

なんのこと?


「そっか……後でね……」


なんか向こうで察したらしい。

後で説明してくれるということか。


――――――――――――


結構歩いた。

山道が険しく厳しい。

途中で気づいたのだが、自分はスニーカーなのに対して獣人の少女はボロボロな靴で石や土が明らか入りそうな穴まで空いている。

黒で目立たなかったが、ローブも凄く汚れていてなんだか生活の厳しさが伺える。


自分を助ける余裕などあるのだろうか。


「ついた」


少し開けた森の中の空き地らしかった。

かなりボロボロで窓の打ち付けられた板が目立つ家が見える。

畑らしき空間はもはや年月が伺える荒地と化して、かろうじて囲いとしてある柵だけが畑を象徴する最後の砦として余生を過ごしている。


ん?


え?


……


うおええええええええええええええ!!!!!?????


紛れもない。


そこは、自分が召喚されたあの建物だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る